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LPレコード回帰宣言(その2)-イコライザーカーブ-

2019 SEP 29 2:02:53 am by 東 賢太郎

CDが決定的にダメだと確信したのはバレンボイム/シカゴ響のシューマン交響曲第2番(DG)だ。最初この演奏をロンドンでCDで買って、一度だけ聴いてあっさりお蔵入りとなって忘れてしまった。その後帰国してたまたまドイツプレスのミント(美品)の中古LPを見つけたので購入して聴いてみた。これが素晴らしいのだ。同じ演奏と思えない別物である。

LPは音溝幅の物理的事情から高音過大のカッティングなことは周知だが、デフォルトのイコライザーカーブをEQで修正して聴くわけだ。カーブは全米レコード協会の周波数基準があるにもかかわらず各レーベル個性があるというのが定説だ。同感である。いずれにせよLPとCDはマスターテープと異なるカーブになるがDGのエンジニアがCDトランスファーでそれをいじったかどうかは不明だ。しかしシューマン2番におけるCSOの弦のボディ感、木管のブレンド、金管のバランスなどは明らかに違う。

ホールでも部屋でも同じく、オーケストラの場合でいうと、低域の音圧と締まりがないとその倍音と溶け合う中粋の色香がうまく出ない。弦の高域はきつくざらつき気味になる。パイプオルガンを野外で聴いたらと想像すればいい。教会のたっぷりした空気と反響による残響が倍音を共鳴させ混合するから、あの荘厳で色彩的な演奏が可能となるのだ。総合するならこのCDは高域が薄っぺらくチープで中粋の色彩に欠け、低域はブーミーで締まりがない。だからお蔵入りしたのであり、そのまま僕の中のバレンボイムの評価も下がってしまっていた。

それが本CDエンジニアによるイコライザーカーブ調整の固有の問題なのかCDというフォーマットの可聴域外カットのユニバーサルな問題なのかは結論できないが、私見では後者も少なくとも原因の一部であると考える。音として出てないものは機材で調整しようがないから、LP回帰するしかないのである。ひとつ課題があって、僕はリスニングルームを地下室として設計するにあたってアムステルダム・コンセルトヘボウの音を念頭に置いたから部屋に残響がある。スピーカーの生音にイコライジングしたカーブを自室の固有のアコースティックに合わせて再調整なくてはならない。ここは自分の耳だけが頼りだ。

オーディオには疎いので機材選択とセッティングはプロのSさんのご指南に頼ることになる。15年前にバイアンプにするためパワーを2台買ったときは自室で4機種を聴き比べさせてもらった。ドイツで買ったブルメスターを低音に、4度目にもってきてもらったホヴランドのストラトス2台を中高音に割り振って、うまく鳴らすのが意外に難しいB&W801Dが完璧に駆動した時の喜びは忘れがたい。これにブルメスターのプリ(500万したが)をつないだ音はもう他のものは聴く気しない天上の音色で、ヨッフムのブルックナー、ハイティンクのシューマンはコンセルトヘボウS席の気分となれて目的を達した。

ただ、一つだけ寂しいのはプレーヤー、カートリッジの選択がCDだと存在しないことだった。プレーヤー操作は面倒だがそれが楽しいということはあって、カートリッジで音が変わる(さらにはケーブルで)という泥沼にはまりだすと抜けられない。スピーカーケーブルはついに直径5cmのアナコンダみたいなのに落ち着いたが、たしかに音が変わるのは魔力で、オーディオファイルの方の気持ちはわからないでもない。

 

LPレコード回帰宣言(その3)-ショーペンハウエル-

 

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