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キッシー息子くんの忘年会を叱る

2023 JUN 4 13:13:45 pm by 東 賢太郎

人間が受け取る情報の8割は目からで、写真(画像)のインパクトは大きい。キッシー息子くんの忘年会、その名と違ってこれは何年たっても国民から忘れられることはないだろう。そんな写真が流出したらヤバいぐらいの理性はあったんだろうが、それをかいくぐって出たわけだから只事とは思えない。出席者に猛烈なアホがいたか、確信犯がいたか、騙されて出しちゃったか? いずれにせよこういうワキの甘い家の人が総理やってるんだということになってしまう。世論は。

岸田総理は3世議員。息子くんは4世の予定。世間はみなその箔つけのための秘書官任命と思ってる。総理秘書官は官僚の体感だと事務次官より上らしい。それをどこ吹く風と適材適所で通してしまって適材でなかった。だから親父の自業自得になる。商社に6年いて社会経験だなどと思うまともな人はいない。しかし政界に入れば親の七光りで競争のない人生だろう。だからよほどの馬鹿でない限り誰でも適材なのである。その世間ナメ過ぎな親のエゴの犠牲になった息子くん。まだ若いのに気の毒としか申し上げようもない。だが今回はそこで終わらないだろう。この「よほどの馬鹿でない限り誰でも適材」というのが世襲議員の旨味だ。親バカの母ちゃんまで出てきて「うちの息子を」とやってる。あいつもこいつもやってる。子供はかわいい。だから議員はみんな世襲したい。歌舞伎の梨園状態だ。公職が世襲されるのは公私混同であると世論はなっていくだろう。

世襲議員が30~40%もいる日本は、明らかに、国際的に、異常だ。印象論ではない、数字で明々白々でありなかでも自民党が突出して高い。世界で日本に迫るレベルなのは政治後進国のイタリアだけであり(それでも日本より低いが)、英国で10%、米で5~10%、ドイツや韓国はほとんど無い。しかも英米は「親の地盤をそのまま引き継いで、同じ選挙区から出るケース」は1%程度でほぼない(神戸新聞・豊田真由子氏)。豊田氏は公職が特権的地位になってはいけないという不文律があるからとされるが、やったら大変なことになると考えた方が現実論として近い。フランクフルトの鮨屋でこういうシーンを目撃した。会計をしようとしたインテリ風のドイツ人客が「同じものを頼んだのに日本人と値段が違うのはなぜだ」と店員に質問し、親父が何か説明したが納得せず「訴訟する」と言いだした。現地で誰もが知る店だ。大した金額でもない。でも怒っていた。これが西洋人の「不平等」「差別」への反応だ。お得意さんと一見さんではサービスに違いが出て当然という常識は日本しかない。格別のサービスは構わないが余分に相応のカネを払う。それが「チップ」というものの正体なのだ。自分の子をうまいことやって議員にしたいなどという発想は鮨屋の親父なみなのであって、やったら即死。だからほとんどないのである。

経済的背景もある。相続税だ。誰でもそれなりの財産をもって死ねば国に半分召し上げられる。しかし例外がある。伝統芸能だ。襲名披露してご贔屓筋を引き継げば親父とかわらず食っていけるが、芸名というブランドに相続税はかけようがない。議員の「票田」(地盤や後援会システム)はそれと全く同じであって、田舎で庄屋の子は庄屋のノリで親父が息子をよろしくといえばそのまま票が受け継がれ、それには技術的に相続税の計算のしようがない。よって経済的にも政治的にも目減りなく子孫に継承できてしまい、贔屓筋も息子にたかればおいしい思いをずっとできるから誰も反対しない。歌舞伎や落語は公職でないからそれが許されるが、議員の身分は公職中の公職である。これがおいしいファミリービジネスになるなど論外であること、世界の常識など持ち出すまでもない、国益に尽くすべき議員という立場の憲法第1条、あまりに当然のことである。これが馬鹿息子が続々と当選し、世襲議員が続々と生まれてくる利権メカニズムである。

わかってはいたが、僕はこれ(安倍総裁の眼)で世襲を良しとしようと思った。大臣になるような議員には交渉力で相手を屈服させる能力が必須だ。しかしどう見ても外国の猛者相手にそれができる者は半分もいるとすら思えず国費の無駄である。だから国会議員は半分にしろと言っている。交渉は言葉でと言われるが、眼がものをいうことを何万回もビジネス現場でやってきた僕は知っている。しかしそういうことは練習してできるのではないかもしれない。そう納得してみた。しかしそれは安倍家だけの話であったのかと今回の件が愚考を粉々にしてくれたのである。依怙贔屓やり放題社会になって平等、機会均等を壊せば多くの才能ある若者のモチベーションを根底から削ぎ、やがて民度はさらに凋落して日本国というゆかしき存在は崩壊し、父祖の努力が灰燼に帰することは必定だ。そんな日本は見たくない。世間は「格差社会だ」「二極化だ」と騒いでいるがそれをいうなら「政治の貴族化」であって、対策を打ち出す立場の行政府や立法府の中枢がお血筋によって固定された貴族なのだ。貴族制を廃止して自ら平民になった貴族は歴史上いない。

