モーツァルト 弦楽四重奏曲集 「ハイドン・セット」
2014 MAR 11 21:21:48 pm by 東 賢太郎
この6つの名曲を「セット」と呼ぶのは牛丼セットみたいでいやである。作曲者がそう呼んだわけでもないし。1曲ずつ書こうか・・・。散々迷ったが、6曲をよく御存じの方との意見交換よりもこれを聴いたことのない方にまず聴いてもらうほうが大事だろうという結論に至りました。モーツァルトに申し訳ないがまとめてしまおうということに。
来歴はこれにおまかせするのでお読みください(ハイドン・セット – Wikipedia)。
ということで僕はこの6曲がいかに素晴らしい音楽か、あなたが少しでもクラシックにモーツァルトにご興味があるなら ”絶対に” 聴かなくていはいけない曲ですよということを縷々ご説明することになるのです。
前回、ボロディン四重奏団のチャイコフスキーの1番を挙げて弦楽四重奏曲の魅力をご紹介しました。それは音のサンプルとしてであって、曲のサンプルとして挙げるのがこの6曲ということになります。これらは弦楽四重奏の歴史における代表的な名作であると同時にモーツァルトの全作品中でも屈指の名曲であり、何を聴くの?これでしょ!という存在。食わず嫌いはもったいないのです。
モーツァルトが「6人の息子」と呼んでいるこの6曲に好きな順番をつけるのは僕には難しい相談です。そこで、どういう時にどれを聴いているかを2行コメントでご紹介しながら各曲の個性を書いてみましょう。
①元気になりたいとき 第17番変ロ長調 K.458 「狩り」
モーツァルトの作中でも最も明るさと元気をくれるアリナミンみたいな曲のひとつ。この第1楽章を聴いて暗くなれる人います?
②気をひきしめたいとき 第15番ニ短調 K.421
人生甘くないぞ。自分を戒める。第3楽章は妻コンスタンツェがお産の陣痛であげている悲鳴を音にしたという説すらある!辛くてもね、頑張ればいいことあると思えます。
③伸びをしてリラックス 第14番ト長調 K.387
どこか安心、ゆったり感の第1楽章。この曲、「春」と呼ばれることもある、そんな感じ。寒さが癒えると、最後はフーガ風になってもう夏の予感が。
④ちょっとミステリー 第16番変ホ長調 K.428
ちょっと謎めいたメロディー。なにが謎なんだろう?笑顔を見せない美人みたい?それが最後の楽章でころころ笑う。それも謎だ。
⑤今日は勝負だ 第19番ハ長調 K.465 「不協和音」
暗~い雨雲がきれると紺碧の青空だ!モーツァルトの最高のアレグロが走り抜ける!眠気はふっとび、頭がさえ、勇気があふれてくる。アドレナリン効果は抜群です。
⑥癒されたい夕べ 第18番イ長調 K.464
いい日でもあまりよくない日でもまあいいさ、難しいことぬきで。風呂上りにスコッチを軽くやって頭は空っぽに。ああなんて幸せなんだろう、よく眠れそうだね。
イメージ持っていただけましたか?ぜんぜんちがうじゃない?いえいえ音楽は人それぞれですからどう感じてもいいんです。あー聴けこー聴けなんてクソくらえで。室内楽はちょっとという方もおられるでしょう。でも、だまされたと思ってこの6曲をきいてください。「モーツァルトはハイドンセットが好きですね」なんてさらっと言えるオシャレな自分を想像してみてください。あなたは間違いなく世界のクラシック好きをドキッとさせるでしょう。そうして、あなたのあなた自身へのイメージも変わっていることでしょう。
CDはバラでなく全曲買ってください。売っているものどれでもけっこうですが、以下は単に僕の好みです。名曲ですから名演はたくさんあります。ちなみに僕は大学時代にメロス四重奏団の不協和音K.465をカセットに入れて毎日のように聴いて元気をもらっていました。心の漢方薬としてモーツァルトの効き目は確かにありますね。アドレナリン効果を求めるなら下記のジュリアードSQがおすすめですが、メロスはメロスできりっとしたもぎたてのレモンの味がします。いろいろ持っておくとTPOで使い分けられて楽しいものです。
