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中国ビッグバン仮説 (追記あり)

2012 SEP 26 13:13:56 pm by 東 賢太郎

今日の日経新聞一面には目立つ記事があります。「中国リスク 市場揺らす」です。もともと景気減速懸念があるところに領土問題。世界の不安要因になっています。

進出した日本企業からすると工場や販売店の破損という実損も甚大ですが、不買運動による在庫積み増しとそれに伴う運転資金調達等のリスクも大問題です。今回の暴動が沈静化しても、こういう潜在リスクを一度見てしまった以上、日本企業の中国進出というここ10年の流れは確実に大きな転換期にさしかかったと思います。

この国は一党独裁なので国内に政敵がありません。だから失政があれば全部共産党のせいになる。そこで不満のはけ口は海外に向けるのがこの国の常套手段です。その格好のターゲットこそ日本でした。日本企業の進出は、自分が叩かれることはなくても国ごとバッシングされるリスクをコストとして覚悟することを前提としているのです。

中国民衆の不満材料はいろいろですが、深い根っこは経済格差です。景気が減速するとこれが拡大します。貧しいほうが数は多いので加速度的にマグマがたまります。だからそのガス抜きで、それが尖閣であれ何であれ、必ずと言っていいほど日本が叩かれる。景気減速期は進出した企業も売り上げが減って苦しいわけですから、踏んだり蹴ったりになる。進出コストはとても高かったというのが今回の残念なレッスンになってしまいました。

10年前に野村にいたころ「チャイナ・オポチュニティ・シンポジウム」なるものをエクイティ企画室長だった僕が主催してやりました。経団連会館を2日借り切って「WTO加盟した中国をリスクと見るな、チャンスと見ろ」という趣旨でした。ご賛同いただいた京セラ稲盛会長にもスピーチをお願いし、たしか日本を代表する全国875社の企業経営者のご出席を頂戴してかなりの反響がありました。

当時は、中国に進出や投資をしてだまされたという声が多く、野村の社内すら懐疑派が圧倒的で社内調整に大変苦労をしました。しかし、結果論ですが僕がそのシンポジウムにこめたメッセージは絵に描いたようにその通りとなり、多くの企業が中国進出をはたして株価も順調に上昇しました。今日の記事に「今年に入っての株価下落率上位」と書かれているコマツ、資生堂はそのときに僕がお願いしてプレゼンをして下さった企業です。メッセージは野村社内よりお客さんのほうが真剣に考えていた印象があります。

このシンポジウムをなぜやったかというと、これは日本だけに影響する話ではないからです。2001年の中国のWTO加盟というのは鎖国状態だった国の開国です。僕が香港の社長時代にある有名な華僑の方に言われた「中国が他人の作った契約書に調印するのは4000年で2回目だ。1回目は下関条約だ。」という言葉がずっと気になっており、事の重大性、中国政府側の覚悟というものに思いが至ったのです。

開国したほうにも影響がありますが、13億人の国ですから迎え入れた西欧諸国にも影響があります。沿岸部だけでも4億人の人が貿易や外資移転で収入と雇用機会を得ました。この所得効果は半端ではありません。人口1億の日本国が忽然と4つ現れたようなものです。これが世界経済に影響を与えないはずがない。この5月以来の英国のバーバリーの株価が31%、フランスのエルメスが20%下落しましたが、中国人の消費でそれだけ株価が上がっていたということなのです。2001年当時はそんな予兆は微塵もありませんでしたが。

これを僕は「中国ビッグバン仮説」と称して2004年に野村を辞めるまで社内外で声高に主張してきました。金融研究所のアナリストやストラテジスト諸君はみな中国へ行け行けと言われるので僕の顔を見たくなかったでしょう。みずほグループに移籍して引受部門にかわったので主張する場が減りましたが、今もその仮説でその後の世界の経済現象はほとんど整合的に説明できると考えています。

きわめてシンプルに言いますと、ビッグバン仮説とはWTO加盟を中国が日本をふくむ西欧諸国から富をまき上げて豊かになる起点と見ることです。大貧民ゲームと同じで、負け組はどんどん貧乏になります。しかしそれに気づかずにローンで高額の住宅を買い、金融機関はそれを仕組み債にして販売し、国は借金して多額の年金を支給し、放漫な財政を繰り返す。

