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カテゴリー: 若者に教えたいこと

怒りに燃えたトランプの大鉄槌がくだる

2024 NOV 19 11:11:55 am by 東 賢太郎

以下、松田学氏は元大蔵官僚。スマートな人の話は分りやすい。コンパクトに世界のニュースが俯瞰でき、記事の選択はやや右寄りかもしれないが左翼系のあざとい洗脳、バイアスよりずっとまし。テレビ、新聞は公共性、客観性を装おうが「都合悪いことは報じない」というとんでもない洗脳、バイアス機関であることもこれでよくわかる。

米国全メディアはハリス押し大合唱の大外れでアイヤー! その忠実なコピーである日本の全メディアはアイ~ン!バイデンは民主党じゃなく俺と犯罪(ウ)もみ消し裏ディールで辞任なんよ(ハリスなら楽勝だもんな、ラッキー)。トリプル・レッドだからな、やりたい放題やったるぜ、暗殺にきたディープステート消すんでな(馬鹿だねえ まだ言ってるぜ 陰謀論)。米軍のLGBT派は全部クビ、女子スポーツからも男を追放よ(あれー、日本は法律まで作っちゃったんですう)。俺を起訴した特別検察官な、あの野郎は2秒でクビだ、保健福祉省長官はRFケネディ・ジュニアにしたるぜ(よりによってこのワクワク凄すぎ!)。不法移民追い出し丸損3千億ドル、屁のカッパだ。関税60%?100%でもいいぜ台湾やるならな。イーロン君起用はレッドへリングよ(2億ドル支援ありがとな)。経験ない?だからなんだそんなもん、やるのはぜんぶ俺さ、あたりめえだろ裏切らねえかどうかだけじゃあ!(トランプさん日本の総理も指名して下さい)。

以上、小生周囲の業界ウワサ話。真偽の保証?いたしません。

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スーパー買い物から見る夫婦別姓問題

2024 NOV 17 16:16:18 pm by 東 賢太郎

日々の食材の買い物というとすっかり家内におまかせだ。なにせ新婚生活を始めたアメリカではビジネススクールの勉強、その次のイギリスでは仕事、とにかく気絶するほど忙しく、スーパーは行ったことぐらいはあっただろうが記憶がない。ドイツ、スイス、香港もその延長でおなじようなものであり、だからその次にやっと定住した日本だって、まあ一緒に行くのは年に2,3回というところになっている。

給料はというと、親父はぜんぶは渡してなかったとみえて母は足りないとこぼしていたが、僕はそれを見ていたので最初っから家内にぜんぶ渡している。というと良い亭主のようだが特別な事情があった。当時の野村證券は留学は独身者のみであり、僕は外国で一人じゃあ生きていけないから先に結婚させてくださいと人事部長に申し出たら認めていただいた。わがままを言ったのだから生活費が増えるはずはない。日本での手取りは10万円ぐらいで、当時の為替250円だと月の食費は二人で400ドル。激貧生活で栄養失調ぎりぎりだった。卒業してイギリスで仕事に戻って少しは増えたが、僕は家事はいっさいできないからぜんぶおまかせ、全額お渡しでいまに至る。それでもまだ下っ端でかつかつだったが仕事に100%集中させてもらい、おかげでドイツからは少しえらくなって楽になった。

きのう、何か月ぶりかで家内とスーパーに出かけた、というか、ついて行ったというのが正しい。おやつがきれたからだ。そうなると僕は夜型のうえ食い意地が張っていてがっつり夜食をしてしまうから、低カロリーおやつでごまかす必要があるのだ。

