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ビゼー 歌劇「カルメン」(Bizet: Carmen)

2013 OCT 14 22:22:26 pm by 東 賢太郎

地中海音楽めぐり、スペイン編その3は泣く子も黙る名作「カルメン」でいきましょう。

georges-bizet-1838-1875-french-everett                             「カルメン」は1875年にフランス人のジョルジュ・ビゼーが書いたスペインを舞台とするオペラです。モーツァルト、ワーグナー、ヴェルディ、プッチーニ、ロッシーニは多くのヒット作を書いた強豪オペラ作曲家5人組です。そこにたった1本しかヒット作がなかったベートーベンを加えるのに異を唱えるクラシック音楽愛好家はいても、同じく1本だったビゼーの名を加えるのに反対の方は少ないのではないでしょうか。なぜならその1本はヒットでなく、逆転満塁サヨナラホームランなみに記憶に残るものだったからです。

ジョルジュ・ビゼー(Georges Bizet)は1838年にパリで生まれました。モーツァルトは「魔笛」を初演した3か月後に36歳で急逝しましたが、ビゼーも「カルメン」初演の3か月後に37歳で急逝しています。どちらの作品もあまりスタンダードでない「セリフ入り」(ジングシュピールとオペラ・コミック)であったのも数奇なものです。カルメンは主役がメゾ・ソプラノであり、王女や姫でなく女工という下層階級の女であるのも当時の型破りでした。ヴェリズモ・オペラの先駆と言っても過言ではないでしょう。ビゼーとモーツァルトを比べる人はあまり見かけませんが、その2曲の運命の符合はともかく、彼らは才能においても双璧であったと僕は信じております。

ビゼーの他の作品といえばオペラが「真珠とり」、それから劇付随音楽「アルルの女」と交響曲ハ長調の3曲が多くの愛好家の知る所でしょう。僕が2-3歳ごろ聴かされていた(はずの)親父のSPレコードに「真珠とりのタンゴ」なるものがありました。三つ子の記憶に今も残るほどの名旋律であって、それなのにどうして海女さんがタンゴを踊るんだろうと「真珠とり( Les Pêcheurs de perles)」のアリアを聴くまで思っておりました。しかしそのオペラもレアものの部類です。カルメン以外は現代ではどうしても軽めのレパートリーとなってしまい、カルメン一発屋というイメージになっているのです。

しかし、彼が17歳(高校2年ですね)で書いた交響曲ハ長調は、私見ではモーツァルトがその年齢で書いたどの曲より魅力的です。「高校生作曲オリンピック」があったとしてビゼーは僕の中では金メダリストかつ世界記録保持者であり、人類史上彼の金を脅かしたのはモーツァルトとメンデルスゾーンだけと思っております。根拠は以下の通り。

まず9歳でパリ音楽院に入学。ピアノ、オルガン、ソルフェージュ、フーガで一等賞を取っている。これは小学校3年生の少年がウルトラ飛び級でジュリアード音楽院に入り4科目で首席になったようなもの。19歳でローマ大賞を獲得。フランツ・リストが新作として書いて「これを弾けるのは私とハンス・フォン・ビューローしかいない」と豪語したピアノ曲を23歳のビゼーは一度聴いただけで演奏し、楽譜を渡されると完璧に演奏。リストに「私は間違っていた」と言わしめた。リスト自身がグリーグのピアノ協奏曲を初見で弾いた男。その彼の初見能力を上回っていたということになると、歴史上浮かぶ名はモーツァルトしかないでしょう。「カルメン」はドビッシー、サンサーンス、チャイコフスキーに絶賛され、ニーチェは20回も見たそうです。20回!わかりますね。一度憑りつかれるともう離れられない麻薬のような音楽です。

 

あらすじ

irpq6isUL7_carmen_couv                            第1幕

時は1820年頃、舞台はスペインのセヴィリャ。煙草工場の女工カルメンは喧嘩騒ぎを起こし牢に送られることになった。しかし護送を命じられた伍長ドン・ホセは、カルメンに誘惑されて彼女を逃がす。パスティアの酒場で落ち合おうといい残してカルメンは去る。

第2幕

1356881カルメンの色香に狂ったドン・ホセは、婚約者ミカエラを振り切ってカルメンと会うが、上司とのいさかいのためジプシーの密輸団に身を投じる。しかし、そのときすでにカルメンの心は闘牛士エスカミーリョに移っていた。

第3幕

ジプシー女たちがカードで占いをする。カルメンがやると不吉な暗示が出る。 密輸の見張りをするドン・ホセをミカエラが説得に来る。やってきた闘牛士エスカミーリとドン・ホセが決闘になる。カルメンの心を繋ぎとめようとすCarmen-Roberto-Alagna-and-Elina-Garanca-photo-by-Ken-Howard-4るドン・ホセだが、ミカエラから母の危篤を聞きカルメンに心を残しつつ密輸団を去る。

第4幕

闘牛場の前にエスカミーリョとその恋人になっているカルメンが現れる。エスカミーリョが闘牛場に入った後、1人でいるカルメンの前にドン・ホセが現れ、復縁を迫る。復縁しなければ殺すと脅すドン・ホセに対して、カルメンはそれならば殺すがいいと言い放ち、逆上したドン・ホセがカルメンを刺し殺す。

 

 

まずは前奏曲です。これを知らない人は少ないのではないでしょうか。

次にエスカミーリオの「闘牛士の歌」。これも人類史に残る名曲中の名曲であります。

エスカミーリオ役はカルメンが惚れるぐらいの男でなくてはいけません。この映像はいい感じです。そしていよいよカルメンの「ハバネラ」。真打ちマリア・カラスです。

この人、そのままカルメンであってもいい感じですね。そしてアンサンブルを一つ。第3幕の「カルタの3重唱」(カルメン、メルセデス、フラスキータ)です。

女性のトリオというと魔笛の3人の侍女を思い出します。こうして名場面をご紹介していると結局は全曲になってしまうぐらいこのオペラはすばらしい。もうひとつだけ、僕が大好きな場面をあげさせていただきましょう。