だからこれを打破するには対抗できる強い野党が出るしかない。一党だけ貴族を辞めて清貧を見せても選挙に勝たなければ無意味だ。しかし、この人たちも同じ貴族を味わっちまった議員である。小ぶりでも地盤を利権として相続したい欲はあるだろう。「ビジネス野党」という、国会質疑でテレビに出られるタレントとして政治を家業としている万年二軍でいい人たちなのではないかという疑念が僕からは申しわけないがいつまでたっても抜けない。その証拠が、自民を倒すには野党共闘しかないのにその気配すら見えないことだ。民族問題と混線して理解されているのもいけない。そこだけは譲れない多種多様な中道右派の有権者をザトウクジラみたいに飲み込む自民党が、あれだけ派閥闘争して政策などわけがわからなくなってるのに勝利という構図はいつまでたっても変わらない。昨今は維新がいい線行ってるなと思っていたが、自らすすんでクジラに飲み込まれることで公明を追い出して後釜に座る路線だろうか。トロイの木馬作戦なんて言ってるがおいしい自民党員になって大臣ポストが欲しいのだろう。維新がくっついた自民の世襲率はやがて5割を超え、三等国だと世界の笑いものになるだろうがファミリービジネスに邁進する貴族の共同体という仮定が正しいのならば領地の農奴がどうなろうとどうでもいいだろう。

志のある若者たちは明治時代までで大半が足りてしまう日本史の受験勉強はいったん忘れて、明治以降、とくに大正~昭和から現代にいたる日本人が最も見たくない部分の生々しい歴史を虚心坦懐に学びなさい。それをせずに日本史を分かったなど、マル経だけで経済学を語るようなものである。

三等国になっていいはずがない。一等国の評価とプライドを勝ち取るのにどれだけ先人の血と汗と涙が流されたことか。これを忘れたり無視をするなら、君らは知覧の特攻平和記念会館へ行って涙一滴流さず帰ってこられる人だろう。きっかけはいうまでもなく下級武士が主体である明治の元勲の志が高かったからだ。アジアにそんな国は日本をおいて一個たりともなかったのは武士は日本にしかいなかったからだ。維新の十傑のうち七人が暗殺、刑死、敗北自決などの異常死を遂げており、結果論とはいえ文字通り命を懸けていたことを疑う者はない。だから元来は国家意識などなく諸藩に属していただけの民が王政復古の号令で天皇という求心力に目覚め、日本国のためと徹底奮起して二つの戦争に勝った。

しかし、大谷翔平選手がWBCのミーティングで選手に警鐘を鳴らした通り「憧れるだけ」で欧米を抜けなかった「科学技術の差」が致命傷になって三つ目に大敗するのである(なぜか日本の役所は文系が偉い)。国家資格まで失うという未曽有の屈辱の底の底まで墜ちた。そこで発足した自民党なる米国礼賛政党に明治の志があったかというと、米国の信託統治下ではもう何でも仰せのままにといいながら「立派な負け犬」になる根性を見せるぐらいでそんなものは到底あるはずもなかったのである。ここは卑屈になることはない。誰が悪いわけでもなく歴史の流れで仕方なかったと思うしかない。人間は失敗から学ぶ者が勝つ。取締役から臨時の見習いに降格にはなったが、また這い上がればよかったのである。

それは実現した。当時の日本人にはその気概があった。その時代に生まれ経済界で生きた人間のひとりとして声を大にして言わせてもらうが、朝鮮戦争の特需で利を得てそれを賢明にも資本に回していわゆる「高度成長期」(1955年~1973年までの19年間に年平均10%を達成した期)を焼け野原からわずか10年で実現して世界の度肝を抜き、しかもそこからたったの16年である1989年に株式時価総額が米国をぬいて日本は世界一になった。

証券市場に詳しくない人はピンと来ないだろうが心に刻んで欲しい。株式時価総額で米国を抜いたということはWBCで米国に勝ったことの1億倍ぐらい凄まじい快挙なのである。だって上場していて株交換で買収しかけられたらひとたまりもないでしょ?フェアプレーだから真珠湾と違ってやられても戦争仕掛ける理屈も立たないでしょ?つまり株価は経済のみならず国力の源泉、最強の武器なのだ。このことは米国が最もよく知っている。欧州も中国もよ~く知っている。日本の政治家、官僚、学者、メディアだけが知らない。頭はいいからわかっていても骨身にしみてないし策もない。

