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米国放浪記(9)

2014 SEP 3 1:01:04 am by 東 賢太郎

 

日本食断ちの結果

8月25日、ロングビーチの朝だ。10時にさあ出発となったら車のキーがない。H と I を巻き込んで荷物をひっくりかえしての大騒動となった。10分したら僕のポケットからひょっこりでてきた。最近しょっちゅう家で同様の事件をひきおこして煙たがられているが、これはボケではない。かように天然なのだ。外でチーズバーガーを食べながら 「もうオレンジジュースが飲めなくなるよな」 と3人で合点して今日は特大(ジャンボ)にした。そうしたらそれで体が重くなって動けなくなった。ガス欠というのはあるがガス満で動けない経験はない。「かったるさ頂点」と日記にある。体ごとホームシックになっていた。

それでも午後にベトナム料理屋でカレーを食べようということになった。魚のおいしい北九州育ちの I  だけは「日本食じゃないともうだめだ」と言って一人ゼゼへ出かけて行った。ひと月近く日本食から隔絶されるという経験は戦場か宇宙ステーションでもなければそうは経験できないだろう。16年の海外生活を振り返ってもこの時以来一度もないし、これからも二度とないだろう。この日の立場にいれば99%の日本人は I と一緒にゼゼへ行ったはずだ。変わった日本人だったH と僕は、いい実験台だったかもしれない。

そうはないことだからこの時の実感を一つ記しておくと、握力が増しているという顕著な感じがあって、強い男になったという気がしたのを覚えている。毎日肉を食うときっとそうなるのだ。生まれた時からそうしていればパワーが違うし、何代にもわたってすれば体格も変わるだろう。そうすれば人間性だって同じではないだろう。気候風土もそうだが、食物も人間の気質や文化に大きな影響があるのではないかという思いはこの時にできた。僕はいろんな国に行った先々で土地の人の普段の食事をしてみるが、その習慣ができたのはこのためだ。

 

メータ指揮ロス・フィルを聴く

この日は最後の2つのイヴェントの最初の方、ハリウッドボウルでロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートであった。前日の轍(てつ)から3人とも一緒だ。指揮はズビン・メータである。この当時はメータとロス・フィルのコンビはDeccaからLPを続々とリリースしていて花形だった。期待は高かったが、席があんまり良くなかった。真っ昼間の野外音楽堂というのもしっくりこず、サンフランシスコのマーラーの感動には比べるすべもなかった。前半のプログラムは記憶がない。後半がチャイコフスキーの交響曲第3番であった。これが初めて聴く3番だったはずで、まあまあいい曲だと思った。帰りに道に迷ってしまい長い時間かけて散々な思いでモーテルに戻った。「始め良ければ終わりよし」の格言通り、初めにつまづいたので終わりもだめだった。

 

さらばアメリカ

翌26日、いよいよこれが最後の日だ。10:30にハリウッドのモーテルから最後の出発をした。ビヴァリーヒルズのクレージュへ行ってお袋と妹に頼まれたバッグを買った。ハリウッドのブロードウェイでLPレコードを買ったり土産物を探したりした。夜のフライトが何時だったのかわからないが、特大のハムサンドを食べてから3人一緒にドジャースタジアムへ行った。これが最後の最後のイヴェントだ。ところが全く信じ難いことにこの試合のことは、まるでなかったことであるかのように何も覚えていないのだ。日記も 「ドジャース 5×4 勝ち」 とそっけない。

さっきドジャースのHPを調べたらちゃんとデータが載っていて、相手はセントルイス・カージナルスだったことが分かっている。いつだって野球が好きで、いつだって河原の少年野球だって見たくてたまらない僕が人生で初めて見たメジャーリーガーのゲームだ。3ページぐらいはあってしかるべき日記にこんなに何も書いてないのを発見してしまい、ちょっとほろっとした。自分のことでお許しください。掛け値なしに、来年還暦になる僕は若者3人をよくやったねとほめてやりたいのです。H 君、I  君は卒業後、別々の大手金融機関の幹部となって大活躍することになる。この旅がこんなに楽しくて、永遠の思い出となったのは2人のおかげだ。

日記はこの日のしめくくりにぽつんと「Avis(エイヴィス)」とだけ、そして次のページに大きな字でこう書いて終わっている。

「総走行距離 3566マイル=5705.6km」

その晩のこともロス空港の様子も記述はない。もちろんスチュワーデスに水を注文したこともない。みんな忘れてしまったが、羽田空港に迎えに来た父と母のほっとした笑顔だけくっきりと覚えている。

 

 

(ご精読ありがとうございました)

 

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