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ラーメン・パリティ(追記あり)

2012 SEP 28 13:13:55 pm by 東 賢太郎

たしか2001年のことです。上海であのラーメンに出会ったのは。

アポの合間で時間がなく、ランチは内輪でファーストフードとあいなりました。現地のアナリストに案内されたのは麺専門店。地元では有名らしい。僕はメニューもぜんぜん見ず(どうせ読めないので)、「一番高いやつ!」という証券マン丸出しの注文をしました。

これはめちゃくちゃ高いから注文する人はあまりいないよと満を持して登場したのは、巨大なボウルにチャーシューで麺が見えないボリューム感、最高のスープにしこしこ細麺という逸品。写真がないのが残念です。日本とはやや風情は違うものの、うーん、具も味も日本だと軽く1000円以上だなあというレベルでした。中国ラーメン界も進化していて、日本流儀を取り入れた感じがありました。

食べ終わってメニューで値段をチェック。えっ、15元?当時のレートで200円ぐらいです。この瞬間、僕は人民元相場というものの謎に初めて触れた気がしました。中華料理をいくら注文しても、安いとな思うことはあっても値段の比較感はあまり働きませんでした。しかし同じラーメンという定型商品、同一銘柄ですからついつい相場カンというものが働きます。根っからの証券マンだったのです。

ちなみに、中国人の同僚たちが食べた普通のラーメンは4-5元でした。60-70円です。これでもそこは高いから嫁さんとは来ないと言う。現地ではぜいたく品に分類されるラーメンだと言う。なるほど、この店をこのまんま東京にオープンしたら100メートルの行列になるだろう。そう思いました。

マクドナルド・パリティはご存知でしょう。マックはどこの国でも同じものだからその値段が本来の通貨交換レートの目安になるだろうということです。これは一理ある考え方です。問題があるとすると、仮にそれが正しいならば一目瞭然なのですぐに為替レートかビッグマックの単価のどちらかが瞬時に修正されてしまうことです。これを裁定(アービトレージ)と呼びます。他人が気がつかないうちに自分が利益を得る機会がないので、実務的にはあまり意味がありません。

そう思っていた僕は、ラーメン・パリティには意味を見出しました。ラーメンは日本と中国は、似てはいても同じものではない。だから瞬時の裁定はおこらない(これが大事なポイントです)。でも食べた後の満足感(効用価値と呼びます)はほぼ一緒なので、時間をかければ裁定がおこると考えられます。この「安すぎ現象」は中国製品の質や信頼度がアップするとともにすべての製品でおこるだろう。ラーメン界だけの特殊現象ではないはずです。

値段の差が10-20%ならともかく5倍、10倍という差なら高い信頼度で「安過ぎ感」が出る。だから需要が増えて輸出が増える。すると人民元が買われてレートが上がる。これが僕の結論でした。野村金融経済研究所の投資調査部長時代に全国13の大学で1コマ90分づつ講義をしましたが、この話をすると半分寝かかっていた学生もパチッと目を開きました。質問もたくさん出ました。多くの支店で講師をした「野村投資家セミナー」でも人民元建てアセットに投資しなさいと言いまくりました。理屈でなく体感したものは強いのです。

津坂さんのブログ「スカート丈と株価」を拝見して思い出したのはこれでした。ウォートンのテイラー教授はよほどスカートを注意して見ていたんでしょうね。でもどこでどうやってその長さと株価の関係に思いが至ったんでしょうね。きっと、ある一瞬があったのでしょう。ニュートンのリンゴのように。

(追記、2016年1月17日)

一風堂という日本式ラーメン店の「東京ラーメン」が今は48元だから約800円です。中国のラーメンは高くなった、人民元も高くなった。2001年当時僕は「人民元建てアセットに投資しなさい」と言いまくり、そうされた方は報われました。しかし、もうそのアドバイスは無効になったということがわかりますね。そして、中国に工場を出してももはや生産コスト削減にあまり意味がなく、逆に強い人民元で日本へ来て円建てで買い物をする(つまり「爆買い」)がどうしておきるのか、理由が良くお分かりになるでしょう。

(こちらもどうぞ、応用編です)

中国ビッグバン仮説

中国人の爆買いが教えること

中国はどこへ行くか(1)

 

Categories:______グローバル経済, 経済, 若者に教えたいこと

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