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拡大核抑止は米国のためにもならない(広島サミット)

2023 MAY 22 23:23:27 pm by 東 賢太郎

何度も書いたが、27才から米国で2年の教育を受けた。その間に多くの思慮深い米国人と知り合い、あの戦争のことまでを議論し、それまで学校で習った程度の認識しかなかった米国の民主主義、自由主義というものの一面的ではない奥深さに感動すら覚えた。母校ペンシルべニア大学病院の医師たちの尽力で難病だった家内の子宮筋腫を治していただき子宝にも恵まれた。英国では29才から35才まで勤務し、顧客であるジェントルメンとプライベートに至る付き合いに恵まれ、人間の根幹をつくる時期にたくさんの啓示をいただいた。

「それまで学校で習った程度の認識」というものがどういうものだったかははっきり覚えがない。ふりかえって整理してみると、

(1)日本も明治以降は立憲国家になったが、陸海軍の統帥権は天皇に直属するとして軍部が独走して過ちを犯した

と教わったように思う。それは世界史だか政治経済だったか、教科書には「統帥権干犯問題」とあったが、概ねのところ真実だろう。問題はそこからで、

(2)だから我が国はならず者・人殺しの本性のある国であり、300万人もの同胞が戦争で亡くなったのもならず者のせいであり、天誅を下してくれたアメリカ様のおかげで平和になった

という第2弾が続くのである。

恐ろしいことだが、どこで(2)を吹き込まれたか記憶にない。昭和30年生まれの僕は物心つくとテレビでアメリカ様のディズニー、ポパイ、マイティマウス、早撃ちマック、スーパーマン、コンバット、ベンチャーズなどに夢中になっていた。ポパイの缶詰ホウレン草やハンバーガーは一度でいいから食べてみたいと熱望していた。しかし、一方で、米軍の爆撃で片耳が聞こえなくなった父からは「鬼畜米英」という言葉を教わっており、鉄腕アトムや鉄人28号でも負けてしまったんだという理解をしていた。

子供心に何か変だった。

(2)を喩えるなら、悪事をした男がムショ入りし「心を入れかえて生きていくんだぞ」と看守に背中をポンとたたかれて娑婆に出る映画を見ている気分だ。なんで自分の国を守ったのに悪いんだ?殴られたら殴り返すのは当然だろう?でも、アメリカ様のいうことをきけば楽しい未来がありそうだ。コロロの矛盾をそう解決していた気がするが、その解決自体がさらなる矛盾をはらんでいた。

なぜなら、周囲の友達はギブ・ミー・チョコレート路線で「アメリカかぶれ」が続出していた。テレビに出てくる大人たちも長い物に巻かれ、サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ、すいすいス~ダララッタなんて歌が流行っていたからだ。本能的な正義感でそういうのを許せない性格に生まれついているから友達も嫌いになったりして悩んでいた。

いうまでもなく(2)はマッカ元帥様が占領民を洗脳すべく行使したWGIP(War Guilt Information Program)、すなわち、戦争への罪悪感を日本人の心に植えつける宣伝計画の骨子だ。戦争で焼け太った者が隷属し、見返りをもらって全国民に向けてこのプロパガンダ・ウイルスをたれ流していた。自民党もメディアもそのためにできた。知らず知らず僕もそれに感染していたわけだが、安保反対の学生運動は4、5才上のしている暴力沙汰と思っており参加する気はなかった。

日本には「ならず者」もいるしチョコレート野郎もいる。どこの国でもいる。そこで法律を作り、国家を安寧に秩序立てて運営するのである。軍部が独走してしまったのは、日本人がとりわけ「ならず者」だったからでもなく、サムライだからそんなことはしないわけでもない。大日本帝国憲法に「内閣」「総理大臣」の規程がないという構造的欠陥があったからである。英国式の責任内閣制度(元首が行政権を首相に譲る)は陛下がおられるのだからやめとけと独逸人にいわれ、自分が天皇を統御する前提が頭にあった伊藤博文がビスマルク憲法式にしてしまった。腹があった彼ら維新の元勲が死ぬと前提は溶解し、しからば改正すべきであったその憲法は「不磨の大典」と神格化されて欠陥は温存される。そこを突いて、天皇を奉って統帥権を掌握する内紛が起こり(五・一五、二・二六事件)、昭和の悲劇につながっていった。戦前は法治国家でなかったという者がいるが、見事に法治国家だったという皮肉な見方もできる。

そんな鬼畜米英に何年も居を構えることは僕にとって大きな矛盾、チャレンジであった。米国で学生生活をしていたころ、酔っ払うと議論を吹っかけては「日本は憲法改正して再軍備しろ」と言いまくっていたようで、仲間に恐ろしい奴だと言われた。右翼でも軍国主義者でもない。親を愚弄する者は許せず、WGIPの詐術に篭絡されてしまう自分の姿など身の毛がよだつからそうなったという帰結こそが招かれざる矛盾の産物だった。ドイツ時代にクライン孝子さんにぶったのもそれだったと思われ、スイス時代に日本企業の会合で議長をやって「なぜ防衛庁に入らなかったのですか?いい武官になられたのに」と大使館の同庁出向幹部の方に尋ねられた。文官でなく武官というのが自分らしく愉快だった。

