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株式道場ー個人投資家への警鐘ー

2014 JUN 11 14:14:01 pm by 東 賢太郎

「日本の投資信託には運用成績が良いのに残高が減るものがあるのはなぜですか?」とイギリス人にきかれたことがある。たしかに調べるとその傾向がある。程度の低い証券会社の営業マンが「もう上がってしまったので次のを買いましょう」と乗り換えをすすめて手数料を稼ぐというのはある。しかしその無意味なおすすめに手数料まで払って乗る投資家のレベルの低さにも原因はある。

前回、為替と株は違って、為替の予測は理論的根拠に基づいてはできないと書いた。つまり株に比べればFXはバクチ性が強い、というより僕の定義では完全にバクチである。だからFXだけで運用する投信はないし、出してもそんなものを信用して売る証券会社も買う投資家もいない。某新聞で円ドルレート当てコンテストをやっていたがなんの意味があるのかさっぱり不明だ。**さん見事的中というとへえすごい能力だねなんて感じると思うが、宝くじと同じで必ず誰か当たるに決まっているだけだ。So what?  (だからどうしたの?)である。**さんが5回連続で当てれば凄いが、そんな超能力者は投票する暇があるなら宝くじを買った方がいい。

ところが株の場合は5回連続はなくとも5回で3回程度は当てる**さんが、稀ではあるがいないことはない。株は理屈で動く、というよりも正確には、理屈で動くと信じている参加者が圧倒的に売買高シェアが高いから理屈に添って動くことが期待できるのだ。投信を買うということは**さんを見つけて、その人のご指南で売買するということである。そしてもし運用成績が良いのならその**さんは能力がある。能力とは継続して当てる力のことをいい「再現性のある能力」という。一発ホームランではなくこつこつヒットを重ねて何年も3割を打つ打者のイメージだ。そういう人は本物だからその投信を売ってはいけない。「自分年金」の一部に組み入れるべきだ。

株式の運用と言うのは理屈だけでもない。周囲の投資家たちの行動を予測して動く、つまり彼らが信じている理屈を見抜いて先回りすることが重要だ。理屈が静的な分析ならこれは動的な分析であり、それを経済学者ケインズは「美人投票だ」と看破し、それを自分で実践して大儲けした。AKBの総選挙の1位当てトトカルチョだと思えばいい。あなたが1位にしたい子ではない、みんなが投票するに違いない子に投票しないと賞金はもらえないのだ。

ただ現実の世界はもう少し複雑であり、僕は麻雀というきわめてよくできた知的なゲームに近いものを感じる。自分の手から上がれる役の大きさと確率を考えることが静的な分析、そして他の3人がどう切ってきそうかテンパっていそうかの動的な分析で判断が刻々変化する。麻雀のうまい人は時々大勝ちする人でなくいくらやっても負けない人だ。それは「再現性のある能力」がモノをいう世界に他ならず、だから株の世界でそういう人を見つければ長期間安定して稼いでくれるだろう。年金とは長期間安定してお金が出ていく仕組みだからそれは貴重なことだ。その人は給料を払ってでも手放してはいけない。

「もう上がってしまったから乗り換えましょう」というのはセールスマンの商売文句だ。一企業の株式ならそれは正しくないことはない。トヨタがいくら収益力があっても無限に株価が上がるわけではない。行き過ぎれば下がる。だから投信にはファンドマネージャー(fund manager)という人がいる。行き過ぎた株はその人があなたの代わりに売って、そうでない株に乗り換えてくれる仕組みになっている。その投信ごとあなたがそれをやる意味があるとすればファンドマネージャーが無能な場合だけである。成績が良かった人を有能かどうかまだわからない人に交替するのは合理的な判断ではない。

株はバクチではない。世界中のインテリが多大なコストをかけて企業調査をしてコンピューター執行など英知の限りをつくして的中コンテストをやっている。その成果が年金や健保などの支払い原資になって国民の生活を支えているから彼らは継続して勝つことを求められている。株の世界に全勝はなく、5打数3安打なら大変に立派な「打率」である。その打率をずっとキープできる人が優秀とされるのであって一発屋はいらない。原理的に一発屋しか現れようのないFXや宝くじで年金運用するということは、だから原理的にありえないのである。

「この株は上がりますか?」という質問は無意味、無益だということがもうお分かりだと思う。打席に向かうイチローに「つぎはヒットですか?」ときくようなもので「そんなこと知りません」または「はい、3割の確率で」が答えだろうし、彼がその質問者の質問に二度と回答しなくなるだろうことまで予測できる。「この株が上がりますよ」などとささやくセールスマンは大嘘つきか、「ホームランのサインが出てますよ」と同じほど滑稽なことを言って平気な人である。万一そうでなければ100%インサイダー取引だから刑務所に入る危険があると判断した方がいい。

