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風雲急を告げそうなアメリカ大統領選

2020 NOV 17 0:00:43 am by 東 賢太郎

アメリカはセールスマンの国だ。いらない物をピカピカに見せて売りこめる者が成功する。その作業を「マーケティング」と呼び、ヘンリー・フォードが自動車の売りこみのために考案したとされ、MBAコースで教えている。

理論なのだから売りこむ物が自動車でもトマトケチャップでも何でもいい。もちろん、人間でも。

写真はウォートン・スクールで僕が1983年に使った「マーケティングの諸問題」という教科書だ。51のケースの31番目(下)が「ジム・トンプソン氏のイリノイ州知事選挙」だ。これぞ、人間を商品としたセールスマンの戦いである。選挙キャンペーンはそういう捉え方なのだ。授業で実際に候補者(生徒)をたてて喧々諤々の論戦が面白かった。僕はケチャップ班だったが、5人のチームで製品企画から事業計画案までリアルに作り、残りの全生徒を顧客や株主に見立てて売り込み(プレゼン)をする。ビンの形やラベルのロゴまで決めて大まじめだ。そこまでやるかという、いわばボードメンバーになりきる寸劇だが、顧客側もハインツ、デルモンテと比べて味はどう差別化したんだ、リサーチしたデータは何か、そんな値段設定じゃあ新参者はシェア取れないだろとまじめに突っ込んでくる。寸劇が盛り上がる。

この授業はずっとこの調子で、単位を取って何か「知識」を得るかというと特にない。得るのは質問攻めに立ち往生し、ケチャップはそう簡単に売れそうもないなと冷や汗をかいた苦い経験だ。内容はもう忘れたが我がチームは詰めの甘い所が各所にあり、みんな賢いから嫌なところを突いてくる。抜群に弁の立つインド人の「ああ言えばこう言う」のおかげで何とか切り抜け、こういう奴がCEOになって何百万ドルも稼ぐならもっともだと思った。30余年たってケッチャプ会社経営や選挙参謀に携わることはなかったが、何であれ何とかなるさというくそ度胸はついたから役には立ったということなのだろう。先生がどこをどう採点してるかはついに最後までわからなかったが。

トランプ、バイデンの選挙参謀たちもこれの応用編をやっていたわけだ。

冒頭に「いらない物を売る」と書いた。ここだ、アメリカ的なのは。いる物はセールスしなくても売れる。でも、セールスすればいらない物も売れる。ビジネスは売れてナンボだ。理屈はいい、とにかく売るのだ。

当時モーレツ企業の野村証券にいた僕にとって当然に響く話だったが、非常に新鮮だったのはセールスを理論化したことだ。理論に好き嫌いや思い込みはない。売っているケチャップの味が自分の好みかどうかは問題でない。経済学者ケインズが株で儲けるには自分の好みでなく「大多数の他人」の好みに乗ることだ(美人投票説)と説いたのに通じるし、弁護士が個人としては弁護は御免だという極悪人でも仕事として弁護できるのにも通じる。

但し、セールスにはルールがある。ウソはいかんということだ。ウソをついて損をさせると詐欺罪になるから事実だけを組み合わせて説得する。これはひとつの技術である。たとえばBS、CSテレビのCMにパターンがあることをお気づきだろうか。青汁やらお惣菜やらを「おいしいです!」と何人もユーザーが出てきて繰り返す。画面の隅の方に小さく「個人の感想です」(=ウソかもしれません)とテロップが付く。健康食品だと「効能を保証するものではありません」(=効かないかもしれません)と出る。どちらもウソはついてない。だって、おいしくなくても効かなくても、「でもそれ、ちゃんとお断りしてましたよね」(=合法的です)なのだ。

さらに高等技術として、医師が薬の効能を語って「専門家の意見です」と付く。「個人の感想です」と何が違うかというと専門家がしゃべっている点だ。同じく効かなくても免責になるなら「個人」と変わらないが日本人は「センモンカ」に弱い。はずれると権威は落ちるがお金をくれればリスク取りますという先生を根気よく探せば売れる方法だ。もっと巧妙なのは「筋肉を柔らかくする効果が報告されています」だ。「柔らかくします」ではない「報告されています」だ。報告なんかその辺の道を歩いてるおっさんでもできるから絶対にウソとは言われない。でも、テレビだからそんな詐欺しないよね(笑)で皆さん信用している。

トランプ大統領が「フェークニュースだ」とツィートする。これを放置すると「個人の感想です」(=ウソかもしれません)のCMを流した程度の信用供与をメディアであるツイッター社がトランプにしたことになる。そうしたくないという強い意志があるので「証拠がないこと言うな。フェークはお前だ」と削除してしまう。ツイッター社だけでなく、CNNを代表とする米国メディア産業にみなぎるこの意志(=トランプが嫌いだ)はとても強い。