つまり米国のサブプライム問題、リーマンショック、ギリシャ危機など、みんな遠因はこの大貧民ゲームの戦況の読み違えにあるのです。ゴールドマンサックスはこのゲームの勝ち組みをブラジル、インド、ロシアを加えてBRICsと呼びました。しかしこの現象を指摘したのは僕のほうが早かった。そして今、僕は流れが変わったと、2001年当時と同じぐらいの確信で思っています。

(こちらをどうぞ、応用編です)

株の乱高下こそウエルカム

中国人の爆買いが教えること

ラーメン・パリティ

銀座が赤坂になる日

(追記、1月19日)

相場というのはぎっこんばったんとシーソーのように動きますが、そりゃそうです。ついこの前まで雪がなくってスキー場が閑古鳥だ大変だと騒いでいたマスコミが、この数日は大雪だ車が埋まって動けない電車が止まった大変だと騒いでいる。世論、マスコミというのは起きていることに「同期」する傾向があるのです。これが世論を増幅して株式市場に振幅を作る。そしてぎっこんばったんとなるのです。中国が昨年のGDPを6.9%だと発表しました。そんなはずねえだろ、4-5%だろと懐疑派が多いらしい。ということは中国の国家統計は「うそ」だと信じる人が大半ということを意味する。しかしうそつきであるには中国は大きすぎるのです、もはや。この「うそだ」が「そろそろ本音かな」になるまで相場はふらふらします。間違って「下振れ」があり得る。そこなんです、僕らが買わなくてはいけないのは。

(1月22日)

証券市場もSMAPで揺れている。上海(S)、マネー(M)、アメリカ金利(A)、ペトロ(P)だ。一言だけ書く。ペトロ(原油)が下がるとは産油国、消費国間の所得移転に過ぎない。それが構造変化を伴うかもしれないリスクを織り込めば終わる。下げの本質はそこにない。原油価格低下が中国の需要減のシグナルであり、唯一の機関車が潰れて世界がデフレ基調という事実がばれる(米利上げはポーズだ)、それに世界がビビッているのである。これこそ中国ビッグバン仮説の正しさの証明であり、僕が書いたことを分からない人は株に手を出さないことだ。

(1月26日)

この議論について直接、間接にご関心を寄せていただいております。本稿は2012年9月26日に書いたものですが、リーマンショック、欧州危機から現在の中国経済まで経済、金融に関わる現象をごらんのとおりよく説明していると思われます。97年の時点で世界の実体経済は停滞期に入りつつありました。そこで、米国による各国の金融構造改革が搖動され米主導の国際金融体制が完成し、米ドルベースで生じた流動性はY2Kで浮力をつけ、それのブックロスを回避すべく低クレジットの住宅債権を合成してバブルを吸収していった。それがグリーンスパンの政策です。奇しくもその「ITバブル収斂期」に勃発したものこそ中国ビッグバンでした。

「世界の実体経済停滞期」の需給ギャップを埋めるエンジンとして中国は機能し、FRBによるバブル収束政策の帰結として起きたリーマンショックを最終的に救ったのも、ビッグバン後の中国の膨張でした。中国が金持ちになれば軍事対立するのは見えていながら米国がそれを歓迎したのは、自分の経済政策の大失敗を埋めてくれるからです。そしてゴールドマンサックスがこれをネタにもっと商売しようとBRICsと拡大した命名をしましたが、ブラジルでもロシアでもインドでもない、中国こそが震源地であり膨張エネルギー源、エンジンであったのです。

そして、そのエンジンが勢いを失ってきた。世界経済は、株式市場はどうなるのか?ここまで10年以上も説明力が失せていない仮説ですから何がしかの真理を含んでいないと考えるのは無理があり、この原理を敷衍することによって将来を予測するヒントに出来ると僕は考えているわけです。

機会があればセミナー等を行いたいと思いますが、ソナー・アドバイザーズ(株)のHP(理由があって作っていない)を1か月程度で立ち上げ予定ですのでそちらにブログスペースを設けることも考えております。

(2月1日)

先日書いた「唯一の機関車が潰れて世界がデフレ基調という事実がばれる(米利上げはポーズだ)、それに世界がビビッているのである」という本質が日銀のマイナス金利政策を呼び込みました。異常な基調がなければこんな世界史上でも異常な決定が出るはずはないのです。ただでお金が調達でき、政府は株価を上げたい。やることはひとつしかないと僕は思うのですが。

 

 

(こちらへどうぞ)

株式道場ー個人投資家への警鐘ー

 

Categories:______グローバル経済, 経済, 若者に教えたいこと

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