日本のスーパーは何度か一人で来た。物を買うときは慎重な性分だから本屋やCD屋で売り場を隅々までチェックして3,4時間迷うなんてザラである。食品ともなれば品質、グレードはもちろんのこと、ナッツやビスケットや昆布はグラム換算の値段を計算するし、オリーブ、チーズ、蜂蜜、甘味類などはホンモノかどうか産地、添加物、色素までもチェックする。そうやって売り場であれこれ手に取って迷っていると、きまって困った事態になるのだ。周囲の人の流れが渋滞し、カートのご婦人方にじろじろ見られる。スーツの男がひとり、しかもカゴもなしだったりして、何なのよこの人、邪魔よねという冷たい空気に包まれるのである。

というわけで、家内について行くに限る。この日は夕食の鍋の具がメインだった。タラがいいと思いこれかなと切り身を渡すと、これよりこっちと瞬時に切り替えられる。値段はそっちのが高いがなぜかは不明だ。そうこうして、僕はヨーグルトを真剣に悩んだりしたのだが、ブルーベリーが入ってるからこっちねと問答無用、全部が即決でカートに積み上がり、ものの30分で一陣の風のごとく買い物は終了した。アイスクリームの氷の手配やらポイントがどうのやら彼女はプロフェッショナルである。そこで「最近物価は高いの」と聞くと知らない。「だって海外でね、子供を3人学校に迎えに行くのよ、買い物はそれまでにさっと済ませなきゃいけないからあるだけでいいの、値段なんか見てられないでしょ」。たしかにドイツやスイスなんか子供は危険だし、日本人に食えるものがあるだけで貴重だったっけ、なるほど、それがそのまま来てるのか。タラは美味であったしお菓子類も不満なしで、迷うのは時間がもったいないのかもしれないと思った。

ことほどさように、主夫というか、domestic(家庭の)回りのことはすべからくだめである。それには根っこがあって、小学校で弁当を食べ終わるのは常にビリ、手先が不器用でボタンをしめたり靴ひもをささっと結ぶなんてのがだめで体育の着替えもいつもビリ。キャンプに行ってもあらゆる仕事に何の役にも立たずはじかれる。中学の書道は最低のDで、万力だか旋盤だかで本棚を造ったりする工作や技術家庭なんて科目はまるっきしお呼びでなく通信簿はいつも2だ。中学まで体もチビでやせっぽちでケンカも弱く、クラスで目立つなんてことはまるでなし、自分は男として劣っているとコンプレックスにとらわれていて、同級生の女子にはそれを知られまいと身構えていた。

長じてもその事態は変わらず、だから女子にこっちから近づこうなんて気はさらさらおきない。できないものはできないのだからそれがバレて赤恥かいて自尊心が傷つくのが嫌だったのだ。ところがだ。そういうダメ男であることは、多少なりとも僕を知った女性にはどう隠しても見ぬかれていることがだんだん明らかになってきたのである。アンタだめねと見る女性もいるがそうでない女性もいる。それどころか欠陥をぜんぶ補ってくれて本棚まで造れてしまう女性もいることがわかり、それが家内なのだが、するとそういう部分は “ヒモ” になって気にする必要もない。積年の劣等感から解放され、得意なことだけに傾注すると僕は意外に強かったというwin-winの分業ができることになった。

日本経済の失われた30年で、特に男性は経済的な事情から結婚が難しくなっていると聞くが、そうでなくても難しかっただろう半端者の目から見ると心が痛む。僕はどうひいき目に見ても優秀な男子だったわけではなくもっと上の人がいくらも周囲にいたが、たまたま生まれた時代が今よりはましで少々の運があったということなのだ。時代ということでいえば、いまの対米従属の政治はいかんという主張を書いているが、僕の時代も従属だったのだからそれだけが30年ロスの原因ではない。アメリカも元気がなくなったからこうなった面も大いにある。だめな国に全面的従属を続けても未来はないだろうと思うのであり、日本はオンリーワンの歴史、知恵、国民性を持った国で、これを成長の源泉とする方法は必ずあり、自尊心を持ちながら経済的に独立独歩の道を歩めて何ら不思議ではないというのが主張なのだ。

