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二十歳までとは別な速さの時間

2017 DEC 14 2:02:39 am by 東 賢太郎

もう師走かとは毎年思うことだが今年はさらに早くやってきた気がする。光陰矢の如しとはいうが、矢は確実に加速している。ゾウの時間、ネズミの時間とヒトの時間は速さが違うという本があったが、浦島太郎じゃないが、同じヒトでも年齢とともに速度は変わると考えたほうが実感にあう。あと何年あるか、10年か20年か知らないが、二十歳までの10年、20年とは別な速さの時間だし、これからの一年一年は今年よりもっとあっという間に過ぎてゆくのだろう。

先週に社員と食事したおり、「あした死んでも悔いないよ」とまじめに言ったらびっくりされた。その日はまさしく本当にそうだったのだが、今日は「明日じゃまずいな」という形勢になっている。ずいぶん日和見と思われるだろうが、取り巻く仕事の事情がそうなので、ここでいなくなったら大変だということになってきてしまった。これは仕方ない、お天気と一緒だ。

悔いないよという日にあっさり逝くのがベストなのは言うまでもない。ということは、いつその日が来るかわからない以上は毎日その状態になるように生きていくのが理想ということだ。楽しいことはもう十分にやった。そのうえで、僕はいつも「人生のバランスシート」が頭にあって、世の中、周囲の人々との様々なものの貸し借りが均衡しているのが安寧で心地いい。その状態こそがそれである。簡単なことに思われるかもしれないが、これは実に大変なことである。

今週月曜にあったT社長の社葬で、写真の元気なお顔と耳慣れた語録を拝見、拝読しているうちに涙が止まらなくなった。4年前にミクロネシア・トリップで知り合って、それ以来、まだ社業に不安だった僕に夢と生きる力を下さった大恩人だ。強烈なインパクトの方だった。僕は自他ともに認める頑固者である。いまさら少々の経営者のいうことなんかきくはずもない。そんな種類の人間が、しかも還暦にもなってだ、こんな邂逅があろうとは想像だにできないことだった。涙は、なんにも恩返しできなかった悔し涙だ。

喪中葉書が例年にない枚数やってくるので年回りというものなのだろうが、死というものがこんなに身近な年はなかった。何度も心がぽっきり折れたが、そのたびに「もっと何かしてあげればよかった」という悔いが湧き起ってきて、いただいたものに報いずに自分が折れてしまうとその悔いは倍加することに気づくのだ。それが反動になって立ち直ることの繰り返しである。人生のアンバランスがいけない。であれば今つきあいのある人、以前でもなんらかのご縁のあった人たちに「何かしてあげる」ことに今からでも精進すべきなのだとなる。

お世話になったという気持ちは一方的なものだから相手がそう思ってない場合がある。いやむしろ、見返りを期待しないお世話ほど僕に重たいものは世の中にない。そういうものを見過ごしたり忘れたり、ただ取りしてしまう人もいるが、ビジネスはそれでも許される。だから相応の対価(お金)を払うのであって、あげた以上の見返りを期待する前提のものなのだ。証券界で生きぬいてきた人間だから僕はその世界では氷のように冷徹だし、過分に見返りを取ろうというたくらみを見抜いてつぶすのに情け容赦はない。しかし、だからだろう、見返りを期待しないお世話というのは別世界のことで、プロットする座標軸がない。T社長が「僕はおせっかいなんです」とくだっさたのはそれだったのだ。だからいい歳した男があり得ないことだが、ぼろぼろ泣けてきたのだ。

たとえば母が何を期待しただろう。自分も親になって知ったが親の愛にそんなものはない。だからこそ僕は千倍万倍にして返したかったが、結局は自分が満足だとまで思い至るのは叶わないことだった。だからだろうと思っている。最後の最後、認知症で意識はなかったが看病で少しでも良くなるぞと信じ、夜を徹して声をかけたり音楽を聞かせたり肩をもんだり手足をさすったりして、寝不足と体力の限界で僕がへとへと、ぎりぎりになったのを見届けたあの日に母は決意して逝ったのだ。僕にここまでやったと思わせようと最後の力をふり絞ってがんばって、病室で9日間も一緒に過ごす時間をくれたのだ。なんということだ親というのは。

何かのご縁のあった人は少なくない。百人ぐらいはこっちが勝手にお世話になったと思っているし、おせっかいなことなのかもしれないが、なにか返したい。その機会と時間がいただければの話だが何もしなければそれは永遠にない。こうして自分の過去と思いを記すのもその衝動があるためかもしれない。あと何年あるか、10年か20年か知らないが、二十歳までの10年、20年とは別な速さの時間。これとの戦いなのだろうか。

 

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