経済力で日本に負けた。これがあったから米国政府は日本の台頭を心底から恐れ、なりふり構わず貿易摩擦戦争を仕掛け、円高誘導を仕掛け、BIS規制(バーゼル合意)で日本経済を徹底的に叩き潰しに出たのである。これは凄まじかった。英国のシティで最前線で世界の金融界の目玉商品であった日本株ビジネスを戦っていた僕はその生き証人である。中国の時価総額はまだ半分だがやがて抜かれるのではないか。そうなれば合衆国は丸ごと買われる。中国が核戦争を仕掛けたり台湾を武力制圧するなんて実は考えてないのに、だから、いま必死に株式市場から中国資本と企業を閉め出し、インド太平洋圏構想で囲い込んで叩こうとしているのである。

これをわけもわかってない左翼やらメディアやらが「昭和末期の空前の馬鹿騒ぎ」だの「バブル崩壊で貧しくなった」だのと負の側面だけ誇張する。それこそ馬鹿も休み休みにしろである。だからその不条理を体感し、24時間戦えますかのリゲインを飲んでふざけんなとなった民間企業の兵士たち、おそらくは多くの皆さんのお父さんの世代が「企業戦士」「経済は一流、政治は三流」というサラリーマン川柳なみに鋭い言葉を職場で飲み屋で自嘲気味に大流行させたのである。戦うどころか戦地にいもしなかった政治家やジャーナリストが「経済も二流になった」などと軽々しくほざくのを見るにつけ、こいつら偉そうに何様なんだと怒りを覚えるしかない。

当時の戦士、戦友の名誉のために特筆しておくが、世界を驚嘆させ、地に落ちた敗戦国だった日本国の評価を一気に “一流国” まで高めた「高度成長」なるものは、民間企業が真面目に勤勉に知的に賢明に壮絶に、それこそ命を賭して頑張った成果物なのである(僕の勤務地では過労で2人が白昼に亡くなった。皆さん信じられますか?)。ひとこと付言しておくが官僚も国の利益と威信のために頑張った。僕はそういうポストではなかったが、共に戦ってくれた印象はある。しかしだ。断言するが、一流国になったのは政治家が優秀だったわけでも命を懸けてくれたからでも何でもない。

歴史をふりかえれば歴然だ。米国の策略は金融(カネ)と貿易(モノ)に国際ルール(のふりをした)改訂の足かせをつけて日本を叩き潰すことだ。仕掛けてきたのは政治レベルの脅しであった。そこで絵に描いたように宇野、海部、宮沢、細川、羽田、村山と冗談にもならない低レベルな政権が続く。結構まともな橋竜が失脚させられ、いよいよ小渕、森という妖怪水準のドツボにはまる。すでに日本潰しは完成しており米国はもうどうでもよかった、米国シンクタンクの幹部と何度か会ってそう感じた。次はポピュリズム巧者の芸を買って2001年に小泉を使い日本収奪の金儲けに出た。IPO幹事に米系を押し込んで唾をつけたNTTに始まり郵政がおいしかった。これがあからさまな米国利権政権の端緒だった。第二の敗戦でまたギブ・ミー・チョコレートが出た。安倍第1次政権がそれに続き、結果は辞任と情けなかったが2次では彼は多くを学んでおりましだった。少なくとも失業を減らし株価を上げた。何偉そうなことをほざいてもその2つができない総理は無能だ。しかし代償もあった。万年与党の自民党が地位に甘え、議員は勘違い貴族化して堕落し、意思決定には官僚人事という裏技まで弄する横暴が目に余るようになった。

このあたりの風景は二・二六事件の背景への教科書的説明である「青年将校たちは政治政党は財閥と結託して堕落している、軍部は利権を握って横暴を極めていると考え決起した」とそっくりだ。財閥を米国中国、軍部を自民党におきかえればほとんどそのままだ。我が祖母の旧姓は真崎である。僕は台湾の警察署長のおじさんとだけきいて育った。息子くんたち、この音声は知ってるかな?

重い。何十回聞いたかわからないが平静に眠れなくなる。こういうことは二度と起こしてはいけない。岸田総理がもしそう思ってるなら、ほぼ確実にそうは思ってない息子くんを怒鳴って制止するぐらいはしたんじゃないかと思いたいが、一緒に写真撮ってたようではある。そこがこれのあった場所だよ。他人も入れてたみたいだが昭和11年の技術でこんなに盗聴されてる。ごめんなさいじゃ済まないだろ、それ。

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Categories:______歴史に思う, 政治に思うこと, 若者に教えたいこと

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