そのためには男性も女性も幸福な家庭を築くことがとても大事だ。述べたように僕は一人で何もできないし仕事の能力も大したことはないが、欠陥を妻に補ってもらえたからフルスロットルでアクセルを踏むことができた。要はそうやって1+1が2より大きくなれば家庭の経済はうまくいき、その集合体としての日本経済もたぶんうまくいくのである。家庭と仕事の役割分担で男女逆転があっても何らおかしくなく、高学歴の女性は高学歴の男性と釣りあうなんて前世紀の遺物みたいな発想は捨てた方がいい。前世紀の男は、僕もその一人だが、自分より勉強や仕事ができる女性はあんまり求めなかったのは事実かもしれない。しかし今どきの世の中だ、たまたま男に生まれたけれど女性的な仕事が得意で家庭を支えてくれるやさしい “マスオさん” はいるはずだ。彼は男性社会で競争するより高学歴女性とペアになって本分を発揮できる。女性は後顧の憂いなく思いっきり社会で活躍すればよく、そんな例が増えれば社会の目も変わる。女性活躍社会などとはやして男性社会に無理やり隙間を作ろうという政治努力より男女の結びつきで女性が実力で社会を変える方が自然なのではないか。

僕は学生時代からユーミンの熱烈なファンだが、彼女が結婚して松任谷由実になったことで松任谷氏に羨望をおぼえた。天下の荒井由実様が旧姓でとおせるのに改姓した、いや、させた。すごい男だ、そんなにモテてうらやましいと嫉妬したものだが、あえてそういうことにしたユーミンさんのほうも大したもんだなんて気もしていた。だってそうされてごらんなさい、旦那はプライドにかけて必死に働くしかない。夫婦というのはそうやって1+1が2より大きくなる可能性を秘めたジョイントベンチャーでもあり、どっちの姓が上だ下だ好きだ嫌いだなんてなればみすみすwin-winのシナジーを求める精神を消すようなものなのだ。金融再編で3つも4つも銀行がくっつき、統合された側のメンツで新社名は金魚の糞みたいに奇怪で長く、当の社員さんすら言い間違えたなんてジョークが流行った時代があった。そういう結婚ならば僕は見送る。ウチの3人の子は東を名のって成人したので僕が何かやらかして家名を傷つけたら末代まで響く。普通の日本人ならそう思うはずだ。というより、それが日本人であり、日本社会のモラルの下支えというもので、サッカー場のごみをサポーターが片づけて帰っただの、震災で濁流にのまれそうだったお婆ちゃんを数人の若者が命を賭して救う画像に世界が拍手しただの、そういう我々には何でもないことが「日本的なるもの」を根っこで支えてきたのである。

もう一度書こう。日本はオンリーワンの歴史、知恵、国民性を持ったユニークな国で、ゼロからそれを凌駕しようと思えば、日本が日本たるべく辿った来し方である1500年ぐらいはかかる。だからそう試みるほど気の長い国は絶対に出てこない。いわば秘伝のタレを持った老舗のような存在なのであり、それを上回ろうと狙う連中はなんちゃってコピーをするか、目の上のたんこぶは邪魔だと日本という国柄を潰してしまおうとするだろう。そういう勢力に負けてしまって得をする日本人はいない。そいつらのポチになって一時の利得は得ても、相手は所詮は犬ころと思ってるのだから子孫は捨てられる。だから、絶対に負けてはいけないのである。日本国の、歴史の、文化の、言葉の、考え方の、あらゆる奥ゆかしさユニークさは、持ってない異国人からすれば究極の羨望の的であることは、16年海外から母国を眺めた者として断言できる。いずれすべての異国がそれに気づく時が来る。ということは、明治維新のようにそれを自ら破壊する愚を犯してはいけない。国民が誇りをもってそれを「成長の源泉」とする方法さえ考案すれば無敵なのだから、潰す側につくより無敵側についた方が圧倒的に賢明なのである。その方法が何か、いま僕は知らないが、必ずあると信じる。1500年の先人の遺産があるのだから、どうしてそれができたかを自分で考え、じっくり得心するまで先人に学べばいいのである。それは司馬遼太郎を読んで、日露戦争までの美点凝視で一時のカタルシスの解消を求めることではぜんぜんない。まして、また尊王攘夷で鎖国して外国を追い出しましょうなんてものでもない。むしろ、日本人が最も見たくなく、砂漠のダチョウのように砂に頭を突っ込んで回避していたい80年前の敗戦と国柄の喪失という歴史の負の部分を直視し、徹底的に「失敗から学ぶ」のである。日本人が本気になりさえすれば、我が身がこうして平穏無事に存在していること自体が成功を保証しているようなものだというアドバンテージに誰もが気づくと信じる。

