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独断流品評会「シューマン ピアノ協奏曲」(その2)

2017 JUL 21 0:00:04 am by 東 賢太郎

アルトゥール・ルービンシュタイン / フランコ・カラチオロ / ナポリ・イタリア放送(RAI)アレッサンドロ・スカルラッティ管

1964年4月29日ライブ。これは素晴らしい。第1楽章の前稿楽譜部分(難しい)の感じ切ったデリケートさ!これが77才か?ルービンシュタインの技巧は凄かったのだ。それなくして描きようもない自在のファンタジーが横溢。テンポもこの曲の本来のものであり、文句のつけようなし。イタリアの放送オケが上手いと思ったためしがないが、これは初の例外だ。(評点・4.5)

 

アルトゥール・ルービンシュタイン / カルロ・マリア・ジュリーニ / シカゴ交響楽団

1967年3月8日だから上記の3年後、80才のスタジオ録音である。何の問題もなく弾けている。しかしオケがとても上手いもののマッチョ指向なのが僕の好みでない。ブラームスならそれでもいいがこっちはアウトだ。伴奏がそれだからピアノもどこかファンタジーに欠ける。醸し出そうとしているが中途半端なうちにオケに消されている。録音もHiFi指向で細部までクリアに聞こえるが、そういうことはこの曲には無用である。(評点・3)

 

エミール・ギレリス / カール・ベーム / ロンドン交響楽団

75年のザルツブルグ音楽祭ライブ。ギレリスの技巧は明らかに衰えている。少々のことは看過するが、前稿楽譜部分の事故は僕にはつらい(何故ここが難しいと書いたかわかるだろう)。84年にロンドンで聴いたチャイコフスキーP協は危険水域にあったが、もうこのころに兆候はあったわけだ。ただ、そのせいなのかどうか、ベームのテンポがいい。これが今の僕の趣味、このぐらい落さないと見過ごしてしまう道端の可憐なスミレみたいなものがこの曲にはたくさんある。それで弛緩するどころか、ギレリスは万感の思いをこめて、胸いっぱいの呼吸でそれを慈しむように弾いている。音楽の感動というのはなんと深いものだろう。(評点・3.5)

 

ワルター・ギーゼキング / ウィルヘルム・フルトヴェングラー / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

ギーゼキングは現代曲を汽車の中で目で覚えて着いたら初見で弾いてしまう人だ。指の回りも尋常でない。モーツァルトやドビッシーの世評が高いと思えばラフマニノフを2番も3番も弾く(2曲の両刀使いは意外に多くない)。何でもできるのはわかるが、人間一つ二つ欠点あったほうがいいんじゃないのと、どうも好きになれないまま来てしまった。これも上手いなあとは思うがルバートの感覚が好みでないし終楽章はテクニックの展示会でご勘弁だ。フルトヴェングラーも第2楽章以外はあんまりポエジーを感じない。向いてないね。(評点・2)

 

アルフレッド・コルトー / ランドン・ドナルド / ロンドン交響楽団

コルトーのルバートには華がある。ショパンのワルツなどそれが活きる曲では水を得た魚の如く余人の及ばぬ名演をものしている。この曲でも抒情的な部分でいい味を出しているが、何分指が回らないとどうしようもない音楽だ。補おうとうわべの軽いタッチでパッセージを弾き飛ばすからコクがなくなったり唐突にフォルテになって感興を削いでしまう。鋼鉄のタッチだったギレリスが老いて枯れたのとは違う、申しわけないが元々ないものは仕方ない。ギーゼキングのように弾け過ぎても道を誤るし、ピアノ演奏とは難しいものだ。(評点・1)

 

独断流品評会「シューマン ピアノ協奏曲」(その3)

 

 

 

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