ジュリアード弦楽四重奏団(1962年録音)
僕が音程にうるさいのはほぼ病気です。これも完ぺきではない(K.428など)のですが、すべてのCDの中でかなりいいですね。だから安心して音楽に集中できる最右翼です。第1ヴァイオリンを弾くロバート・マンは一度ロンドンのウイグモア・ホールでリサイタルを聴きましたがこういう弾き方でした(当たり前か)。語り口はきびきび系でこの歯切れ良さきっぷ良さはまあ江戸っ子のべらんめえでしょうか。セルの指揮するクリーヴランド管の四重奏版といったイメージです。K.465 「不協和音」です。
ジュリアード弦楽四重奏団(1977年録音)
同じカルテットの新しい方です。マン以外は全部メンバーが変わっています。こちらはべらんめえがややソフトになっていて江戸っ子もちょっと大人になったかなという感じ。こっちの方がモーツァルトらしいという人がいてもおかしくないでしょう。ただ旧盤より音程が若干ですが甘目(特にヴィオラ)なので僕的には第2位なのです。なんかソチのモーグルかフィギュアの採点みたい?そうですね、ニ短調のメヌエットなんかこっちの方がいいし・・・。まあお好みの方ということで。
スメタナ弦楽四重奏団(1982年録音)
プラハ、芸術家の家でのPCM録音でCDの最初期に3800円で発売されました。スメタナSQは75年に全曲入れています(旧盤)がそれは落ちます。しかしなぜかこの新盤は17番「狩り」と15番ニ短調だけしかありません。そしてこの2曲は演奏も録音も上記ジュリアード盤2種をしのいでいるから全曲でないのが返す返すも悔しいのです。これは弦楽四重奏演奏史に残る名演(特にK.421)でありハイドンセット演奏でも文句なしの金メダルを与えられる演奏です。ぜひお聴きください(i-tuneに同じ組み合わせがありますが旧盤です。これではありません)。
趣味とはいえジュリアードのスタイルだけご紹介というのはどうも罪悪感があるので、ウィーン流の古典的なモーツァルトも挙げておきましょう。バリリ弦楽四重奏団のK.387 「春」の第1楽章です。この曲に関するかぎり、上に書いた僕のイメージに近いのはこっちかもしれないと思う名演です。
このブログに書いたゲヴァントハウス弦楽四重奏団は良かった。
その「不協和音」もなかなかである。
(補遺、21 June17)
第14番ト長調 K.387にはカルヴェ四重奏団による絶品の演奏がある。カルヴェの第1ヴァイオリン主導のアンサンブルなのが時代を感じさせるが、4人の音楽性は誠に格調高く均質であり、ひとつになって高雅なモーツァルトを奏でる様は何度聴いても引き込まれてしまう。
(こちらへどうぞ)
テツラフ・カルテットを堪能(ベートーベン弦楽四重奏曲第15番イ短調作品132)
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Categories:______モーツァルト, クラシック音楽
中島 龍之
3/15/2014 | 10:41 AM Permalink
私の好きなタイプの音楽です。バッハの「ブランデンブルグ協奏曲」と同じように好きというところです。ハイドンは聴いてませんでしたが、聴いてみようという気になりました。「ハイドンセット」は、ジュリアード弦楽四重奏団の77年の方を買ってしまいました。
東 賢太郎
3/15/2014 | 2:59 PM Permalink
よかったです。77年盤の方がいいという人もたくさんいますし座右のCDとして聴きこむ価値がある名盤です。この6曲にはモーツァルトのエッセンスが詰まっています。