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今年の演奏会ベスト5

2018 DEC 30 16:16:27 pm by 東 賢太郎

第1位

マリア・ジョアオ・ピリス最後の公演

第2位

マリア・ジョアオ・ピリス演奏会を聴く

第3位

アンヌ・ケフェレックを聴く

第4位

鈴木雅明/読響のメンデルスゾーンに感動

第5位

クリーヴランド管弦楽団演奏会を聴く(天皇、皇后両陛下ご臨席)

 

法学部卒ですから経済学を知らず、ウォートンで習って初めて知ったことがたくさんあります。会計学がそうで、簿記も知らなかったからそれも含めて英語でゼロからであって、いまだに会計用語は日本語の方をよく覚えてません。経済学でも「限界効用価値逓減(ていげん)の法則」なんてのでがそうで、英語で law of diminishing marginal utility というのですが、これも英語のほうがロジカルで数学的にわかりやすい。日本語は限界、効用価値、逓減の定義がよくわからんのです。一個でもわからんとロジカルにはわからない。それでアバウトにわかった気になる人は例外なくロジックに弱いです。

逓減と低減とどう違うのか?なにやらぼわっとした「文学的要素」が入る気がして、要はそんなものどっちでもいいのですが、この訳語を考案した御仁の趣味の問題であって、僕はそういうつまらない恣意の雑音が入るとロジカルな概念を理解できなくなる頭の構造なので英語のほうが断然よかったのです。逓減には低減にはない漸減という時間概念がはいるという工夫は評価するが、英語はそれをmarginal でロジカルに誤解なく示すわけで、その仕事をdiminishにはさせないのですね。それならなぜ漸減にしないの?と、まあ、この提案を含めて訳者のどうでもいい趣味としか言いようがない。僕は彼に何のリスペクトもないですから、そんなのを押し付けられることに頭が反発して学習意欲もなくなるのです。

要するに「ビールは一杯目が一番おいしい」なんですが、これは「とりあえずビール!」と居酒屋でやってる人は誰でもわかる。しかしビールが変化するのでなくの個々人の主観(満足度)が変化するので統計的に把握できませんから数学的概念として定量化(需要曲線)して微分してみようというインテリジェンスには当時感動すら覚えたものです。こういうインテリジェンスに満ちた「原書」を翻訳して手っ取り早くインフォメーションとして教えるのが日本の大学で、そのために明治政府が作ったのが我が東京大学なのでありますが、アメリカで教育を受けてみて、インフォメーションとして学習した学生が(そのこと自体は悪くはないが)どのぐらいそれをインテリジェンスに還元して日々の生活やビジネスに活用できているかというと大変に疑問に思ったものです。

それは「千人の第九」で音楽家でない多くの方々があのコーラスを大音量で力の限り唱和して、全員が一つになって感動して涙を流し、それは人間として大変に結構なことで何の違和感もないし、そういうイベントを企画した人たちや指揮者やオーケストラや裏方さんたちも讃えられてしかるべきなのですが、しかし、お客さんも含めて、そこにいたすべての方々が、終演後の拍手の何パーセントを Ludwig van Beethoven 氏のインテリジェンスに捧げていたか? 僕は疑問であり、この疑問は日本の大学教育への疑問と同根、同質であると確信するのです。

僕が  law of diminishing marginal utility のインテリジェンスを実生活で還元するとなると、ビールよりも(弱いから何杯も飲めない)、音楽でリアルに体感するわけです。なるほどこれは law であるわい、と。ブラームスの交響曲のレコードやCDを500枚も持ってる僕がどうして501枚目を買うんだろう?501杯目のビールですからね、utility (満足度)はほぼゼロですね、もう吐きそうだ。演奏会でブラームスの交響曲のチケットを買うかどうか?おんなじです。ブラームスに限らず、1万枚もレコード、CDのストックがある人間として、1万1枚目に対するモチベーションはもうあんまりないのです。だから僕は定期演奏会を2つ買って、プログラムを見ずに、「シェフのおまかせ」状態で通うしかない。見てしまうと「この曲はよく知っている。もう満腹。やめとこう」となって、行く気が失せるからです。

そういう中で、今年の演奏会ベスト5は上記になりました。1,2,5位は「定期」でなく自ら買ったもの、3位はいただきものでした。ちなみに5位は、演奏はぜんぜんで、偶然すぐお近くの座席におられた天皇、皇后両陛下に謁見できたことへの感謝ですね。平成の終わりの年にありがたき幸せでした。終演後の拍手は2019年4月30日で退位される天皇陛下に向けて、敬意をこめ、懸命にさせていただきました。

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Categories:______演奏会の感想

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