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スープの冷めないうちに・・・

2014 FEB 19 20:20:33 pm by 東 賢太郎

「スープの冷めない距離」というのが何メートルなのかは知らないが、書きたいのはそれではない。「スープの冷めないうちに」である。

ビジネスはbusinessと書く。busy+ness(名詞形)であり「busyである状態」、それが転じて「busyでないと出来ない物事」=仕事になった。それでは、その原意であるbusyというのはどういう状態だろうか。

「忙しい」というのは「あくせく何かをしていること」だ。しかし、どんなにそれをあくせくしたとしても、飲んだり食べたり遊んだりに「忙しい」とも「busy」とも言わない。それは、「必ずしも本意ではないのだが、何か避けがたい理由で自分の時間を拘束されている状態」でなくてはいけないのだ。

英語で、何かにお誘いを受けて断るときに、I’m afraid I’m busy today. となるが、I’m afraidが付くところに「本意ではないのだが・・・」のニュアンスがにじみ出てくる。

「飲み会?本当は行きたいんだけどね、***があんのよ今日。ごめんね。」

ということ。何かの理由で***の方を飲み会に優先させなくてはいけない事情を残念がって見せている表現だ。そして、ここが重要なのだが、***は「飲んだり食べたり遊んだり」ではだめなのだ。誘っている人が先輩だったりすると、

「先約の飲み会がある?っていうと俺の酒が飲めねえってことかい?」

なんて言われかねない。「今日は焼き肉が食べたいので・・・」なんて理由だったらバカヤローで二度とお誘いは来ないだろう。つまり、busyというのは、なにか先輩も文句を言えない「やんごとなき理由」なのだ。ということはその名詞形であるbusinessというのもそのはずだ。

ところがもうひとつ仕事を意味するoccupationというのがある。「自分をoccupy(占有)するもの」である。しかしこれは、「その人が24時間の大部分をつぎ込んでいるもの」であり、その時間シェアという静的な部分に視点があるから「職業」というニュアンスだ。一方でbusinessは「時間がない」、「やんごとなき理由で」と人間臭くて生々しい動的な言葉だ。だから商業的なニュアンスが強く、大統領や役人の仕事をbusinessとはいいにくいだろう。

では次に、どうしてbusyなのだろうか。明日に回して先輩の飲み会に行けばいいではないか。ここがポイントである。ビジネスというものの本質を鋭くついている部分だ。それは「今やらなければいけないもの」なのだ。今やるから商売になるのであり、明日ではだめなのだ。その火急性がbusyの理由であり、タイムリーにやるからお金をいただけるのであり、いつもbusyな状態にある人のことをビジネスマン(businessman)と呼ぶのである。

僕は証券業務のおかげでこのことが骨身にしみている。株価は時々刻々変動する。5分前までの売れ筋商品が今は不良在庫だなどという恐ろしい経験を山ほど積んでいる。だからこそ「busy」なのだ。先輩と焼酎など酌み交わしている場合ではない。そして、これが大事だが、いつでも職場に張りついているわけでもないのである。そんなことをしたら過労死してしまう。飲んで遊んで憂さを晴らす日が絶対に必要だ。だから、

今が「その時」かどうか?これを判断することが、「ビジネス」には大変重要なのである。

ずばり指摘するが、この嗅覚が鈍い人でビジネスができる人を僕は人生この方一人も見たことがない。古今東西、万国共通どころかもう宇宙定理である。そういう人でもつとまるのは役所とそのデリバティブのような業界だけである。そして、そういう業務はbusinessなどと呼んではいけない。それこそがoccupationの正しい定義なのである。

意味もないことを頑張ったり、意味もなく役職にこだわったり、意味もない会議を延々とやったり、意味もなく残業したりさせたり。そういう組織は短い人生をすばらしくoccupyしてくれる。親方日の丸だから安全だ。だから五感がどんどん退化する。そうなったら「その時センサー」は錆びついてボロボロ、復活は難しいだろう。

「その時」というのはいつ来るかわからない。だから面白いのだ。それが来たら、すぐやる。まさに「今でしょ!」である。僕はそのことを「スープが冷めないうちに」と部下に教えてきた。日本の組織には名コックはたくさんいる。だからスープはうまい。ところがわけのわからんお毒見役などがたくさん出てきて、OKが出るのに1年もかかって皿ごとカビが生えていたなんていうケースが増えたのがこの10年だ。「その時」を逸したら仕方ない。あっさりあきらめる。深追いは危険だから絶対にやめた方がいい。

意味不明のお毒見役が日本経済の振興機会をかなり損ねてきたのが失われた20年の後半戦だった。「その時」というのはリスクがない時ということではない。そんなところにリターンがあるはずもない。「リスク・リターンが良い時」なのだ。だからアクセルを踏んでいいし、踏めば踏むほどいい。ところがお毒見役の見解を待っているうちに半年もたってしまい、よし安心だと満を持して踏んだときには「すっ天井」だ。これは日本の金融機関の海外ビジネスのお家芸として世界中に認知されている。

「リスク・リターンが良い時」に一気に攻め込むと、余剰のリターンでリスクをさらに潰せるから勝率が高い。この状態でのみ「ブルー・オーシャン戦略」が可能になるから当たり前のことである。資本力があるから少々「レッド」になってからでもいいだろう、だからその前にまずはお毒見だとなり、機を逸して参入してしまい、自慢の資本力にあかせた豪快な大損をこいてきたわけである。毒見は無用だ。ブルーならやる、レッドになったらあきらめるでいい。サムスンと日本企業の戦いはそれを絵にかいたようなものだった。

今日このブログを書いたのは、今がブルーだと我が身を鼓舞するためだ。10年前よりは瞬発力も気力も落ちている。おまけに風邪気味だ。3月末当たりが期限だ。赤信号に変わる前にやってしまおう。

 

僕はスナイパーしか使わない

 

 

 

 

Categories:ソナーの仕事について, 若者に教えたいこと

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