投信の運用者(ファンドマネージャー)はセールスマンの勧誘とは無縁の人たちだ。自分の哲学で売買する。結果だけが彼らの評価だから包丁一本の世界でもある。欧米だと**さんを金持ちたちが競って探している。銀行に預けておいても低利だし、銀行がつぶれるリスクも高まっているからだ。自分の資産だからその真剣度合いはヤンキースのオーナーがマー君を採るのと一緒だ。**さんも人間でやる気を出し続けてもらわなくてはならないから大金も払う。だから、「彼はもう10勝したから来年は他のピッチャーに乗り換えましょう」なんてことは絶対ないのである。成績の良い投信を乗り換えるというのはそれほど理不尽なことで、そんなことを勧誘してくる証券会社とはつき合わない方がいい。

ネットで株売買している個人投資家はほとんどがFXと株が違うということを知らないように見える。仮に知っていても個人の企業情報はアクセスはともかく分析力に限界があるから掲示板や他人の書き込みに頼ったり一喜一憂したりで、FXのミセス・ワタナベと大差ないことになるだろう。理屈や情報分析ぬきに売ったり買ったりだけする人を「トレーダー(trader)」と呼ぶ。投信の運用会社ではファンドマネージャーとトレーダーは部署が別で、人間のタイプも評価体系もぜんぜん違う。分業体制なのである。何故かというと、両方うまい人はいないという長年の経験則から各々のプロを置いた方がコストは増えるが勝率は上がるという判断を運用会社の経営者がしているからである。

だからデイトレーダーとはよく言ったもので個人投資家はファンドマネージャーぬきの片肺飛行の投資家だ。赤字で無配で純資産価値も低い紙同然の株を買い上げるなど、FXと勘違いでもしていない限り常人の神経では恐ろしくてとてもできるワザではない。そうやってバクチ打ちとして一発当てる才能ある人はいるだろうが長く勝つのはほぼ無理で、デイトレに**さんが現れる確率とWカップのタコのパウルが現れる確率とで大差があることはないだろう。特にコンピューターのアルゴリズム取引が売買代金の大半を占める大型株ではマンパワーで入力するトレーダーはいい「獲物」である。

僕はリーマンが破たんしてすぐにその東京のアルゴ・チームを丸ごと採用した経験がある。彼ら(全員米国人)から意外な手の内をたくさん知ったが、例えばあるアルゴリズムは人力の売買注文がインプットされた瞬間にマイクロ秒(百万分の一秒)単位の速度でサヤぬきするようプログラムされている。あなたの瞬き(まばたき)は一回約三百ミリ秒(三分の一秒)だから、一回パチリとやる間に千回ぐらい売買できるほどの速さである。「ロボット取引で証券市場が混乱している」等のよくわかっていない人の本やコメントがあるが、混乱どころではない。あなたが獲物になっているのである。証券会社で僕の部下だったプロのトレーダーで「アルゴが出てきてもう勝てなくなった」とデイトレから足を洗ってしまった人を何人も知っている。

中小型株はアルゴがいないからトレーディングで確実に負けということはないが、小さすぎて証券会社が商売にならず、あまり調査情報を流さないから片肺飛行の危険度は大型株よりもずっと高い。妙な情報に騙されて高値づかみしたら売るに売れなくなったりして大損する。だから掲示板や2チャンネルなどで低クオリティのあるいは嘘の情報を流して売り抜けようともがいたりする。日々の売買の利食いなど知れているからそういう人は小さく勝って大きく吐き出すということになり、これまたプロの餌食になることが多い。投信のファンドマネージャーが必ずプロという保証はぜんぜんなく、、僕の経験からの私見では90%は玄人に近い素人と変わらないか、習熟度や知識レベルは高いが性格的に向いていない人である。長いことやれば誰もが麻雀の達人になるわけではない。しかし一つだけ言えるのは、少なくとも情報量だけは個人よりあるということである。

僕は35年もプロの側にいる。そこから眺める日本国の株式投資業界を俯瞰するに、暗澹たる気持ちを抱かざるを得ない。そこで給料をもらってきたという責任の一端は自分にもあるわけであり、お知らせすべきこと、株式投資というものの本質について広く知らしめることは義務と思う。学校は文科省も教師もそういうことは無知だから何も教えることはできず、証券会社が顧客にそれを教える気はなく、役所ですら年金利回りを詐称したりする国なのである。「自分年金」をお作りになるしかない環境の中で、ご自身の老後へ向けた資産防衛に少しでも役立つことを書いていきたい。

 

 

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