なぜならその行為自体が中立的なメディアであることを放棄する自殺行為であり、大変なリスクを取ってまでしていることだからそう結論する以外に解釈はない。媒体をやめて主体になるというのは「定款変更」にも等しい重要決議であり、mediaは「medium=ミディアム、真ん中」の複数形(=媒体)だから自社の社員が殺人を犯しても淡々と他人事のように報道する。“だからこそ”、報じたことは常に真実だと信用されるのである。

メディアが主体になってしまうとその信用を全面的に喪失するだろう。なぜなら、何を報じても「ウソかもしれません」のテロップが聞き手の頭に自動的に流れるようになってしまうからである。「私はウソを申しません」は私がウソつきならば「言うことはぜんぶウソです」になる。だから、「お前はウソつきだ合戦」になると両者の言うことぜ~んぶウソかもしれず、「わけわからね~」になる。残念ながらこれが今のアメリカだ。民主主義がどうのなんて高尚な話ではぜんぜんない。第一、民主主義なんて完全なものかどうかすら誰もわかってない。アメリカ合衆国は民主主義で生まれた唯一の国であり、実験国家であり、その国でこういうカオスが生じたということは「アメリカの民主主義」がかくあるべし以前に「民主主義は所詮こんなもの」である可能性があるのだ。

ここからが本題だ。そんな不完全な民主主義に国家が身をゆだねようとするならば、雨が降ろうが槍が降ろうが、天地神明に誓って絶対に曲げてはいけない唯一無比の大原則がある。選挙の公平性、公正性だ。最高権力者を占いや世襲で決めるのでなく民の多数決で決めるのだから、「民の総意」(=獲得票数)を抽出する方法は厳正に管理され、結果に一点の曇り(疑問の余地)も残してはならないのはあまりに当たり前のことである。何故なら、それを信用して敗者は結果を潔く容認し、民主主義という不完全が必ずや生む「敗者に投票した多数の有権者」の不満を抑え、納得を得て、国家安泰に収まるからだ。もしも「曇り」があるために敗者が負けを認めないとするなら、それは民主主義の大原則に反することであり、敗者の非常識や往生際の問題などではぜんぜんない。

ではその「曇り」に実態があるのか、敗者の妄想や謀略なのか。いまだ確証はないが、メディアが妄想、謀略、非常識、往生際最悪をいくら報道してもウソかもしれませんが後ろで流れているのだから、言われた方も負けましたにはなりようがない。そんなに認めさせたいなら民主党が主導して数えなおしをすればグウの音も出ないはずなのだ、やましいところがないならば。

女性弁護士のシドニー・パウエルがこういう発言をしている。この人は前回の大統領選でオバマ、バイデン、ヒラリーがロシアで工作したのがプーチンにばれ、トランプの補佐官だったマイケル・フリンに罪をなすりつけようとしたのを顧問弁護士として救った切れ者だ。

「統計学的、数学的にあり得ない数字がバイデンに入った。証拠は山のようにある。発表したら人々は度肝を抜くだろう。連邦裁判所に提訴する。我が国の国民をターゲットに選挙結果を変えようとした。コンピューターの不具合か、何かは知らないが、何者かが改竄したことは間違いない。」

そして、「米軍の諜報機関がフランクフルトにあるドミニオン社(ミシガンなど全米28州の投票集計ソフト会社)のサーバーを押収した」というニュースも入った。バイデンにしか投票できない45万票を特定したらしい。

もうこうなると何が正しいのかさっぱりわからない。これもフェークニュース合戦なんだろうか。ただ、こういう本源的な疑問は残る。仮に数えなおしてやっぱりバイデンの勝ちなら、ごたごたは水に流してシャンシャンなんだろうか?そうはならないだろう、いや、なってはいけない。厳密には1票でも不正が見つかれば、勝敗はともかく、民主主義は成り立っていないからだ。

トランプは負けても4年後に向けて共和党内で影響力を保持すれば良しという拳のおろし方をするのだろう。パウエルは弁護士であり雇われればどちらの側でも有効な弁護をするだろう。ご両人とも、あのマーケティングの達人なんだから。他人の国の話であり、個人的にはニューヨーク株式市場が最高値を更新さえしてくれればどっちがなっても構わないが、これは「正義」の問題だという重要な論点は残る。世界の警察官で正義の味方だったはずのアメリカの本性が曲ってない事だけを祈る。

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Categories:政治に思うこと, 若者に教えたいこと

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