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モーツァルト フルート四重奏曲第1番ニ長調 K.285

2023 DEC 9 7:07:19 am by 東 賢太郎

モーツァルト作品の天才的な瞬間は幾つも挙げられる。中でも、最も平易でシンプルな例がフルート四重奏曲第1番K.285である。

赤ちゃんやモーツァルトをまだ知らない子供に聞かせてあげるならこれだ。晴れてブルーに澄みきった秋空にぱあっと舞い上がるような冒頭。これぞ天馬空を行くだ。フルート以外の楽器は想像もつかないほどザ・フルートの旋律で、これだけ明るく爽快な気分の音楽というものはそうはない。

第2楽章は一転、短調になり、フルートは物憂げで悲しいメロディーを連綿と歌う。伴奏は渇いた弦のピッチカートでありどっぷりした暗黒に浸ることはないがバッハを思わせる半音階の悲痛が胸に刺さる。

奇跡はここからだ。

ロ短調の悲歌が繰り返して登りつめると、はたと途切れ、いきなりニ長調の秋空がばーんと戻ってくる。ここを初めて聴いた時の衝撃は忘れない。第3楽章は底抜けに明るいロンドで、悲歌とのコントラストは強烈。比肩するのはシューマンの交響曲第3番の終楽章が鳴った瞬間だけだ。

モーツァルト21才。マンハイムでの作曲にまつわる愉快でない経緯は父との手紙に記されている。「我慢できない楽器」と言いながらこんな神品を書いてしまう能力の物凄さに圧倒される13分だ。吉田秀和氏はフルート四重奏をモーツァルトの室内楽では最も軽いと述べているが、この1番はハイドンセット級の完璧な4声体による名品である。

 

ミシェル・デボスト(Fl)、フランス弦楽三重奏団。デボストはパリ音楽院管弦楽団首席奏者。最高に素晴らしい。これが僕のベストだ。

 

ピエール・ランパル(Fl)、アイザック・スターン(Vn)、サルヴァトーレ・アッカルド(Va)、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(Vc)

もはや望めない豪勢な顔ぶれだ。このメンバーを集めることは、仮にいま存在したとしても商業化が困難な現在では無理だろう。ランパルのギャラントで華麗な音。完璧な4声体を堪能できる耳のご馳走である。

 

オーレル・二コレ(Fl)、ニュー・イスラエルSQ。吉田秀和の解説入り。フルトヴェングラー下のベルリン・フィル奏者だった二コレにはランパルの華麗さとは対極で中低音に滋味深い暖かさがある。

 

ヨハネス・ワルター(Fl)、ドレスデン・カンマー・ゾリステン。ドレスデン・シュターツカペレのメンバーによる(1971年、ドレスデン・ルカ教会録音)。スイトナー時代、全盛期のDSKの古雅でいぶし銀の音がする。

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Categories:______モーツァルト

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