リゲティ 「ルクス・エテルナ(永遠の光)」
2016 SEP 15 1:01:25 am by 東 賢太郎
皆さんこれを聴いてどう感じられるだろうか。ジェルジ・リゲティ(1923-2006)はハンガリーの作曲家で、これはトーンクラスターから発展したミクロポリフォニーの手法で1966年に作曲した無伴奏16部混成合唱曲である。
僕は目をつぶっていると20種類ぐらいの「協和音」の部類(9th、11th、13thなど)が数々の色を伴ってきこえてくる。リズムはなく残響もあるかないか不明である。一貫したp~ppの静けさが無限の見えない質量を感じさせる。見えるのは黒色を背景に時間と共に変化する淡い色彩のグラデーションだけだ。
映画「2001年宇宙の旅」に使われて有名になった。宇宙空間に音はないし宇宙に行ったこともないのだが、あるならこんなものだろうというイメージがふくらむ。このスコアにはどんな秘密がこめられているのだろう?
どういうわけか、これを聴いていると眠くなる。ゴールドベルク変奏曲で眠れる気はまったくしないが、これは脳髄の奥の奥まで入り込んで麻酔作用を及ぼし、深い眠りにいざなってくれる。不眠症のかたにはおすすめの非常に不思議な音楽だ。
Yahoo、Googleからお入りの皆様
ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/ をクリックして下さい。
Categories:______リゲティ, 映画
Rook
9/15/2016 | 2:14 PM Permalink
東さん、
2001年宇宙の旅と言うと、ついツァラトストラだけの印象が強く残っていますが、こんな音楽が使われていたんですね。音楽もそうですが、東さんがこれを探してくる方が感心してしまいます。
目をつぶって聴いていると、不協和音なのに人声で柔らかいせいかハーモニーがきれいで、20種類もきこえないけどな〜、リゲティか、トーンクラスター、ミクロポリフォニー、と思っているうちに、最後の最後で寝てしまっていました。てなわけで、麻酔作用を確認しましたので、ご報告致します。
語順はコルトレーンの至上の愛と同様、漆黒の宇宙に行き交う光のイメージを思うとこれでいいのだと思います。また、東さんも昔ならシンセで挑戦していたでしょうか??
吸収されない光が宇宙空間を永遠に彷徨うイメージがタイトルから伺えますが、混声合唱とは言え、その意味を超えるも、人声が相応しいようです。対位法を包含したポリフォニーが逆説的にモノフォニーに響くような気がします。
普段リゲティは聴きませんが、これなら聴きやすく、宇宙の果てまで墜落睡眠に誘われることでしょう。
ご紹介ありがとうございました。
東 賢太郎
9/16/2016 | 12:35 AM Permalink
これは前から面白いと思っていた曲でトーンクラスターは2音間の鍵盤を全部押すから要するに短2度の集積なんですが、もう短2度には聞こえなくてまさに「クラスター」としての一個の和音なんですね。ミクロポリフォニーがどうなっているのか、楽譜がないのでさっぱりわかりませんが、ともあれここまで美しいと「不協和音」ってなに?と自問してしまいます。
この音楽をいわゆる協和音だけで書くのは全く不可能ですからそれは限られたディメンションの素材にすぎず、そちらがメインで「不協和」なものはそこからはみ出したものという従来の認識(そもそも「不」という否定的ニュアンス)は修正すべきです。不協和とされるすべての音の組み合わせのうち、かなり狭隘な要件定義に添って選択されたものだけを素材としたものを我々は「音楽」と呼んでいるわけです。
ドデカフォニー(12音)とは別種の(これも狭隘な)要件定義で音を選択するという方法論は本質的に同じで、僕は新しいものと認識していません。「クラスター」が和声かどうかは哲学論議になりますが新素材であることは間違いなく、これを美しいと思う人には限りなく美しいモノと思います。リゲティは面白いですよ。
Rook
9/17/2016 | 9:43 AM Permalink
東さま、
昨日、ロシアの新鋭アンナ・ヴィニツカヤのピアノ演奏会に行ってきました。
