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クラシックは「する」ものである(6)ージュピター第4楽章ー

2014 AUG 9 13:13:48 pm by 東 賢太郎

「クラシックを歌う」、第5回です。それではいよいよオーケストラに参加してみましょう。

モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」の第4楽章です。チェロパートはほとんどコントラバスパートと同じ譜面(一番下)を弾きますが、一部分だけ別れます。わかりにくいので一番下のコントラバスを歌いましょう(音程はチェロのまま)。

女声だとオクターヴどうしても高くなります。低弦パートを歌って合奏として何ら問題ありませんが、より現実感があるという意味で女性は第1ヴァイオリン、フルート、オーボエから入り、より興味深い第2ヴァイオリン、ヴィオラに進まれるはどうでしょう?

まず、この曲はいままでよりもテンポが速いからそれに慣れてください。歌わないで目で追う練習が必要かもしれません。大事なことですが、他のパートは一切見ないでください(慣れない人はおそらくわからなくなります)。

拍子ですが「4分の4拍子」です。ですが四分音符を1・2・3・4と数えるより1・2/3・4と1小節を2つに割って1・2、1・2・・・と数えた方がいいでしょう(2分の2拍子に)。コントラバスパートだけを見て、イチ・ニ、イチ・ニと数を勘定しながら歌ってください。

イチでなく二から入る所があるので要注意です。速いところの音程はそこそこで結構、8分音符は速いのでタカタカ・・・と歌います。タンタターンタカタカタカタカタカタン、という風に。それでできます。

いかがでしょう?できるまで(できたと感じるまで)何度も挑戦されるとよろしいと思います。少々音程ははずしても「できた」と実感されることが大事です。

歌うのがどのパートであれ、音楽のあまりの見事さに打ちのめされるばかりです。

「モーツァルトが天才である」とは、誰かがそう言うからそうなのではなく、書かれた音符がそう実証していることです。こうして自分でその検証に立ち会うことで、初めて自分の言葉でそう語ることが許される。そう思います。

あくまで僕の場合ですが、この経験をすると「誰の指揮が良いか」等の議論は二次的なことになります。どんな名演奏に酔いしれるよりも、普通の演奏に自分で歌って参加する方がずっと楽しいからです。

つまり、その楽しみは演奏ではなく、スコアそのものが与えてくれることに気がつきます。以前のブログで「僕の拍手は作曲家に90%、演奏家に10%」と書いたのはそういうことです。

あえて申しますが、このモーツァルトのスコアを前にして、ベームとカラヤンのどちらの演奏が偉大かなど語っても仕方ありません。夜空を見上げて輝く星々を目にしながら、地球と月のどちらが大きいか考えるようなものです。

「スコアを読む」(score reading)とよく言います。これは何を意味しているのでしょうか。指揮者の方々は初見で全体の音が頭の中で聴こえる必要があるでしょう。そのためには移調楽器を含む全パートを歌えるのが当然の前提です。

僕らは単なる趣味ですからそこまで極める必要はないでしょう。ただ、鳴っている楽器の音符を図形としてあちこち目で追いかけるだけでは面白くない、やはり「する人」程度まではひとつひとつのパートを歌えるようになりたいというのが僕の願望です。

それが「読む」と言えるのかどうかは知りませんが、そうなれば音楽の深みがより味わえるというのはバッハのアリアでご経験済みと思います。素人にとってはそこまでいけばよろしいのではないでしょうか。

ドイツにいた頃ジュピターを全曲MIDI録音しました。G線上のアリアだとピアノで遊べますがこの曲になるともう僕の技術では弾けません。そういう場合にMIDIは強い味方になります。僕はPROTEUSとヤマハDOMという2台ののシンセサイザーをクラヴィノーバでパートごとに録音しPCに記録します。

音はダウンロードするのではなく全パートを自分の手で鍵盤で弾きます。音は生き物だからタッチがニュアンスに出ます。メトロノームは使いません。自分で自分の音と合奏します。そうしないとどこか機械的になります。それを積み上げれば50段のスコアでも演奏可能です。この過程で知ることが出てきます。

例えばこの第4楽章のフーガ風部分の入りで鳴るホルン、あるいは第3楽章のトリオでオーボエとからむファゴットなど、弾いていて実に気持ちがいいのです。これはオケのこのパートの人、たまらないだろう、うらやましいなと嫉妬を覚えるほど。

ですから自分もどうしてもそこをやってみたくなる。そう欲するかどうかが「する人」かどうかの分岐点だと思います。それにはもちろんホルン、ファゴットを習うのがベストになるでしょうが、それでもオケで両方を吹くのは無理です。全楽器を我がものにできるMIDIはそこでも強い味方です。

しかしもっと経済的で簡単な方法があります。両方とも歌ってしまえばいいわけです。ヴァイオリンを口笛で代用すれば、全曲にわたっていいとこ取りをする形で常にオケに参加していることができます。これが僕のお薦めすることです。

この方法が向かないのはピアノ、管弦の独奏曲です。agility(敏捷性)を売り物にする楽器は向きませんし、遅い曲でも打楽器的なピアノの音色に声はなじみません。しかしオケであればスコアが30段もある春の祭典でも不思議なマンダリンでも何でもできてしまいます。

それを50年やってきた結末として、主だった交響曲、管弦楽曲、協奏曲、室内楽、一部のオペラ、宗教曲はそうやって歌うレパートリーになってしまいました。それはビートルズのレコードに合わせて歌うのと何ら変わりません。クラシックのレコードやCDは、僕にとっては「カラオケ」です

歌って踊って楽しむというのはそういうことです。日本ではクラシックは高尚なものだ、かしこまって聞くものだという考え方が伝統的です。たしかに、クラシックは非常に知的な側面を秘めた音楽です。しかし、そのこととpassive(受け身)に聴くかactive(能動的、自発的)に聴くかということはぜんぜん別の話です。

ここまでお示ししたことをじっくりおやりになってみて下さい。音楽好きの方で熱意さえあれば誰でもできると思います。

 

クラシックは「する」ものシリーズ、歌うだけでなくピアノを使ってオケに参加することもあります。あるいはギターでも結構です。もちろん楽器をお持ちでなければ歌っても結構です。次回はワーグナーの「ニュルンベルグの名歌手」より第1幕への前奏曲です。

 

クラシックは「する」ものである(7)-ピアノについてー

 

 

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Categories:______モーツァルト, ______音楽と自分, クラシック音楽

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