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どうして証券会社に入ったの?(その3)

2014 NOV 28 0:00:33 am by 東 賢太郎

<落ちこぼれてどん底の日々の巻>

 

ある日のこと、S支店長が新人3人を車で大阪城へ連れて行って下さいました。支店長とお話ししたのはこの時はじめてです。天守閣から街を見下ろしてひとこと、「どうだ、天下を取った気分になったか」。そこから美々卯でうどんすきをいただいたのまで覚えてます。こんなうまいものがあるかと食い物にまで感動してました。

しかし現実はきびしい。仕事をする前から僕は浮いていました。上のかたがたは営業ひとすじの戦士ばかりで、全国の支店で実績を上げて梅田に来たつわものぞろいです。僕のようなひよっこが相手にされるはずもなく、明明白白になんの期待もされていないのが自分でわかりました。

それにとどめを刺したのがレコード事件です。独身寮に送ったはずの僕のクラシックのLPレコード千枚ぐらいが運送屋のミスで段ボール十箱ぐらい支店の店頭にドドーンと積み上がってしまったのです。お客さんもびっくり、課長が箱を開けてさらにびっくり。なんじゃこりゃ?誰だこんなもん店に送ったのは!!と大騒ぎになってしまいました。

 「そんなもん聞いてるやつに株なんかむりだろ」

先輩の間で一気にそういう評判になってしまい、飲み屋ではいつも「おい、帝大!」です。「帝大は株の儲け方はどない教えるんや、おっ?」と酒の肴にこづきまわされ名前も呼んでくれません。なんとなく居場所がないなという感じです。

インストラクターは若手のエースSさん。巨大顧客の**商事を自分で開拓し入社3年目にしてトップセールスでした。「いいかお前ら、社長だぞ、社長の名刺を百枚だ。できるまで帰ってくるな。」が命令です。朝から晩まで飛び込み外交で名刺集めしてこいということです。

つまり街へ出てぜんぜん知らない会社に飛び込んで、社長にお会いしたいと無謀な申し出をして、どのようなご用件ですか?と聞かれて適当に口実を並べて、二、三十件に一回ぐらい勘違いで社長が出てきて、名刺はくれる。百枚というと二千件飛び込まないといけない。先輩これは無理ですとなって、よし社長十枚、あとは何でもいいから計百枚となりました。

 しかしそれでも大変なんです。革靴はすぐダメになり、真夏はスーツの背中が塩を吹いて白くなりました。大阪の中心部はほとんどの通りという通り、筋という筋は歩きつくし、飛び込むたびに証券会社なんか用はないと追い出されます。以前に書いた、船場の繊維問屋に飛び込みんだら「縁起が悪い、出ていけ!」と怒鳴られて塩をまかれたのはこの頃のことです。

こういうのは根っから耐えられず、僕だけなかなか名刺が集まりません。Sさんには怒鳴られ自信もなくなって、俺ってなんでこんな馬鹿なことやってるんだろと梅田地下街を歩いているうち、「ここはだめだ、辞表を書け」という声がどこかからきこえました。その瞬間に、意を決しました。ところがここが僕のA型性格なのですが、書くならきちんとした書式の辞表にしなくちゃということで、そういう本があるだろうと旭屋書店へ足を向けたのです。

そこで「おい、東!」と声がしてはっと見ると支店長でした。何を考えているか顔に書いてあったんだと思います。「いま銘柄はなにをやってるんだ?」といきなりきかれ、「はい、えーと、資源株です」とその場しのぎで答えました。そうしたら「そうか、ちょっとこい」と向かっていた本屋で「これ読んどけ」と『新エネルギー論』という本を買って下さったのです。僕が会社を辞めずにいられたのはこのおかげです。

先輩の面白半分のいびりは続きました。ところが、桃山台グラウンドで行われた社内野球大会で優勝候補を1安打完封すると、野球自慢の先輩がたの「おい帝大」は消えました。焼き鳥屋の祝勝会でちゃんと名前を呼んでくれ、ほっとしました。まだ野球だけの一芸社員でしたが。

 

どうして証券会社に入ったの?(その4)

 

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