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カテゴリー: Jazz

オスカー・ピーターソンを聴く(Oscar, the Great)

2013 OCT 2 1:01:58 am by 東 賢太郎

いまあるプロジェクトの起草にとりかかっています。けっこう遠大なものであり、コンセプトだけはしっかりあるのですが各論に落とすのに苦労しています。毎日頭だけ使って完全に運動不足なのですが、占いによると今は運があるらしいので一気にやるしかありません。下手の考え休むに似たりです。

こういう疲れた時にいいなと思っているのが実はジャズです。頭の凝りがほぐれる感じがします。アメリカにいた時にジャズ好きの友人がいて、よくニューヨークで一緒にヴィレッジヴァンガードやブルーノートに行きました。そのどっちだったか忘れましたが、入ると暗闇にタバコの煙の中でもうステージが始まっていて、ドラムスの目の前のテーブルに案内されました。ステージといってもひな壇の上ではなく同じフロアなので、本当に目と鼻の先です。ちょっとトシの黒人ドラマーがビシバシ叩いていて格好いい。友人に「あれ、誰?」ときいたら「アート・ブレーキ―だよ」と教えてくれました。

いま久しぶりに聴いて元気が出るなあと感激したのがオスカー・ピーターソンです。彼の31Z0ZTZPKZL._SL500_AA300_The Trio というシカゴライブが僕は好きでよく聴きます。座席のグラスの音なんかが聞こえてきて、アメリカを思い出すのもいいんです。余談ですが、クラシックのピアノ・トリオは相棒がヴァイオリンとチェロだけれどジャズはドラムスとベースです。このレイ・ブラウン、エド・ティグペンとの定番トリオがいいみたいですが素人の僕には違いがよくわかりません。しかしとにかくピアノが上手い。代表盤のWe Get Request で彼はちらっとバッハを挿入していますが、グレン・グールド並の指の回りだからイタリア協奏曲でも聴いてみたかったですね。

2番目のスローなナンバー、In the Wee Small Hours of the Morning が実に素敵です。弾いてみたいなという曲です(まあ無理でしょうが)。印象派というのも少し違う、やはりjazzy としかいえない和音がちょっとクラシカルなムードの中にそっと香ってきてとてもいい。次のChicago は有名だけど、こういうのよりも Scrapple from the Apple みたいなノリの方が好きであります。この曲、クラシック的に言うと「対位法的」であって、そういう造りの曲は(おそらく)クラシックとジャズしかありません。旋律と伴奏和音という造りとは違う精密な音楽で、クラシックでもバロックでジ・エンドになりました。モーツァルトも大勢で見れば対位法的作曲家ではありません。

 

それにしてもピアノが上手い!どう練習したらこんなに弾けるんだろう。モーツァルトとい41k9mzzgx1L._SL500_AA300_うと、キース・ジャレットのはそう面白いもんではなかったけど、オスカー・ピーターソンのは様になる気がします。そういうタッチのピアノです。彼は腕だけでなく耳というか和声感覚が研ぎ澄まされていたであろうと想像します。というのはIn Tuneという、これまた僕の愛聴盤があって、これはザ・シンガーズ・アンリミティッドというアカペラグループの伴奏をオスカーがしているのですが、ここの近代的な和声はもう最高に素晴らしいのです。聴いたことない方はだまされたと思ってあのセサミ・ストリート(sesame Street)を聴いてみて下さい(i-Tuneにありますよ)。このグループを自分で見つけて伴奏を買って出たそうなので彼の音楽趣味がよくわかります。よくバカテク・ピアニストの元祖みたいに言われるそうですが、ちょっと違うんじゃないかなと思いますよ。

 

いや、すっきりしました(アルバム聴きながら失礼しました)。

 

 

 

 

閑話休題 -ジャズとモーツァルト-

2013 JUL 13 9:09:06 am by 東 賢太郎

 

 

2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365 第3楽章

キース・ジャレット (第1ピアノ)                                                 チック・コリア   (第2ピアノ)

 

「多くのピアニストはこの曲はこう弾きべきだという訓練しか受けていない」 (キース)

「第2楽章のテーマはまるでモーツァルトが即興してくれと言ってるみたいだ」 (チック)

 

(追記、3月10日)

 

クラシック音楽というのはゴールがある。あらかじめ設計され、手順も道筋も決まっていて、生生流転の行程を経るのだが最後はちゃんとそこへ連れて行ってくれる。この予定調和は安定したソリッドな気分を与えてくれるものだが、めんどうくさいと思うことが、ほんのたまにだけど、ある。そういうとき、僕はジャズを聴く。ジャズは Music to nowhere なのだ。どこにも行き先のないきままな旅みたいなものだ。

ジャズとなると僕のレパートリーは誠に貧弱なものであるが、はなはだ月並みだがこれが好きだ。

ビル・エヴァンス 「ワルツ・フォー・デビイ」 (Waltz for Debby)

この音楽を文字にしたり、もっと単純に、なにか感じたことを書いてみろといわれても僕にはむずかしい。なにも感じないわけじゃない。大学をなかばサボってニューヨークで夜な夜な遊びほけてた、あの自堕落な日々のメモリーがこれをきくとシャワーみたいに頭の中に降ってきて、いつのまにか肩の力がぬけている自分がいる。

そうすると、ラヴェルのバーボン・カクテルですねなんて訳のわからないことをつぶやいてジャズ好きの顰蹙(ひんしゅく)をかってしまいそうだ。アメリカが大好きだったくせに、クラシック音楽目線でヨーロッパびいきだった僕はあのころ、自分がなんだかわからなくなっていた。

その後にまた渡米して、結局はペンシルヴァニア大学の経営学修士というのが僕の最終学歴になったが、他人事みたいにあんまり実感がない。学位をとったというより、地獄の特訓から生還したぐらいのイメージだ。教室で毎日浴びた鉄砲玉みたいな英語のシャワー。あれが人生に影響しなくてなんだろう。あそこで教わって覚えた知識のようなことじゃなく、もっと脳みその深いところで僕は根っからアメリカナイズされたにちがいなく、ジャズを聴くとどこかわからないその部位に音がささる気がする。

東京大学でも僕は勉強しない子だったが、全米の秀才が集まるウォートン・スクールの強烈な洗礼を受けても生来のなまけ癖は治らなかった。病気だ。2年間、毎日いっしょに飲んでた興銀のMが、もっと勉強すりゃよかったよなあとまるで僕のせいのようにいうが、こっちだっていま後悔してる。どうも、ジャズはほろ苦い。

(こちらへどうぞ)

オスカー・ピーターソンを聴く(Oscar, the Great)

 

 

 

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