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思い出のレコード(パリ管の3枚)

2022 OCT 18 12:12:26 pm by 東 賢太郎

人間の細胞は3年でほぼ全部が入れ替わるそうです。ということは3年ぶりに会った人は実は「別人」なんですね、物理的には。でも誰もそうは思わない。思えない。なんたって、自分もそうなんですからね。同じことで、僕が応援する広島カープだって選手の顔ぶれを見るともう5年前とほぼ別な球団です。でも応援する。名前、ユニホームは同じだし、理由はいろいろありますが、それは皆さんわかってるのだから錯覚というわけでもない。集団は一個の生き物であり、構成するどの個人の個性でも意思でもないものが宿っている、少なくともそう見える、ということだと思います。

マケラ率いるパリ管弦楽団。結局、今日のサントリーホールのBプロもネットで買ってしまいました。数枚だけ残席があったのを見つけたからもうだめです。「海」の音が不満だったし、ラヴェルP協、火の鳥があきらめきれないしなんてのもあるんですが、それよりも大きな、やっぱり「広島カープ」と同じ衝動がある。つまり、「パリ管」が気になるんです。ひょっとしてもう聞けないかもしれないなんて考えだすと僕は後悔の方が嫌なんで行っちまおうになるタイプです。

なぜか。ブラームス1番、幻想、チャイコフスキー4番という、僕にとって終生の宝になる3つの交響曲をこのオーケストラのレコードで覚えたからです。もちろん同じ奏者は一人もいないけど、それでも初恋の人というのは残るんです。東京にいるのに会いに行かないなんてのは無理。こういう気持ち、ぴったりなのが英語にあるんです。

irresistible

不可抗力だってことです。抵抗する相手は「権力」もありますが「誘惑」の場面で使うことがけっこう多く、日本語なら「たまらないね」ですがそうは言ったもののやめる感じもある。英語は「どうしようもなさ」が強めで、そう意図的に伝える場面で、2次会のシメでラーメン屋の暖簾をくぐる時なんかぴったりです。

3枚のLPレコードを買ったのは高2あたりで、まだどっぷり野球づけだったころです。ベンチャーズの「スーパー・サイケデリックス」というLPがありまして、当時「サイケ」なるドラッグ系アルバムが流行ってました。火をつけたのはStrawberry Fields Foreverですね。ベンチャーズのそれも最初はこの曲で、彼らには珍しく大丈夫かってぐらい原曲に近い。しかしどうもいまいちでがっかりしてました。周囲が浮かれてたピンク・フロイドはまったく趣味があわない。そうこうするうち、レコード屋で見つけてしまったのです。「幻想交響曲」。なんと、クラシックにサイケがあったのか!しかもジャケット(右)が何とも妖しい。完全に騙されました。針を落として何だこれは!となったのです。「火の鳥」もカン違いで買ってガックリだったし受難続きでした。しかし、いま振り返ると、ベルリオーズは阿片自殺を図ったヤク中だったんでジョン・レノンと比べてなんらおかしくない。第5楽章のぶっ飛び具合なんてStrawberryも真っ青、サイケそのものなんです。

この幻想とブラ1はシャルル・ミュンシュがオケ創設時のパリ管を振った演奏でどちらも代表盤とされてます。しかしブラ1も真価を知ったのは後に出たフルトヴェングラー盤で、このレコードでおおっと思ったのは曲でなく盤の色が赤くて透明なことなんです(笑)。当時、雑誌のオマケなんかについてくるソノシートというふにゃふにゃの下敷きみたいなレコードがありまして、それも赤で透明で、その連想もあって音質の心配をしましたね。特に差は感じませんがそのせいか赤盤はすぐ消えてしまったんでこれと幻想はけっこうレアかもしれない。美品だし子孫がメルカリに出す危険がありますね。

チャイコフスキー4番は35才の小澤征爾の指揮です。5番はオーマンディ盤を買いましたが、パリ管というのに惹かれたのを覚えてます。しかしまだ高2です。フランス音楽にすら目覚めてないのにどうしてパリ管を知ってたのか覚えてませんが、5番より先に買ってるので4番(たぶん第3楽章)に興味があったこと、ジャケットが珍しい練習風景の写真で無用にパリやロシアに紐づけせず小澤にフォーカスしていて録音がよさそうだという印象を持ったことはあった気がします。彼がシカゴを振った春の祭典を買ったのもこのころ。当時の僕はそんなものでした。

パリ留学中の娘はパリ管はノーチャンスらしいですがオペラ座でフィガロを聞くらしい。うーん、そうか。ここで出てくる言葉が “irresistible” なんです。

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