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石破総理と玉木代表に思う

2024 NOV 13 0:00:11 am by 東 賢太郎

居眠りして風邪薬のんでましたとか、ズル休みのガキの言い訳みたいなのが出ちまうこと自体、小物感満載でみっともない。うるさい、俺が目をつぶった時は集中してるってことだ!ぐらいかませばいいのにね。そういうキャラでないしお疲れなのも理解するが、立場が立場なんだから気をつけられた方がいい。どんな組織であれ、世界のどこであれ、人は小物には本気でついていかない。共倒れリスクが高いからね。個人の身体的な限界は言うべきでないが、トランプ、プーチン、習近平、金正恩がそれを見てどう思うかということ。徹夜明けだろうが二日酔いでべろべろだろうがビシっとしている体力も要件だ。また、後輩だからあえて苦言を呈するが玉木氏も肝心なところでドジふんだもんだ。そのこと自体は奥様のご裁定であり是非もないが、これも居眠りと一緒、出ちまうこと自体がみっともない。まあトランプだけは So what? だろうが、将来トランプと対峙する気があるならそんなもんは屁のカッパの strong man ぶりでないと相手にもされんよ(もちろんだが strong womanもありだ)。

企業社会の話だが「承知しました、社に持ち帰って慎重に検討します」って言って半年もかかってやっぱりできませんなんて頭をかくのが伝統的な日本人のイメージだ。すると、その交渉のご当人は社内で strongでないって判定をされてあの人は意味ないからもう会いませんってなる。岸田総理は有無を言わさずLGBTをやらされ、やっちまって、保守に総スカンになって自民党を現状に追い込んだが、あの時点で総理であったのが誰であれ、つまり彼のお立場として逃れようがなかったと拝察する。やった者だけ評価するし、特にやれば1千億円だってくれるし、やらない奴はどんな言い訳しようが You’re fired! が米国人だから彼はその意味において成功し、奥の院を知ってる国会議員たちは与党であれ野党であれ彼を無視できないだろう。ただしここからはトランプ政権の出方次第である。

多数決というのは少数与党の総理より、別に総理でなくてもcasting voteを握ってる方がstrongであるといえないことはない。少なくともそう見せつけることは可能だ。ビジネスは大いにそうだが、実体などどうあれ相手にそう思われればディールは勝てる。そういうセンスがあるかどうか、ある人はあるしない人はないので何とも言えないが、たぶん人生一度あるかないかのチャンス。うまくやるんだね。ちなみに僕は国民民主党に投票してないしサポーターでもないが。

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あれまあ!やっぱりトランプだったのね

2024 NOV 7 3:03:04 am by 東 賢太郎

きのうディナーした米国人が来社したのが午後4時半だった。ちょうどスマホにトランプ当確のニュースが入ったのでどう?ときくと「個人は残念、ビジネスOK」ときた。なるほど、それなら僕は個人もビジネスも、まあOKだ。ウォール街はばりばりの民主党で当社もその仲間ではある。LGBTやら内政干渉には心底怒りを覚えるが、それとビジネスは別物と割り切らなければこの業界ではやっていけない。ちなみに当社のパートナーであるウォール街の某投資銀行CEOはトランプのトランジションチームに入ってるからホワイトハウスに移ることになる。「俺が不在の間に利益は何倍になるんだ」と社内では檄が飛んでるらしい。経済顧問ぐらいのポストだろうから楽しみであり、まあその分だけOKということだ。

