Sonar Members Club No.1

since September 2012

体罰と愛のムチ

2013 FEB 10 17:17:01 pm by 東 賢太郎

「練習中は水を飲ませてくれないので我慢できず、便器の水を飲みました」

PL学園出身で元巨人の桑田真澄氏のことばに仰天しました。汚い話ですみませんが、便所(手洗い場)じゃありません。そっちはわざと使えなくしてあったそうです。便器です。3回流したそうですが・・・。僕が何に仰天したかおわかりですか?

「うーん、そこまでしていたのか、さすがPLだ!」

と仰天したのです。おそらく、「きたない!」と仰天された皆さんとは観点がぜんぜん違います。まず条件反射的にそう思ってしまう僕は、やはり旧世代体育会系野球人種なのでしょう。

練習中に水を絶対に飲ませないのはPL学園だけではありません。僕らのような都立高校でも同じで、「日本硬式野球部業界の間違った常識」だったのです。だから野球をやっていた人間は大なり小なり、桑田氏の話にはそこまでやるかとあきれながらも「わかるなあ」とも思うはずです。僕も監督、コーチの目を盗んでバケツの泥水を帽子ですくって飲みました。そうしないと本当に倒れて死ぬと思いましたから。死ぬと思えば人間何でもできます。要はそこまで追い込むこと、追い込まれたことが凄いと思ってしまいます。当時のPLは、強さで神のごとき存在でしたが、神になるのは伊達じゃないんだなあとしみじみ納得です。

PLはそこまでやってる。おそらく全国区の高校では既知の事実だったでしょう。そこまでしないで部活を辞めればいい?辞めないのです。野球が好きだから。僕ですら、仮にバケツの水飲みが見つかって殴られて熱射病で倒れていても絶対に野球を辞めなかったでしょう。まして、もともとずば抜けて体が大きくて上手くて野球が好きな子を集めている学校が、この理不尽なまでのしごきで鍛えているんだから弱いはずがない。相手はそう思って戦う前から神に威圧されるのです。もし水禁止令になにか合理性があるならこれぐらいでしょう。

この「好きだから辞めない」というのがポイントです。アマですからチームや指導者と選手の間に何の契約関係も権利義務関係もありません。「お前も俺も野球がしたい、じゃあやるか」というだけです。ということは体罰というのは、面識はあったとしても通行人を殴ったのと同じですから「暴行罪だ」と言われれば、おっしゃる通りでございますとしか言えないでしょう。暴行罪は親告罪ではないので殴られた方が「愛のムチ」と解釈して訴えないということが免罪符にはならないはずですが、それでも何となく身内の愛情と解釈して良しとしてきたのが体罰と呼ばれるものの実体だと思います。

それが愛のムチかどうかは、ぶたれた方が「野球が好きだから辞めない」と言わないと「身内」になりませんからはじまりません。しかし、ぶった監督が好きです、愛情を感じました、と言うことは要件でないような気がします。監督の方はうまくしてやろうと善意のつもりが「愛情を感じなかった」というぶたれた側の一言で断罪されるなら、リスクをとらない指導者が増えてしまうでしょう。満員電車で隣に女性がいるとあえて吊革につかまるようになってしまいます。だって痴漢と言われたら人生おしまいですから。

女子柔道界の告発問題で僕がどうもわからないのはその点です。15人の選手たちが、何かは知りませんが理不尽な仕打ちに合い、IJF(国際柔道連盟)の視点から見てパワハラの可能性があるのは事実なのでしょう。しかし15人が柔道がを辞めたいと言っているとはききません。となると「度を越した愛のムチ」が裁判所に家庭内暴力と認定された事件なのか、「普通の愛のムチ」だったが親父嫌いの娘が怒った事件なのか、はたまた実は本当に「愛のないムチ」だったから通行人として怒ったのか?

もともと米国製のベースボールが野球道になったのと、もともと柔道だったのがグローバル化したのでは違いがあるのでしょうが、その「道」の部分にご維新がおきているのだとすれば野球界も他人ごとではないでしょう。時代劇のつもりでちょんまげ姿でチャンバラをしていて、はっと気がついたら回り舞台で西部劇に変わっていたというのでは笑えません。千本ノックをしていたらパワハラだなどとハリウッドルールを押し付けられる前に、自らが意識して真の武士道の精神に帰った方がいいでしょう。やたらと殴ったりケツバットするのは武士道ではありません。言葉でねばり強く指導してあげられる監督がたくさん出てくることが必要だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Categories:______世相に思う, 徒然に

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