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楽天イーグルスの嶋捕手に見るリーダーの条件

2014 JAN 12 22:22:39 pm by 東 賢太郎

きのうTVを見ていたら楽天イーグルスの嶋捕手が「将来は監督ですね」ときかれて「いえ、経営者になりたいです」と答えていた。彼は非常に印象的な男だ。

あの震災直後の有名なスピーチで「これを乗り越えたら明るい未来が待っているはずです」「見せましょう、東北の底力を!」と訴えた。誰も知らない未来を予見し、私もやるから皆さんも、ということだ。この言葉は流行語大賞にノミネートされた。感動はしても99%の日本人のあそこから出てきた反応は寂しいことにそれでおしまいだ。

国民を感動させたのは、あのさなかに東北に不意に現れた「強いリーダー」の姿がそこにあったからであった。なぜリーダーかというと、下線部の2点にこそリーダーの必要十分条件であり、彼のスピーチはそれを完璧に満たしているからだ。彼から大事なことを教わることができるという事実こそ、これからリーダーになる若い方たちに学んでほしいと切に思うのだ。

ああいう言葉は左脳型の秀才からは絶対に出てこない。明るい未来が待っている?どこにその保証があるんだ?誰がそれをもたらすのだ?反論されたらどう答えるんだ?と思考するのが左脳だ。みんなそうありたいと思っているはずだから反論があるはずはないだろう、と直感に基づく仮説を立てるのが右脳だ。左脳型の人は、ここで左脳が勝ってその仮説を否定してしまう、だからああいうことは言えないのだ。

それが言えないということは、断言してもいいが、左脳型は強いリーダーに向いていないし、なりたくてもなれないという意味である。なれば組織を潰してしまうだけであり、その例は無数にある。では嶋捕手は右脳型で、直感と空気だけで動く人間だろうか。いや、そうではないと思う。右脳がたてた仮説を左脳が吟味して、よし大丈夫だ行け!と協調して判断している感じがする。つまり左脳型でもあるのであって、右も左もつよい、一言でいうならほんとうに頭がいいということである。

想像だが彼はそれを投手のリードから学んだのではないか。ミットをどこに構えるかは右脳の直観である。左脳が結果を吟味する。そのぐらいはどの捕手もやっているが彼は左脳が右脳の指示の成功確率まで学習して、その高さが信頼感にまでなっている感じがする。しかし、そこまでなら普通のプロの捕手だ。それを職業にして一流の人たちだから当たり前だろう。彼はそれをその道の師匠である野村監督から習ったはずだ。

普通でないのは、その左右脳の協調が一見関係のないスピーチという場面に応用できているかもしれないことである。「野球脳」が「社会脳」になっているかもしれない。そうならすごいことだ。彼のTV画面上での言動に対する僕の観察結果はイエスだ。こういうのを「思考回路」という。誰でも思考ぐらいはするが、野球という特殊な世界で得た思考回路そのものを正しいと仮定して、未知の社会というケースに当てはめて結果を検証していく行為は「帰納法」と呼ばれる。知識レベルでならそれができる人は多くいる。しかし回路でできる人は、日本人では僕の経験で100人のうち2、3人しかいないのだ。しかも面白いことに、高学歴だからそれができるわけではなく、むしろその逆かもしれないとすら思うことだ。

実はこれこそが数学能力のエッセンスである。数学のできない人は確実に、これに如実に弱い。例えば、それのきわめて初歩的なものが比喩である。AとBの関係を説明するのに、その人には専門的過ぎて難しいと思ってもっと簡単で似ている「CとDの関係みたいなものです」と示すのが比喩だ。ところが驚くことにそれすらすぐにわからない人がいて、たいていそういう人は比喩を言うとかえって混乱してしまう。こういう帰納能力を見ればその人の数学の偏差値がどのぐらいだったかまで僕はわかる。嶋君の場合おそらく自分で回路をどんどん応用進化させられるタイプであり、要は、非常に数学頭のいい人と見る。野球だけにとどまる師匠はとうに超えている。

くりかえすが、「誰も知らない未来を予見」し、「私もやるから皆さんも」と訴える、この2点こそリーダーになるための必要十分条件である。このどちらが欠けても絶対に人はついてこないし、両方そろえば99%はついてきてくれる。それは僕が25年も現場のリーダーとして試行錯誤し、失敗と成功の体験から抽出した結論である。リーダーになりたい人はその2つを咀嚼して、帰納法的に、同時に満たす自分なりの方法論をあみ出せばいいだけである。ハーバード流のスマートなリーダシップの理論など、はっきり言ってまったく不要である。

なぜか?理由はもう自明だろう。そういうものを書いたりしゃべったりする人は左脳型だからだ。従って、以上に述べた論拠によって、自分にそんな経験があるはずがない。経験もない者が人を導けるはずがないのだ。走り幅跳びをやったことのない人が「物理法則だから45度の角度でジャンプしろ」などというようなもので、物理の本を読んで金メダルを取った人がどこにいるだろう?そういう手合いのジャンクフードのようなノウハウ本が書店にあふれている。若い人はそんなものは読まないことだ、読めば頭が悪くなるだけである。著者に悪気はないだろう。なぜなら、そういうことが教えられるという勘違いを平気でできるのが左脳型の最大の特徴だからである。

この2つは誰でもできそうに聞こえるが実は非常にむずかしい。「私もやる」、これは当たり前である。「未来予見」が困難なのである。結果を当てることがではない。誰もが納得できることでないといけないからだ。左脳は計算はするが予見はしない。計算できる予見はすでに確定事象であって予見ではない。わかっていることを訴えてもリーダーの存在意味がない。予見は右脳の仕事なのである。しかし未来予見は他人が納得する以前に自分が納得していないといけない。そうでないと簡単に人は説得されないのだ。ここが大事である。つまり自分の右脳を信じる自分の左脳が優れていると信じてもらえないと、それは単なる「いけいけどんどん」であり「ホラ」になってしまうからだ。

嶋君は左脳も優れているはずだ。リーダーである経営者に必要なのは学歴ではなくリーダーの資質である。彼は問題なく大企業のそれになれるだろう。学歴にこだわるのはその資質がないからで、学歴だけを見て頭の良し悪しを判断する人たちほど頭の悪い人種はない。嶋君の学校時代の成績は知らないがちょっとやれば東大に入るぐらいのレベルと見た。TVで最後に書いた色紙には「本質」とあった。普通の野球選手は根性やら信念とか一球入魂だろう。彼が10年後に経営者になれないなら僕は会社経営を辞める必要がある。たいへん楽しみな男である。

 

 

 

Categories:______プロ野球, ______気づき, 野球

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