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憲法改正論議に思う

2013 MAY 21 1:01:26 am by 東 賢太郎

今日は法律家の旧友とよもやま話に花を咲かせました。やっぱり関心は憲法のことですね。

安倍政権が参院選の争点としようとしているのが憲法改正です。有識者、マスコミの間では9条改正と、(手続法である)96条改正とは性質が違うというのが大きな論点となっています。改正要件が国会の3分の2か過半数かというと、これは大きな差でしょう。両院過半数の与党であれば実質的に国民投票だけで改正でき、そのような安定多数の与党が選出されている状況下では国民の過半数というのも現実的なバーになります。同質的な意見が比較的甘いチェックで成文化され得る国家というのは歴史的に見てもある種の意思決定の誤謬を起こしやすい、つまり市民が安心して住めない国であるリスクを内包しています。そのリスクとは民事よりも、国家権力が市民の自由を抑制しえる刑事分野にあるのではないでしょうか。

周知のように我が国は法治国家であり現行憲法は罪刑法定主義をとっています

第31条  何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない

しかし、友人と別れてから思いついた素人考えですが、「法律の定める手続によるならば」それをしてもいい、しかも問題は手続であり実体法の有無には言及がないというのは96条改正の場合に上記のリスクをうかがわせるのではないでしょうか。例えば徴兵制(自衛隊か他の名称の軍隊かは問わず)となった場合、法律はなくとも兵役忌避者を軍法会議にかけるという手続きを踏んで刑罰を課すことは本当にできないのかということです。憲法学者、弁護士の方にぜひお聞きしたい点です。こういう重要な論点を国民に分かりやすく説明せずに96条改正が是か非かだけを選挙で問うというのは危険でしょう。

法律というのは読んだことのない人の常識とかい離していることも多く、仮に読んでも多くの人が良く理解できるものとは思いません。例えば「刑法」という何年も牢屋に入れられるかもしれない法律を知って生活している人は専門家を除けばごく少数でしょう。

刑法199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する

これが殺人罪というものだということは199条を知らなくても誰でもわかるでしょう。では、脅迫罪はご存知でしょうか。さらに進んで、脅迫罪恐喝罪の違いがわかるでしょうか?

シンプルに言いますと、

刑法第222条  生命、身体、自由、名誉又は財産をおびやかすと言って脅すと2年以下の懲役又は30万円以下の罰金、となります(脅迫罪)。親族に対してそれをすると脅しても同じです(同2項)。

一方、

刑法第249条  人を恐喝して相手を恐れさせ金品を要求して交付させた者は10年以下の懲役になります(恐喝罪)。これは未遂でも犯罪になります(刑法第250条)

 

はて何が違うのか?恥ずかしながら僕も完全に忘れていて、友人の講義で知りました。脅迫は心への犯罪、恐喝は金品を脅し取る財産犯罪なのです。だから恐喝の方が罪が重い。罰金刑がなく確実に刑務所行きです。もちろんSMCに関わる皆さんがこんな卑劣な犯罪を犯すことはおろか被害にあうこともないでしょうが、仮にやってしまうと恐喝の場合は脅迫よりも5倍も長く刑務所に入る可能性がありますし、5年ですむこともある殺人罪の2倍も長いこともあり得る重罪であることがわかります。時効は7年です。そんなこととは知りませんでしたではすまされないのです。

恐喝というのはいわゆるカツアゲという恐ろしいものですから善良な市民である皆さんにはあまりに非現実的でしょう。でもこれはどうでしょう。ホームページ、ブログ、メールで他人の悪口を書くこと。

名誉毀損罪(刑法230条)
 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず
3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

「公然と」というのは、ホームページ、ブログは当然ですが、メールであっても「数名に」発信すれば当たってしまいます。「事実を適示」とは、「具体的に人の社会的評価を低下させるに足りる事実を告げること」ですが、それが「事実」でなくウソでもいいのです。「人の名誉を毀損」。 これは現実に社会的評価が害されている証拠は不要で、「その危険」があれば当たってしまいます。これはけっこう身近に感じませんか?(SMCの皆さんにはもちろんあるまじきことですが)。これは親告罪ですから被害者が黙っていれば警察に呼ばれることはありませんが、一触即発という事例はたくさんあるそうで、これも「そうとは知りませんでした」ではすまないのです。時効は3年です。

 

ことほど左様に、法律と市民生活というのは現実論としては遠い存在なのかもしれませんが日本国民である以上私だけは関係ないということはないのです。冒頭の話題に戻れば、僕自身は9条改正(自民党案)に大きな違和感はありません。しかし、96条改正においては、政治家を縛るべき存在の憲法が容易に改正される、つまり市民生活を国家権力が冒しやすくなるわけですから、選挙の時点でこの問題も「そうとは知りませんでした」という有権者が過半数という事態は避けなくてはなりません。殺人犯や恐喝犯をかばう必要などまったくありませんが、善良な市民のあらぬ行為が新しい法律で取り締まられるという土壌が形成されやすくなるというリスクは、あくまで一般論ではありますが、個別に慎重に検討を重ねる必要性が大であると考えております。

 

 

 

Categories:______世相に思う, 徒然に, 若者に教えたいこと

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