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ハイ・ファイ・セット 「メモランダム」

2014 DEC 27 0:00:01 am by 東 賢太郎

中学高校のころみんなオールナイトニッポンなんて深夜放送をきいていて洋楽、ポップスはこれが情報源みたいなものだった。僕は中学、高校は家が遠かったので朝が早くあまりきけなかった。だからポップスはいつも乗りおくれていて話題についていけない。オリビア・ニュートン・ジョンはジョンだから男だと思っていて、そういうのに詳しいのが自慢のシティボーイどもにばかにされた。

大学になって下宿させてもらった。法学部の講義というのは全部が大教室であり出席をとる課目がない。全員が勤勉という性善説で成り立っている大学なので僕のような怠け者がいることは想定がない。それをいいことにあしたの授業はまあいっかとなる。そうなると元来が夜行性である。借りを返そうとポップスを夜中に聴きまくって、だいたいのはあとからそこで覚えた。ビートルズの後期も実はそこで半ばクラシックとして聴いたので、ベンチャーズ世代ではあってもビートルズ世代というのはおこがましい。

hfs1どこでどう知ったか記憶にないが、夜中にきいたであろうグループにハイ・ファイ・セットがある。フォークの赤い鳥というのがあり、これは問題外で全然興味なし。そのメンバーだったとは信じ難いほど洗練されたヴォーカル・アンサンブルが気に入った。ただ、ビートルズといっしょで「世代」という感じでないからアルバムをきいたわけでなく、ハイファイブレンド1・2というベストアルバムを買っただけだ。

hfs2当時なけなしの小遣いでクラシックをさしおいて2枚も買ったのだからよほど気に入ったのだろう。先日それを録音して下宿に持ち込んだカセットをきいていたら、もう40年も前なのにきっちり覚えている。それにしてもいい、これは。女性はともかく男性2人は特にうまいわけではない。ところがハーモニーはピタリと純正調に決まる。それも、その和声がなんともオシャレである。

こういう音を作るのは非常に耳とセンスを問われると思う。「フェアウエル・パーティー 」「スカイレストラン」、この和声進行はまことにハイセンスである。「 スウィング」のコーラスの2度音程を含む密集和音での進行の音程の良さなど、今ならこのままアメリカへもっていって通用しそうだ。ガキの音楽がJ-popみたいになっているが、当時のは大人がじっくり聴けるものだったのだ。

「真夜中の面影」、そう、これは当時はまっていたっけ。僕的にはちょっと音があぶないカウンターテナー・ソロで頼りなくはじまる。ところがだ。あれはほんの数分前のことなのに~のコーラス、歌詞!はやく~の女声が入るとがらっと和音も音色もがらりと変わり見事なバックコーラスが!ここで完全にノックアウト、脱帽である。作曲者をみると山本俊彦、最初のソロだが、彼は今年の3月に亡くなったことを知る。なんということだ・・・。

もうひとつ、書きたい。この曲、メモランダム。ハイ・ファイ・セットのバックコーラスの和声の洗練度はカーペンターズぐらいしか対抗するものが浮かばない。

このメロディーはクラシックになる。フォークのおにいちゃんや凡庸な音大生が書ける代物ではない。今夜も呼んでいるあなた~の裏、全音で上がるマイナー7、こりゃすごい。

これも山本俊彦と思ったら違う。滝沢洋一というアーティストだ。ぜんぜん知らない。そうしたらyoutubeに彼の自作自演があった。

あまりに曲として完成度が高いからだろう、ハイ・ファイ・セットのカバーは伴奏のアレンジはともかくほぼ原曲だ。ユーミンのはかなり音もテンポもいっじてるのに!

こういう曲を作れる人はクラシックの教育を受けているんだろうか?それはイコール、ピアノだ。アメリカのシンガーソングライターはピアノが弾けそうだが日本はよく知らない。でもレノン・マッカートニーみたいにむしろギターじゃないとできない曲想もある。こんな作品ができればやりかたなんか二の次だ。

滝沢洋一は売れなくてアルバム1枚で亡くなったらしい。売れなかった?なんてことだ。クラシック世界の人は認めないだろうが僕はこういう曲はわけのわからないゲンダイ音楽などよりずっと価値があると思う。いや、僕が思わなくたってきっと聴きつづけられる。ということはコンクールが終わったらめったに演奏されない現代曲よりこっちが「クラシック」になる日が来るのだ。

おふたりとも団塊の世代、熱かった世代だ。音楽にも人生にも恋愛にもうるさくて熱い、いい時代でした。ご冥福をお祈りします。

 

(こちらへどうぞ)

マッコイ・タイナー「Fly With the Wind」

 

 

 

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