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「グレの歌」(読響定期)- カンブルランへの感謝

2019 MAR 15 22:22:32 pm by 東 賢太郎

指揮=シルヴァン・カンブルラン

読売日本交響楽団
ソプラノ=レイチェル・ニコルズ
メゾ・ソプラノ=クラウディア・マーンケ
テノール=ロバート・ディーン・スミス、ユルゲン・ザッヒャー
バリトン・語り=ディートリヒ・ヘンシェル
合唱=新国立劇場合唱団(合唱指揮=三澤 洋史)

これがカンブルランをきく最後になってしまいました。

メシアン「彼方の閃光」、「アッシジの聖フランチェスコ」(全曲日本初演)、 J.M.シュタウト ヴァイオリン協奏曲「オスカー」(日本初演)、デュティユー交響曲第2番「ル・ドゥーブル」、ヴィトマン クラリネット協奏曲「エコー=フラグメンテ」(日本初演)、アイヴズ、「ニューイングランドの3つの場所」

などはもう聴けないかもしれないし、

バルトーク「青ひげ公の城」、コルンゴルト ヴァイオリン協奏曲、ブリテン歌劇「ピーター・グライムズ」から”4つの海の間奏曲”、ブルックナー交響曲 第6番 イ長調 作品106、マーラー交響曲 第9番 ニ長調

も大変印象に残りました。陳腐な演奏は皆無でしたし、やはり何より「アッシジの聖フランチェスコ」は僕の50余年のクラシック歴のなかでも最上位の体験でした。

http://読響定期・メシアン 歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」を聴く

そして昨日のグレの歌。ブーレーズの録音で聴いていますが実演が初めてであり、心から堪能しました。トリスタンの影響がありありとあるのは和声がきれいに解決せず延々と旋律が伸びていくところです。解決は機能和声の宿命ですが、宿命から自由なこれを書きながらシェーンベルクは機能和声までも抜け出したくなって十二音に行きついたのかと思ってしまいます。

ワーグナーもどきであったとしても初期にこれだけの作品を独学の人が書いたという驚異を皆さんはどう思われるのでしょう。第3部は1911年とシェーンベルクが無調の領域に踏み出してから完成されましたが、第2部までとは和声の扱い方に不気味さが増していながら無調にはせず、なんとか木に竹を接ぐとならないように腐心した跡が感じられます。最高の音楽、最高の演奏でした。

僕がドイツに住んだのは1992-95年ですが、カンブルランは1993- 97年にフランクフルト歌劇場の音楽監督でしたから重なってます。当時は無名で、マイスタージンガーなどを聴いていますがピットの中だから姿さえ覚えてません。ご縁があったということですが、こんなお世話になろうとは夢にも思いませんでした。

彼でなければ絶対に聴けなかった曲を体験することはぞくぞくする知の冒険でありました。カンブルランの図抜けた指揮能力、読譜力、解析力、記憶力、運動神経、音楽へのdevotion(献身)は何時も驚異であり、自分が逆立ちしても及ばないことができる人を目の当たりにするのは無上の喜びでした。僕は人生において万事独学主義なのですが、極めて少数の例外がございます。教育界ではお二人だけ、駿台予備校の根岸先生(数学)と伊藤先生(英語)にそれぞれの領域で最高の敬意と感謝をささげており、クラシック界ではピエール・ブーレーズが唯一の先生でした。ここでもう一人、シルヴァン・カンブルランが先生に加わりました。9年間お疲れさまでした、そして、本当にありがとうございます。

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