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才能は遺伝で決まるという謎(その2)

2020 JAN 25 14:14:36 pm by 東 賢太郎

独立して今年で10年になるが、思えば、やってきたビジネスは全部海外に関わる案件である。日本のみで完結したものはない。僕はキャリアからして世界を見ている。その目で投資する「金の卵」と思うものは結果として海外にあったということであり、日本の良いものは外人の方が分かってくれたということだ。

それを日本に持ってくるには外国人と非常に面倒くさい交渉が必要だ。言葉や手続きだけではない、まず外人とのきっかけ作りが普通の日本人にはできないし、できても交渉が稚拙なら良い条件は引き出せないし、ヘタすれば騙される。相手はイメージとしてはトランプやゴーンのような連中と思っていただけばいい。

グッチ、エルメスなどを日本に持ち込んだ銀座のブティック「サンモトヤマ」の創業者、茂登山長市郎をモデルにした幸田真音の「舶来屋」が面白くてこのブログを書いた(洋モノ美しいもの好き)。彼は単身イタリアへ乗り込んでその案件を体を張って開拓してきた。その創意と度胸と苦労に大きな価値があるから、それに日本で提灯をつけただけの奴とは比べ物にならないほどお金が儲かった。フェアなことだ。ソナーで10年やってきたのはこの路線だったのかなとも思う。

たとえば、結果的にノー・ディールとなったのでもう書けるが、ユニバーサル・スタジオをソウル郊外に作るという2000億円級の壮大な案件があった。米国ー韓国の外・外案件なのになぜソナーに話が来たかというと、日本企業の出資が必要だったからだ。そこで有力企業のトップに掛け合って50億円集めた。僕も出資させてもらう条件を付け、インベストメント・バンカーとして極めて血の騒ぐ案件だった。

こういうのが来るというのはキャリアのおかげでもあるが、それ以前に、この手のものに血の騒ぐ人間であるからだと思う。命令服従やソンタクはしないが、血が騒げば地の果てまで飛んでいってでもやるスナイパーである。それを旧知の皆さんや新しいお客様に知ってもらっているということであり、かち合っても勝つ自信があるから競争相手はあんまりいないように思う。ソナーは畢竟、僕が血が騒ぐことだけやって10年存続してきた。

そこで考えるのは「血が騒ぐ」というのは遺伝であって、教えられないかもしれないということだ。まず、僕自身がそうなるように教育された記憶がまったくない。両親がどうして?となるようなことに自然と熱中して、結局、学校で習うことは何も興味がなく、血が騒いだものだけを「独習」してここまで生きてきた。熱中していた野球もゴルフも他人に習ったことはない、全部独習だ。

勉強もそうだ。大学受験で浪人して本気でやってみた結論が、英国社は興味がわかないということだった。だから捨てた。数学だけ血が騒いで公開模試で満点を取ったが、数学で食うほど頭は良くなく、文系の道はすべて興味ないことが入学してから発覚した。唯一、株式に関心があり、金儲けには血が騒いだから証券会社に入った。大正解だった。やはり血が騒ぐかどうかがキーだと得心する。

僕の強みは交渉力に尽きるが、こんなのは人に教わるものではない。勝たなければ殺されるぐらいの絶体絶命の修羅場をくぐって自分であみ出すものである。金融ビジネスというものはカネのにおいがすれば血に飢えたハイエナどもがぞろぞろたかってくるジャングルみたいなもの。そいつらを蹴散らすのは交渉力であり、自分を守る唯一の武器でもある。

綺麗ごとではない。表の理屈や理論や見栄のいいプレゼン資料はどうでもいい。それはお飾りで、実はかなりの部分が下準備と人間力による力関係で決まる。交渉の場で偶発的にアドホックに決まるなんてことはまずないのは数学の出来る人がその場のひらめきに頼ってないのとおんなじである。下準備8割、人間力2割のイメージだ。後者は、本番で予期せぬカードが出てきたときに脅し、なだめすかしで押し切るのに使うが、それがないとそもそもの下準備が浅くなるから話にならない。

ではその人間力とは何か?実は僕もよくわかっていないが、人そのもののこととしか書きようがない。営業本に書いてある「あなた自身を売り込め」なんて安サラリーマン用の教訓ではない。売り込める人はそんな本は読まない。読むような人はそもそも自身の商品価値がないからそんな文句を覚えて実践しても何も起きない。血が騒いでる人は誰かに価値がある。間違いなく売り込むことが可能だ。ペンタゴンが自分をハッキングした者を雇うのはそういう事だ。

僕が事実として商売させていただいているのは、恐らく、この仕事が向いているからであり、つまり血が騒ぐほど好きだからだ。それは野球や天文や猫が好きなのと何ら変わりはなく、そうなったことに理由は思い当たらない。つまり、生まれつきの遺伝的形質なのだとしか考えられない。先祖が横浜で外人に生糸を売って大儲けした。僕もその形質を継いでいて外人相手の商売で交渉がうまくなって、今も外人と商売している。たぶんそれだけのシンプルなことだろう。

自分が先祖由来の才能を使って生きていけるならそれに越したことはない。すべての人は姿形が違うように能力も千差万別だ。皆さん何か一つは必ずある。それを磨いたほうがどう考えても得だし、もっと大事なことは、苦痛にならないから壁にあたっても続けられるのだ。いえ、自分に能力なんてと思う人もあろうが、美点というのは自分で気がついてない人が多いのが事実である。そのまま老けてしまうなんてあまりにもったいない。

例えば、明るい人、笑顔が素敵な人というのは男女を問わずそれだけで才能だ。僕みたいにストレスまみれの人間はそういう人に安らぐから営業職に確実に向いている。ところが男社会ではそれが評価されない。プレゼン力が評価されるわけだ。それならばそっちで負けてなければ笑顔力で必勝ではないか。そう考えるのだ。僕の入試戦略はそれだ。英国社はできなくっていい、負けなければオッケー、それで数学で絶対に勝てる。こう思えば人生とても気楽になれるだろう。

就職に悩む若者はぜひ考えてみてほしい。どこに就職したら給料が高いか、安定的か、世間体が良いか、ブラックでないか、食うためにとりあえず働くなら何がお手軽か、そんなことは長丁場の社会人人生では、全くどうでもいい事であると断言してもいい。いっさい忘れて、お風呂にゆっくり入って自問してほしい。その仕事に血が騒ぎますか?と。

 

宇宙のすべては数学で理解できる

 

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Categories:ソナーの仕事について, 世の中の謎シリーズ, 若者に教えたいこと

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