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指揮者アルパッド・ヨー(Arpad Joo)の訃報

2014 SEP 27 3:03:24 am by 東 賢太郎

この人を知っている方はかなりのクラシック通でしょう。訃報といっても3か月近く前の7月4日、66歳の若さでシンガポールで亡くなったようです。本当に惜しい。生まれはハンガリーで後に米国に帰化しています。父方がハンガリー貴族、母方は英国王室ウィンザー家という血筋でした。

あのゾルタン・コダーイが6歳のヨーの才能に感嘆し、自分の音楽院に入学させ、13年後に亡くなるまで教え続けたというから異例なことです。20歳の時にピアニストとしてボストンのリスト国際コンクールで優勝しましたが、のちにマルケヴィッチ、ジュリー二の教えを受け指揮者としてのキャリアを積みました。メットのオーケストラの史上最年少音楽監督にもなっています。

彼の演奏会を聴いたわけではないですが、80年代にロンドンでSefelというレーベルから出ていた彼のブラームス4番、同ドッペル、マーラー1番のLPを買い、とても印象に残っていたのです。ただ、それは当時売出しのデジタル録音が珍しく、盤質が別格的に良いレコードで、音質の好印象が大きかったという気がします。

jooさきほど、ブラームス4番(下の写真の人物がヨー氏)を30年ぶりに聴いてみました。これがなかなか宜しいのです。一切奇をてらわずの正攻法でロンドン交響楽団をどっしりと鳴らしていますが、木管、特にこの曲で要であるフルートが雄弁に語っていて聴かせます。第2楽章のロマンは渋めで深々としたもの。第1楽章コーダは加速がなく、第3楽章も安定したやや遅めのテンポをとり、終楽章は古典的なたたずまいでjoo2ほとんど見栄を切らずに堂々たる終結に至ります。80年録音だから32歳、それでこの4番は立派なものです。録音は格別で、オケの立体感、弦の質感、木管・金管の定位と実在感はホールの2階席最前列でライブを聴くがごとしの素晴らしさ。音響面では僕のライブラリーにあるすべてのブラームス4番の最上位にあるもの一つといってよろしいと思います。

次に聴いたのが、昨日も書いたチャイコフスキー5番でした。

joo3これはフィルハーモニア管弦楽団とのCDで、ドイツで買ったもの。ケンペと同じく「チャイコ5番」の稿にはご紹介していない理由は演奏のせいではなく、ARTSというレーベルなのですが製造がいい加減で左右チャンネルが逆に入っているからです。こんなひどいクラシックのCDは珍しい。ところが演奏はというと、これが名演なので困ったものです。94年録音でヨーは46歳。オケがいきなり初めから気合いが入っていて、指揮者がやる気にしている気配をひしひし感じます。ケンペよりずっとロマンティックで一般のリスナーがこの曲に求める要素はほぼ過不足なく、非常に高いレベルで盛り込まれていてオケも素晴らしくうまい。とにかく良く鳴っています。金管のレベルの高さは感涙ものであり、終楽章のテーマをフルート、オーボエ、クラリネットのユニゾンでffで吹く大事な部分は9割のオケは僕には音程が不満なのですが、このオケは合っていて満点です。音響はやや残響が多めですがエッジも充分で、自分の部屋でこれを大音量で聴くのは最高の快感です。

しかし、さらにこのCDのうれしいのは付録で入っている幻想序曲「ロメオとジュリエット」です。これはロンドン交響楽団との演奏ですが、こっちもオケが良く鳴っているばかりか、ホールトーンとのブレンド、楽器の定位・実在感と質感、演奏のクオリティ、どれもが最高で5番よりさらに一枚上手。これは僕の持っているロメジュリの中で文句なく最高位のディスクであり、オケの音響という面でもレファレンス級。これだけの素晴らしいオケの音はなかなか聴けるものではありません。お客さんに装置を聴いていただくならまずこれからというレベルで、これを耳にすれば東京のホールなんかにカネを払って聞きに出かけるのはアホらしいというのはご理解いただけると思います。

音の話になってしまいましたが、いくら高級な装置で録音したり再生したりしても、鳴っている元の音が美しくなければ意味がありません。ロンドンのオケからこれだけの音を紡ぎだしたヨーの実力のなせる業に他ならず、当たり前のことをやってこれだけ高水準の仕事をできる人というのはいそうでそうはいないでしょう。何があったかは知りませんが、コダーイの高弟でコンクール優勝というこれだけの実力者がポスト面でも録音面でも日陰に置かれたというのはリスナーにとっては不幸というしかありません。ぜひ一度実演を聞いてみたかった指揮者がまたひとり逝ってしまいました。

 

(補遺、25 June17)

ブラームスのドッペルも大変に素晴らしい。エミー・ヴェルヘイのヴァイオリン、ヤーノシュ・シュタルケルのチェロ、アルパッド・ヨー指揮アムステルダム・フィルハーモニック管弦楽団。オランダの女流ヴァイオリニスト、ヴェルヘイはチャイコフスキー・コンクール大会始まって以来の最年少17才でファイナリストになった神童でオイストラフの弟子。やや線は細いがシュタルケルの向こうを張って室内楽のような味のある合奏を繰り広げる。オケも堂々たる正攻法のブラームスであり、コンセルトヘボウの空気感までとらえた録音はあらゆるオケをこの音で聞きたいと思わせる。ロンドンで30年も前に買ったLPだが、一聴して以来長く心に残り愛してきた逸品だ。

 

 

 

 

(こちらへどうぞ)

チャイコフスキー交響曲第5番ホ短調 作品64 

 

 

 

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Categories:______チャイコフスキー, ______ブラームス, クラシック音楽

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