何とクラスターを感じてきたのです。子供の情景、ブラームス幻想曲集Op116、ショパン前奏曲というノーマルなプログラム曲目です。旋律と言うより音の束が流れ出るようなその響きに大変感激しました。低音が強く同じ曲が今までと違う響きで、彼女は左利きに違いないと思っていたら、やはりサイン会で左手でサインしておりました。弱音がきれいと言うことは良く聞きますが、強音がとてもきれいに鳴っているんです。多少のミスタッチはあってもこの響きの感激でそんなことは些末に思えました。フレージング、打鍵、ペダル、音響、等が作用しているのでしょうが、クラスターは現代音楽のみにあらずと再認識させられた演奏会でした。
東 賢太郎
9/17/2016 | 12:09 PM Permalink
ヴィニツカヤは去年4月にN響で聴いてブログにしてますよ( N響 フェドセーエフ指揮アンナ・ヴィニツカヤの名演!)。その場でCD買ってしまうなんて僕はまずないんですが、よほど気に入ったと思われます。
楽器と部屋(アコースティック)によりますが、ピアノは倍音が聞こえてペダルでその混合が操作できますからフレージングは指だけでない部分があるように思います。クラスターをお聞きになったというのは彼女の倍音成分のコントロールの個性かもしれませんね。
ヴィニツカヤはコンチェルトだったのでわかりませんでしたが、例えばニコライエワのバッハは低音(強い、深く大きい音)の倍音の広がりに右手がのってフーガなのに和声感覚が際立ちます。僕には平均律がまるでオーケストラのように聴こえます。ヴァイオリンやチェロ一丁でカルテットのような音世界を作るわけですが、倍音の少ないチェンバロではなくバッハはやはりオルガンでフーガを発想したかと想像します。ヴィニツカヤはバッハをやってほしいです。
Rook
9/19/2016 | 4:30 AM Permalink
東さん、
ヴィニツカヤのブログ拝見しました。
同じ想いをすでに抱いていた様子を拝見し大変嬉しく感じました。
独特な音は、おっしゃる通り、倍音混合をペダルで上手く操作しているせいでしょう。
勿論、表層的な技術と言うより、彼女が探り当て体得した表現方法の結果だと思います。
もう一つは、東さんも指摘されていますが、あれだけ弾けると自分に酔いそうですが、そこはしっかりコントロールされていて音楽への奉仕を忘れないことです。技術バカになってしまう例は少なからずありますが、とても知情のバランスが良好で(且つ美人ですから)好感が持てます。
彼女のCDは5枚全て聴いていますので、サイン会でCDを買った訳ではなく、彼女を間近で見てオジサンしていただけです。容姿の他に好感の持てる性格もしっかり確認しました。
最新のCD(2015年録音)でバッハのシャコンヌ(ブラームス編曲)とブラームスのOp.76,79,116を弾いています。演奏会のアンコールはショスタコーヴィッチのロマンスという聞き慣れないチャーミングな曲でした。ネットでは映画音楽「馬あぶ」Op.79よりが圧倒的に出てきますが、違う曲のように聞こえました。
先々、楽しみなピアニストです。
東 賢太郎
9/19/2016 | 12:45 PM Permalink
youtubeで聴いた限りですが彼女はロック世代が口笛でブラボーするバカテク部門の金メダリストにはならない(なれない)でしょう。では彼女が何を弾きたいのか、ですね。まだよくわからない。ベートーベンは今一つ(二つ)、夜のガスパールはメカニックが弱いですね、ミケランジェリ聴きこんでる者には。それにバッハもショパンもラフマニノフもバルトークもとくるとですね。私見ではプロコフィエフがいいです。向いてます。ガスパールも絞首台はいいですね、彼女の持ってるまったりしたゆるぎないテンポ、いやテンポというより時間感覚というか、これは天性のものと思います。他の同世代の人のわざとらしいギアチェンジや取ってつけたようなルバートとはモノが違う。これは本物です。そこにタッチの深さがついてくると、書きましたように僕はニコライエワを思い出すのです。エリザベート・コンクールの審査員が彼女に託したものは伝統の継承なのではと想像しています。