理系野球と杉内ボール
2015 APR 29 22:22:35 pm by 東 賢太郎
昨日ドームで試合を見ながら中村兄から「中日のクローザー、誰だっけ」という質問があり、はたと考えました。もう岩瀬でも浅尾でもなさそうだ。外人はいない。福谷、又吉、祖父江が候補らしいと知りました。
155km出る福谷浩司は負けゲームの昨日は出る場面がなかったですが、調べると慶応理工学部卒である。それも、成績は全優で2012年3月に「藤原賞」を受賞しているというのは立派です。今日初先発で西武に打たれてしまったがロッテの田中も京大の工学部工業化学科と理系であります。
田中を京大クンと騒ぎますが東大クンもかつて4,5人はいたし理系であることの方がよほどレアでしょう。理系が女だったら騒ぐ世間がプロ野球選手だったら無反応というのは日本的現象ですね。福谷は藤原賞クンぐらいいわれないといけません。
ところで福谷は大学で「球の出所の見づらさの画像研究」をして、その対象としてロッテの成瀬を選んだそうです。面白い研究と思いますが、僕なら「球の出所は見えそうなのに杉内がどうして130km台のストレートでストライクゾーンで空振りがとれるのか?」を研究するでしょう。
昨日の杉内は最速138kmで、それでも彼自身「ストレートが良かった」と語っていて、それでも打者は差し込まれ、外野までは4度しか飛ばず、ストライクゾーンの空振りが多く、7回で9三振取った(彼は2000奪三振最速達成者)のです。奪三振率(9回投げていくつ取るか)は野茂に次いで史上2位で、僕の価値基準ではもはやレジェンドと言っていい大投手ですね。
野茂や大魔神・佐々木も三振が取れる大投手ですが、取るのはあくまでフォークですから。フォークやスライダーで空振りを取るというのと、ストライクゾーンのストレートで取るというのは僕からすれば地球と火星ぐらい別世界の話です。投手は誰でも後者でいきたいんですが、それができないから曲げるんです。格が違うんです。杉内のストレートは美しい!王道です。でもあれで誰も勝負できないからメジャーでもフォーシームなんてわけのわからん名前のレア物になってます。
きのう初めて彼を生で見て、恐らく、その理由がわかった気がします。彼の1秒間スピン数、球を握る時系列の握力値、右足着地時の左手(球)の位置、そこからリリースまでの移動距離、移動時間、リリース時の腕と指の角度、その直後の指先の速度、以上を他の投手データと比較すればたぶん特異値があると思います。複合的に特異という可能性も含めて。どなたか研究してみて下さい。
きわめてシンプルに言いますと、リリースまでゆっくりほんわかと行って下半身を使わず、体重移動はあまりせず(手投げ)重心を落して一気に腰を回転し、左ひじは低めで、リリースはなるべく前方に持って行って、ぎりぎりまで手首が角度を保って(ここまで指に全く握力が入っていない!)、手首の角度をつけたリリースの瞬間に初めてピッと人差し指と中指の先に力が入って球を切り、そこから急速に腕を地面に向けて振る。
この前工程はキャッチボールと同じです。だから彼はベンチ前の肩慣らしでも素晴らしいスピンの球が行っています。推進力(速度)よりも回転力を大きくして、従って速くはないですが打者の手元でも直球、変化球を問わず見かけよりも高い運動エネルギー値を維持した球が行っている。そういう性質の球を投げる投手はあまりおらず、だから打者は目が慣れずにいつまでも眩惑される。見事な戦略です。
しかも、基本となるストレートは速い球、強い球ではなく伸びる球をイメージして投げ(だから省エネで長続きする)、打者にその振り遅れるタイミングと軌道を記憶させておいてから、カーブ、チェンジアップでつんのめらせる、という作戦のように思います。軌道のズレを見せるスライダーがありますが、主体はそれより前後差、見かけの緩急差で打者のタイミング、スイング軸を乱して打ち取るのがメインという感じです。
今の野球は速球と同じ腕の振りでほぼ同じ球速で微妙に球を動かして芯を外すというのが主流です。それは軌道のズレで打ち取る作戦です。しかしタイミングはズレないということだから、球が動かない失投が行くと致命傷を負います。ヒジも壊しやすいし球数100球で失投が増えると危険です。杉内の前後差、見かけの緩急差はタイミングのズレを作るので、主流派のアンチテーゼでしょう。どんな強打者でも自分の打てるタイミングからズレが出ればただの人で、打球は飛びません。ただ、それができるというのはあの異常に伸びるストレートがあってこそです。
凄いピッチャーです。今日もカープ戦そっちのけで昨日の中日戦の杉内の録画放送を見てました。他のピッチャーはどうでもいいです。一度キャッチボールしてみたい!
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Categories:______プロ野球, 野球
中島 龍之
4/30/2015 | 10:36 AM Permalink
杉内が巨人に行ったのは残念でした。あのやる気のなさそうな風貌がよくないのでしょうか。東さんの解説で杉内の凄さが少しわかったような気がします。あのゆっくりしたフォームで、スピードもないのに打者が打てないのは不思議でしたが、あのタイミングが理由なのですね。最後の手首なフリは独特ですね。肩、肘を壊さない力の抜けた投げ方のように思います。気力のない感じがいいですね。
東 賢太郎
4/30/2015 | 11:14 AM Permalink
現場で見ていて、ストレートはミットの音を聞いても明らかに球威があるんですよ。でも打者が差し込まれて内野フライの時にスピードガンを見ると132kmなんです。あり得ない感覚です。初対決の高校野球ならわかるんですが、何回も当たってやられていてビデオでも研究していて、それでもプロが打てないというのは僕の理解を超えることが起きているという感じです。「あのやる気のなさそうな風貌」、言い得て妙です。インタビューも女性的だし殺気を感じません。ピッチャーやる人間でああいうのはあんまりいないからだまされるんでしょうね。甲子園でもノーヒッターだったし術中にはまると完全試合ありの、敵からするとすごく嫌なピッチャーです。ドクターKですね。彼はどういう風に「老成」するのか、山本昌の道でしょうかね、とても興味があります。ちなみに山本昌の1秒間スピン数は全盛期の松坂より2割も多かったそうです。