40才までしていた主張はこういうことだ。いまだかつて自国を自分で守る権利のない国は地球上にカルタゴしかなかった。カルタゴは第2次ポエニ戦争でハンニバルで敗戦した戦後処理としてローマに武装解除、対外戦争の禁止を強要され、そこで平和主義を掲げ、貿易に専念して経済大国になった。ところがそれをローマに警戒され、隣国ヌミディアの侵略に反撃したところ「条約違反だ」と言い掛かりをつけたローマ軍に攻められ、総人口50万人は惨殺され、生き残った5万5千人は奴隷として売られて国家ごと消されてしまった。それと現代日本のアナロジーは多くの識者が語り、「アメリカ様の核の傘があるさ」で済んできた。カルタゴは敗戦で丸腰にされてから滅ぼされるまで、それでも55年はあった。我が国はここまで78年も無事だったが、これからもそうだろうか。

このたびの広島サミットは、岸田総理が「核なき世界」(核廃絶)を目指すという理念を掲げつつ、核爆弾使用国(米)、2つの核保有国(英仏)、米国に核依存する3か国(独伊加)が参集し、平和の希求を表に掲げながら核の傘(「拡大核抑止(Extended nuclear deterrence)」)が議論されたと理解している。仕組まれていたと思われるゼレンスキーの登場にバイデンが「F16を貸してやろう、核の傘を広げる必要もあるな」と応じる所定の落し所となったのだろう。G7の日本を除く6か国はNATO加盟国で、西側だけで核廃絶が決められるはずがなく「核なき世界」とは最初から水と油だ。広島市民が怒るのも道理である。

目下の一大事はプーチンに核を使わせないことだ。G20を巻き込む傘の拡大はやむなき一里塚とは思う。対して駐米ロシア大使は「米国は日本に謝罪していない」と批判する。原爆資料館の滞在はオバマの10分が今回は40分になったが様子は外部に公開せずだ。米国が謝罪する可能性は見えない。ということは、人殺しがプーチンに人殺しはするなと制する理は立たず「拡大」で脅すしかない。すると世界にチキンゲームが誘発され、核保有量競争が加速する。これ自体が人類を危機に陥れる。なぜなら原口議員によると核保有の危険性は意図的な攻撃のみではないからだ。ミスコミュニケーションによる錯誤、コンピューターの誤作動、ハッキングなどで発射されてしまうリスクは管理不能で、プログラムされた報復を誘発して人類は短時間に滅亡する可能性があるといわれている。大日本帝国憲法の構造的欠陥が昭和の悲劇を呼ぶことを明治の元勲は想定しなかったこと、福島原発の津波による事故もしかりだったことを熟慮すべきだ。「核なき世界」への一里塚に内在する人類滅亡リスクをG20で共有することが必要で、そのために、唯一の核兵器使用国である米国がその非を認めることで事は進む。DSと一線を画さない現状は自国のためにもならない。

冒頭に述べたように、英米に住んでみると、彼らはぜんぜん鬼畜ではなかった。本稿で書き分けてきた「アメリカ様」と「米国」は別物なのだ。前者は米国の姿をまとったDSで、全員が米国人とは限らず英国の影もある。武器、エネルギー、食物、鉱物、情報が主力商品であり薬もそうだ(麻薬と置き換えて阿片戦争を思い出せばいい。中国人が何万人死のうと廃人になろうと英国人は金儲けのために阿片を売ることを意に介さなかった)。原口一博議員の主張のようにワクちゃんも同じ精神構造の元に日本政府に免責条項付きで取引されたものと想像する。立派である米英の友人のためにも、米英の威信を守り人類を滅亡させないためにも、人間の心のある米国指導者が現れて歴史の殻を破ることを願いたい。

最後にSFっぽい話をひとつ。プラズマ理論物理学者ジョン・ブランデンバーグの論文によると、火星大気にはキセノン129という、自然には発生しないキセノンの同位体が不自然なほど多く含まれているという(左)。また、ウラン235の放射線量が多い地域は大きく2か所存在するが、このウラン同位体も自然にはできないものらしい。ブランデンバーグは、放射性同位体とそれらの堆積物から、火星ではかつて少なくとも2か所で核兵器が使用されたとし、その総エネルギー量は地球上の核兵器100万個分に相当するという。これは大規模な核兵器の使用であって、小規模の核兵器はさらに多く使用され、互いに多量の核兵器を撃ちあった痕跡も認められるという(以下の記事から抜粋)。

火星超古代文明は核戦争で滅亡した!? 大気中のキセノン同位体から考察する先代文明の終焉/嵩夜ゆう

東西冷戦時代、地球は自身を複数回破壊できるほど大量の核兵器を有していた。幸いなことにそれが使われることはなかったが、火星ではそれが現実のものになってしまったのではという興味深い説だ。これで思い出すのは月面で5万年前の人間の死体が発見される名作SF「星を継ぐもの」だ。無人どころか猿もいなくなった地球に来訪した宇宙人が5万年前の死体を発見したりしないことを祈る。

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Categories:______歴史に思う, 若者に教えたいこと

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