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ワーグナー 「ローエングリン第3幕への前奏曲」で新年をスタート

2015 JAN 1 16:16:26 pm by 東 賢太郎

みなさま、明けましておめでとうございます。今年もSMCをよろしくお願いします。

先ほど小雪の舞う中、家族全員(ノイふくむ)で初詣をすませました。

東家は宇佐八幡と浄真寺に参ります。神仏習合ですが。宇佐八幡の由来は源頼義がこの地で戦勝を祈願し(1051年の前九年の役)願が叶ったので建てたとのこと、僕にとっては特別の武運長久の神。浄真寺は極楽往生の九層を表す九品仏がある日本に二つしかない寺の一つ。「お面かぶり」という仏教儀式が三年ごとにあり、一度見ましたが壮麗なものです。足をふみ入れれば京都かと見まごうほど。一見の価値ありです。

おみくじは中吉。「人をいつくしんで社会の為に尽せば必ず幸せな慶びが訪れて来ます」、事業は「御加護を受け成功する」でした。頑張ります。

本年はいよいよ生まれてから5回目の我がひつじ年。天空を一周して出発点に戻ってきました。去年は屋久島ではやぶさ2号の発射シーンも見ましたし、もう一度初心に帰って再点火です。

そこで今年のクラシック第1号は、僕のクラシック遍歴の原点に立ち戻ってみます。

ボロディンの「中央アジアの草原にて」に衝撃を受けて親父に買ってもらったアーサー・フィードラ-/  ボストン・ポップスのLPにはたまたまハチャトリアンの「剣の舞」、チャイコフスキーの「スラブ行進曲」などが一緒にはいっていて、その中でも最もインパクトが強かったのがこの「ローエングリン第3幕への前奏曲」

「ワーグナーすげえ、かっこいい」、これはベンチャーズ少年には脳天一撃でした。

すぐに買ったクyjimageナッパーツブッシュ盤で他の有名序曲、前奏曲も一気に覚えたのが病みつきの始まり。以来僕の中でぬきさしならない存在になっていて、ドイツ駐在時代の3年間はワーグナー漬けといってもよく、バイロイトはもちろん聖地を各地に詣でました。帰国してからもバレンボイム/ベルリン国立歌劇場の「トリスタンとイゾルデ」に感激、同曲を彼がスカラ座でやるので息子を連れてミラノまで行きました。そのすべての発端は中学時代のこの曲との出会いにありました。

たった3分ほどの音楽にどうしてこんなパワーがあるんだろう。トリスタンがまさにそうであるようにワーグナーの音楽は細部に発明がひしめいていますが、そういうミクロの感嘆を超越した大河の流れのようなマクロ構造がそれとは別個の感動を巻き起こすという多層レイヤーを持っている。他の誰にも似ていないのです。

ミクロとマクロとで羽交い絞めになりますからはまるとぬけられません。ワーグナーの毒です。彼はベートーベンやリストほどピアノが操れたわけでもなく、アマチュア上級者程度だったと思われますが、書いた文字(台本)と音符の量は物理的に人間離れしており、借金も女性も芸の肥やしという壮絶な人生を生きた人です。毒ぐらいあって当然ですね。

この前奏曲はその中では非常に平明な音楽です。しかし簡単なようで実は満足な演奏にほとんど出会ったことがないまれなものでもあります。脱兎か競馬馬のように飛び出す冒頭、第1ヴァイオリンは特にそうで、第6小節でオクターヴ上がる高いシの音などベルリンフィルでもあってないのです。

さっき誉めたバレンボイムが天下のシカゴ交響楽団を振ったこれも、冒頭で金管が先走ってヴァイオリンがついていけないという信じ難い混乱がそのままになっています。

いっぽうこの子たちは米国ミシガンの高校生、弦はよく練習してますね。危ないところもありますが金管がパパパパーンとユニゾンで吹くとなんとなくワーグナーになっちゃう。そういうところがマクロ構造なんです。Bravo!

最後にこれをお聴き下さい。

トスカニーニとNBC交響楽団。どうして彼らの演奏が半世紀以上たっても世界中で崇められているかお分かりいただけるでしょうか。こういうものを残してくれたから僕はミラノでトスカニーニの墓参りをしたのです。

音が鳴った瞬間に背筋がピンと伸びます。弦はソリスト並みのピッチとアーティキュレーション(発音)で完璧にシンクロ、裏で鳴っている金管の和音の音程とリズムの良さ、ユニゾンのホルンの音の厚さ、微塵も音のずれがないトロンボーン(なぜかチューバはいない)。

学生オケが春の祭典やダフニスとクロエを見事に演奏し、演奏技術は向上したと言われますし僕もそう思います。しかしこのNBCみたいにこれを弾けるわけではない。それっていったいどういうことなんだ?アートの世界で人類は進化するとは限らないという結論に至るのかもしれません。

ともあれ、皆さん、今年もこの曲みたいに元気溌剌でいきましょう!

 

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Categories:______ワーグナー, クラシック音楽

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