「お母さんのいる故郷へ一緒に帰りましょう」と必死にドン・ホセを説得する純情なミカエラは、メリメの原作には出てきません。原作はあまりに血なまぐさく、カルメンを含めたワルたちが凄惨にワルであり、劇場にそぐわないということで改作したそうです。そうしなければ第1幕、僕が大好きな「手紙のデュエット」(ミカエラ、ドン・ホセ)はなかった。僕はカルメンにあまり関心はないがミカエラは大好きなのです。ビゼーがこの役に書いた音楽の素晴らしいこと!お聴きください。

高松宮殿下記念 世界文化賞の音楽部門受賞で来日したプラシド・ドミンゴはもうすっかりお爺さんだったが、このドン・ホセは全盛期の姿で凛々しい。しかし、ブキャナンのミカエラはかわいいですね。僕だったら迷うことなく故郷に帰ってますが・・・。

この曲は初めの音符から最後の音符まで、奇跡の連続です。ビゼーの天才の宝石箱からこぼれ出た音符についてどんなに言葉を尽くしてもむなしいものがある。ひとたびあの前奏曲が始まってしまえば、アリアを立ち止まって味わうどころか次々に眼前をよぎる絶美妖艶を極める音楽の奔流に飲みこまれるしかなく、はっと気がつくとオペラは終わっている。そんな曲です。

 

ジョルジュ・プレートル / パリ・オペラ座管弦楽団      カルメン:マリア・カラス

51wGOUS1fuL._SL500_AA300_ドン・ホセ:ニコライ・ゲッダ
ミカエラ:アンドレア・ギオー
エスカミーリョ:ロベール・マサール
フラスキータ:ナディーヌ・ソートロー
メルセデス:ジャーヌ・ベルビエ
ダンカイロ:ジャン=ポール・ヴォーケラン
レメンダード:ジャック・プリュヴォス/モーリス・メヴスキ
モラレス:クロード・カル
スニガ:ジャック・マル
ルネ・デュクロ合唱団(コーラス・マスター:ジャン・ラフォルジュ)
ジャン・ぺノー児童合唱団

僕にとってのカルメンは実演ではアグネス・バルツァ、録音ではこのマリア・カラスです。カラスはこれを舞台で一度も歌っていません。フランコ・ゼッフィレッリ監督の映画「永遠のマリア・カラス」はフィクションですが、それをカルメンに設定したのはわかる気がしま5337033_e4e16355eb_mす。それほどこの役はカラスに合っており、このCDを聴くにつけなぜ歌わなかったのか不思議です。彼女の声質からしてメゾのこれは物足りなかったのでしょうか。もうひとつこのCDの魅力は、フランス人ソプラノであるアンドレア・ギオー(右・写真)のミカエラです。決して有名な歌手ではなく録音も多くないのですが、僕は彼女の声質が大好きです。それがこれまた大好きなミカエラにぴったりでありたまりません。ニコライ・ゲッタの人のよさそうなドン・ホセもいいですね。ロベール・マサールのエスカミーリョはやや軽い。いかにも性悪そうで存在感が抜群のカラスのカルメンが惚れこむほどの男には聞こえないですね。第3幕「カルタの三重唱」で不吉な運命を知ったカラスが歌う暗い情念は歌手というより役者の迫力です。こんなカルメンは聴いたことがない。にもかかわらず他の歌手はみんな軽めの声というのは対照的であり、この録音はオペラ「カルメン」を聴かせるよりマリア・カラスを浮き彫りにする意図があったと思わざるを得ません。

 

もうひとつ挙げておきましょう。

 

ヘルベルト・フォン・カラヤン / ウィーン交響楽団

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カルメン:ジュリエッタ・シミオナート
ドン・ホセ:ニコライ・ゲッダ
エスカミーリオ:ミシェル・ルー
ミカエラ:ヒルデ・ギューデン
フラスキータ:グラツィエッラ・シュティ
他                     ウィーン国立歌劇場合唱団

(1954年10月8日、ウィーン、ムジーク・フェラインでのライブ)

 

カラヤンはRCA(63年、ウィーン・フィル)とDG(82年、ベルリン・フィル)の2種のスタジオ録音を残していますが、何といってもこのライブが最高です。カラスを聴いてしまうとシミオナートのカルメンは奔放、蓮っ葉という感じが薄く聴こえますが、こういう色気のほうがまともでしょうか。ゲッタはここでも健闘しています。ギューデンのミカエラはまあまあというところ。エスカミーリオのルーはちょっとスマートなフランス男という感じもするが音楽的には聴かせます。この演奏の白眉は歌手よりもカラヤンの指揮でしょう。脂の乗り切った46歳。若々しいテンポでぐいぐいとオーケストラをドライブし、歌手も含めた大きな一つのアンサンブルとしてまとめ上げる手腕は素晴らしいの一言です。それはトスカニーニのオペラ指揮にしか感じられないほどの求心力で、カラヤンがそのスタイルを目指していた頃の傑作といえるでしょう。オケも非常に気合が入っており、カラヤンとは信じられないアッチェレランドがかかったりしますが鋭敏に反応しています。録音はモノラルですが良好で、オーケストラピットがのぞけるぐらい舞台に近い席で聴いているようなライブ感にあふれています。カルメンが好きな方には一聴をお薦めいたします。

 

ビゼー「アルルの女」(Bizet: L’Arlésienne)

 

 

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