勝手流ウィーン・フィル考(4)
2013 MAY 6 0:00:52 am by 東 賢太郎
とりあえず思いつく僕のウィーン・フィルCDのベスト3です。
第1位 マーラー「大地の歌」 ブルーノ・ワルター指揮、キャスリーン・フェリアー(アルト) (52年)
マーラー嫌いの僕ですが、この曲は時々聴いてます。しかしフェリアーの細かいヴィヴラートは実はあまり好みではなく、その分同じワルターの9番に気があったのですが花崎さんが挙げられたのでこれにしましょう。ウィーン・フィルの音というとこれが原点に近いからです。モノラルながら彫の深い良い音でオケの立体感もあります。それにしてもマーラーの愛弟子で当曲の初演者でもあるワルターの指揮は見事で「告別」(第6楽章)の最後は何度聴いても心を打たれます。47年にフェリアーがワルターと初めてこれを演じた時、そこに来て感動のあまり泣いてしまい、最後の”ewig”をついに歌えませんでした。謝罪されたワルターは「大丈夫ですよ。でも、もしあなたぐらいすばらしい芸術家ばっかりだったらみんな大泣きで大変だった」と慰めたそうです。
第2位 チャイコフスキー交響曲第5番 リッカルド・シャイー指揮
1980年、イタリアの俊英で弱冠27歳(!)の若造(失礼)だったシャイーのこれがデビュー盤でした。これを初めて聴いたときの電気が走ったような感動はまだ覚えています。テンポは伸縮自在、強弱は外連(けれん)を尽くし、主題はくっきり。ちまちました交通整理などどこ吹く風。欲しい音はエンジン全開で引き出す。歌う。若さの勝利です。おじさんには恥ずかしくてできません。それに興味を示したのか、最初は素っ気ないネコのウィーン・フィルがだんだん面白がって本気になって・・・そういう感じなのです。白眉は第4楽章でしょう。音を割るホルン、むき出しのトランペット、綺麗ごとでなく吠えるトロンボーン、ガツンとくるティンパニ、木管が原色の音丸出しでノッているのが分かり、弦セクションは体をゆすっている(はず)。ネコが完全に本気になって疾走するコーダのものすごさ。これをチャイコ5番ベスト3に入れるのに躊躇は全くございません。こんなウィーン・フィルをライブで聴けたらなあ!
第3位 ラヴェル バレエ音楽「ダフニスとクロエ」(全曲) ジェームズ・レヴァイン指揮
アメリカ人のウィーン・フィルによるフランス音楽。85年録音で、この頃から非ドイツ系レパートリーが増えていましたね。ベームのもっさりした火の鳥なんかのイメージがあり期待せずに買ったCDですが、何故か(?)とても上手い。こんなヴィルトゥオーゾ・オーケストラだったっけと驚きました。ただ、モントゥー、クリュイタンス、マルティノン、デュトワ、ブーレーズなどの色香や洗練とは味わいが異なり、ラヴェルのイディオムを弾き(吹き)慣れていないオボコい感じがあるのが好きでたまに聴いています。遠近感、合唱の扱い、メリハリは舞台を感じさせ、オペラ指揮者と歌劇場管弦楽団の相性を感じます。それでも弦の暖かい音色や木管の色彩はまぎれもなくウィーン・フィル。ぞくぞくするほど美しい。デリケートな部分ではフランスのオケにはない官能性を感じますが、どこか貴族的でもあります。たまに違った遊びをやるとネコは喜ぶのです。
以上ベスト3ですが、あれを忘れてた、こっちもいいぞというのがまだまだあります。花崎さん、ぜひ続編もやりましょう。
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花崎 洋 / 花崎 朋子
5/6/2013 | 10:04 AM Permalink
東さんがベスト1に挙げられたCD、実は、私も最初、絶対に1位に挙げようと思っておりました! そして、おっしゃる通りの理由(夭折した名コントラルトのフェリアーの歌い方に癖がある)で外してしまい、9番を採った次第です。このマーラーの大地の歌、確か中学2年の時に初めて聴き、クラシック音楽の世界に一気に引きずり込まれる契機となる、私にとっても記念碑的な超名演です。
レヴァインのラベルを3位に挙げられたのは、如何にも東さんらしい絶妙な選球眼の賜物と思います。まさに「たまには、ネコに違った遊びで刺激を与えよう」ですね。
シャイーのチャイコフスキーは未聴です。楽しみが一つ増えました。
東さんによる続編をお待ちしております。私も、もう一回は投稿させていただきます。
花崎洋
東 賢太郎
5/6/2013 | 11:28 AM Permalink
今は知りませんがマーラーがこんなにメジャー路線に乗っていなかった僕らの時代、大地の歌を中学2年で聴いて開眼というのはとても早熟ですね。聴こうと思ったきっかけは何ですか(それだけでもすごいことです)。僕のボロディンとはえらい違いです。クラスや周囲にもそこまでのオトナはいませんでした。僕の場合16年の長期海外駐在という幸運があっただけですが花崎さんはやはり保守本流のクラシック・リスナーだと感服いたしました。
花崎 洋 / 花崎 朋子
5/7/2013 | 6:48 AM Permalink
確か、FMファンという名の番組紹介雑誌で、NHKFMが「中秋の名月の日に聴く名曲」という特集番組を組むことを知り、何となく面白そうだなと思って番組全体を録音したのがきっかけだったと記憶しております。その番組の中で最もインパクトがあったのが、マーラーの大地の歌で、後の曲は何だったか、今は全く思い出せません。その番組内では他の曲とのバランスを取るためでしょう、大地の歌は第1楽章と第2楽章のみしか放送されませんでした。が、第1楽章の何とも衝撃的な音楽づくりとテノールのパツアークの虚無的な歌い方に、かつてないショックを受け、すぐに全曲を聴いてみたくなって、LP盤を手に入れた次第です。東さんに「保守本流のクラシック・リスナー」とおっしゃっていただき、たいへんうれしく感じております。
東 賢太郎
5/7/2013 | 10:28 AM Permalink
そうですか。僕は大学の生協で買ったショルティのLPでした。ところが不良品で雑音がひどく、ショルティのせいではないのですが何となく疎遠になってしまいました。多感な頃ですから曲との出会いというのはけっこう覚えているものですね。このワルターとクレンペラー(同じぐらい好きです)で真価を知った次第です。
花崎 洋 / 花崎 朋子
5/7/2013 | 11:26 AM Permalink
そうですね。大昔の話ですが、昨日のことのように覚えています。私がクラシック音楽に足を踏み入れる契機となったのが、このワルターの大地の歌と、もう一つが、クレンペラーのモーツアルト40番です。ところで、クレンペラーとウィーンフィルとの共演は、あまりなかったように感じますが、実際は、どうだったのでしょうか?
東 賢太郎
5/7/2013 | 12:12 PM Permalink
確かにクレンペラーはあまり近くなかったのですが何回かある公演はほぼすべて楽員に強いインパクトを残しています。特に68年にウィーン芸術週間で振った5公演は語り草で録音も残っています。4番と一緒にやった「運命」は僕はベスト3に入れたい名演です。
花崎 洋 / 花崎 朋子
5/8/2013 | 6:26 AM Permalink
東さん、貴重な情報提供を有り難うございました。どう見ても相性の良くなさそうなクレンペラーを招聘し、しかも名演奏を成し遂げてしまう。ウィーンフィルの凄さを、つくづく感じます。