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ルサンチマンの壁

2018 SEP 23 21:21:36 pm by 東 賢太郎

東北出身の先輩であるKさんの口から「ルサンチマン」と「美学」という言葉が出てなんだか懐かしくなりました。先週はご来社いただいて結局7時間も話しこんだのですが、還暦を超えてからは「自分が何者か」の総括にかかっているので、こういうタイミングでKさんとお会いできたのは天啓でしょう。

「何者か」は無論のこと先天的、後天的の両面で決まりますが、後者はどこで何を学んだかで基礎がほぼ決まると思います。僕は独学型ゆえプレッシャーがないとマイペースで、だから本気で勉強したのは大学受験とMBAしかありません。ただそのどちらも「筋トレ」であって、そこでつけた筋肉にのちに学んだものが血液になって流れてビジネスで使えているイメージです。

「ルサンチマン」や「美学」は受験が終わって哲学やら科学史やら英文学やら、当時はどうでもよかった授業や教材などでふれた言葉です。Kさんは「東北になぜ製造業がないか?」という僕の長年の疑問を「戊辰戦争以来の統治が官界でまだ続いている」という一言で氷解してくれました。それは東北のルサンチマンとなり、東北人の美学にもなったそうです。

こういう観察や理解は何十冊の書物にも勝ります。人間は経験してないことはわからない(わかるはずがない)という経験論者ですので、識者の経験に学んで自分の足りない部分を補うことが僕にはどうしても必要です。Kさんは官界、政界で豊富なキャリアを積まれた経験から独自の視点をお持ちでありますが、同じ空気を吸って育ったベースをお持ちなため双方の理解が速く、これから顧問としてご指導をお願いすることに即決しました。東北人ではありませんが僕は北陸人で、美学も似たところがあります。

逆にそれほどの智者でも運用やファイナンスについてはかなりのブリーフィングが必要と思われます。明治政府による蘭学以来の独仏文化移入のベースに第2次大戦が称揚した鬼畜米英精神が搭載された「英語文化排斥」が日本のエスタブリッシュメントの精神構造に残滓としてある、いわば東北と同様の現象で仕方ありません。昭和の言論界、クラシック音楽界もそうだったようにインテリは戦後も引き続き英米を嫌い、文化は軽視してきました。まさにルサンチマンが存在したものです。

英語教育が遅れ、英語で書かれたIT文化は韓国にも後れをとりました。投資助言・代理業の登録をした際に東京法務局営業保証金500万円を供託しますが、2010年当時は振込不可で現金でした。札束を運んでいくと薄暗い窓口でおばちゃんが紙幣計数機でシャカシャカと万札を数えて受領証をくれる、あれは僕が野村證券に入った1979年と何も変わらん昭和の牧歌的原風景で驚きましたが、少なくとも8年前まで役所のITリテラシーはそんなものだったのです。ルサンチマンによる「英語世界蔑視」で国家の頭の方が大きく後れを取ってしまった。

同じことが運用やファイナンスのリテラシーにも起きているといえば分かり易いでしょう。なぜならそれは英語世界由来だから『ルサンチマンの壁』に阻止されてきました。まず教師がいない、だから大学で教えない、だから学問ではない、というルサンチマンの自己満足のループに陥り、みんなで無視して終わり。結果として運用・ファイナンスが国是のごとき米国に母国の金融界を牛耳られたのは識者はもちろん知っているが、自分が知らない世界ゆえダチョウ症候群で終り。いまやそれを米国並みに国是にした中国にもいずれやられるリスクがあります。

僕は米国ウォートン・スクールで最先端の投資理論を2年勉強し、すぐ英国に赴任を命じられて東インド会社以来の投資のメッカであるロンドンの「シティ」で6年間それを実践応用したという人間ですから、資産運用・ファイナンスにおいて保守本流の「英語世界人」であります。その分、日本語世界人としては欠けたものがあるでしょうが、そこにとても強いKさんと組むと何か面白いことができる気がしております。

 

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Categories:______歴史に思う

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