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マリナー/N響のブラームス4番を聴く

2015 NOV 26 0:00:30 am by 東 賢太郎

ベトナム出張まえからやや風邪ぎみで今朝はノドがガラガラで酷い声でした。帰国が火曜で一日つぶれたので仕事がたまってしまい、結局昼間は自宅で9時―15時は相場を見て、同時に電話とメールで大詰めに至って神経を使う案件を進めることに。

ところが気がつくとサントリーホールでN響の日でありました。迷いましたが、午後になって少しは体調も回復したしもったいなくもあり、出かけることになりました。そして着席してプログラムを見ると救われました。

 

指揮:ネヴィル・マリナー

ピアノ:ゲアハルト・オピッツ

 モーツァルト/ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 K.491

ブラームス/交響曲 第4番 ホ短調 作品98

 

幸いでした、行って良かった。ピアノはもともとボザール・トリオのメナヘム・プレスラーがモーツァルトの17番を弾く予定だったようで、オピッツに替わって24番になったようです。結果的に短調のまま終わる2曲が、それも最も敬愛する2曲が並んでしまい、両曲とも終楽章が変奏曲というのも不思議なものでした。24番と4番、何か書きたいといつも思っているのですが、怖くてなかなか勇気が出ません。

オピッツはフランクフルト駐在時代にたくさん聴いたおなじみのピアニストです。ケンプの弟子で彼の美音とタッチは継いでますが、僕はベートーベンよりブラームスを評価しています。今日もアンコールに弾いた作品116の第4曲間奏曲は見事でした。

さて24番ですが、この曲はクラリネット入りでフルート以外の木管が2本、トランペットも2本という大編成ですが、旋律線を吹きそうなフルートだけ1本しかなくて副次的、装飾的な役しかなくモーツァルトの音色趣味を伺えます。第2楽章などこの「活躍しなささ」は例外的なほどと思います。

N響の木管は好演でした。大学時代からモーツァルトを教わったマリナーの指揮に注目しましたが、この曲にはややシンフォニックであり、CDになってるブレンデル盤もモラヴェッツ盤も終楽章が速めです。91才の彼がどうなっているか、興味があったのです。

第1,2変奏はCDよりやや遅い。これはいいぞと期待したら、なんとオピッツがオケよりもかなり速めのテンポで第3変奏を弾きはじめました。これはないだろう、びっくりだ。そこからはオピッツのテンポになり、この速度ではどうあがいてもモーツァルトがわざわざハ短調で曲を閉じてまでコーダに込めた重要なメッセージが言い切れません。マリナーが納得してたのか知りませんが、ただの快適なピアノコンチェルトになってしまいました。

オピッツがそう読んでいるということですが、この解釈には全く賛同できません。師匠のケンプはそういう妙なことはしていない。それどころかライトナーの指揮もピアノと波長が合っていて含蓄のある伴奏をしておりオケの音色もうまく録音されていて、ケンプ盤はお薦めできるもののひとつです。

最後のブラームス4番は名演でした。マリナーのブラームス、シューマンは時々家で聴きます。ことさらテンポを煽るでもなく、こってりと歌うでもなく、趣味の良い中庸の美に終始しますがブラームスのスコアはそれでうまく鳴るようにできていて、近頃はこういうのが好みです。第1楽章は全12音の長短調和音がちりばめられており、リズムは精巧に組み立てられており、終楽章冒頭の音を割るホルン、くぐもった低音部にまで下がるソロフルートなど音色の工夫にも満ちている。

つまり立派なスコアなんだから余計なことをしてくれなくてもいいよという気分です。もう40年もかけてなん百種類も聴いてきて、ごてごて意匠を尽くしたり張りきって悲劇性を盛り上げたりする演出には僕はあきあきしているのです。異様に頑張っていたブロムシュテットのように老境の情熱をブラームスの老いらくに託さない趣味が大変結構です。マリナーは昔からそういう誇張をしない傾向の人でしたが、ドイツものに本領発揮できる老い方をしましたね。彼のブラームス、ひょっとしてこれが最後かもしれないがいい4番を聴けて幸せでした。

(こちらもどうぞ)

アントン・ナヌートのブラームス4番

 

 

 

 
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