というわけでビジネス的にはあんまり興味なかったが、「ハリスが僅差でリード」というニュースをどこかで耳にして、そんなに優秀なのかと公開討論を聞いてみた。悪いがどうひいき目に見てもこの人物においてそんなはずはない。現地にきいてみると「偏向報道の嵐です」が回答だった。しかしそれはアメリカの話だ。投票権のない日本人に日本のメディアはハリス押しのコメンテーターばかり並べて妙ちくりんな理屈をこね、気合を入れて偏向報道してる。誰が得するんだか実に不思議だ。あれまあ!って予想が大外れして赤恥をかくばかりか報道機関としての信用も失墜である。明らかにそう考えてないのだから経営リスクと思ってないのであり、報道にみせかけた新種のエンタメと解釈するしかない。

これで思い出すのはマカオのカジノだ。留学時代やロンドン時代に賭場に出入りしたが、香港ではマカオである。客はほとんど中国人で雰囲気はまるで鉄火場だ。丁半バクチで素人もわかりやすいルーレットが大人気で、テーブルを取り囲む人垣は三重ぐらいになっていたので僕は最後列から人をかき分けてチップを置いていた。やたら赤ばかり出る。次は黒だろう。あれれ、また赤だ。ええい今度は絶対にくるぞ!うわあ、また赤だ。これが6回続いた。64回に1度の珍事である。ざわざわし始め、なにやらそこらじゅうから大声で中国語が飛び交い、あたりは興奮のるつぼと化してきた。もういくらなんでも赤はない。確率はいつでも1/2なんだけど人間は思いこみに弱いのである。かく言う僕も賭けようと試みたが、あちこちから手が伸びてきてはじかれてしまい断念した。黒のベットゾーンに高額のチップがこれでもかと山積みになる。後でもめないようにディーラーはプレーを中断し、スティックで用心深く山をゾーン内に寄せて仕分けした。緊張が走る。いよいよ数字盤が回る。No more bets!  場がシーンと静まりかえる。カラカラと乾いた音を立ててジャンプした球がコロンと収まったのは、赤だった。

アイヤー!

多勢の混声合唱団のように見事にテンポのそろった大音声の絶叫が場内にとどろきわたった。これ、英語で「オーマイガー!」、日本語で「あれまあ!」である。正確に記すと、

アイィィヤァァァァ

であり、アイが四分音符、ヤーが二分音符のフォルティッシモで、速度はアダージョ、最後が嘆息ぎみのディミニュエンドで一抹のもの悲しさが漂ったものだ。なかなか音楽的であったのは皆さんの落胆の気持ちがひとつになっていたからだろうと思われる。このたび、バイデン政権のアイヤーも壮絶なものだったろう。メディアはお通夜みたいに真っ暗だ。それの忠犬ポチだった日本のお歴々はどうするんだろうか。

「トランプだったね、やっぱり」「安倍さんの死を悼んでたよな、やったのはあいつらだって」「現総理はアンチ安倍の急先鋒って伝わってるだろうな」「当然だろ」「なんでも麻生さんとは割とウマが合うらしいよ」「へえなんでかな、そんな刺さる話したのか」「いや、あいつは金のにおいがするって言ったらしい」

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お会いした3人の楽しみな人

2024 NOV 2 0:00:19 am by 東 賢太郎

仕事がたてこんでドジャースの優勝もDeNAの三連勝も見逃してしまった。野球が終わってしまうこの時期が一年で最も暗いが、ちょうどいいタイミングであたらしい人に次々会えるので心は華やいでいる。実にありがたい。

オーストラリア人の実業家A氏を紹介されて話しこんだ。現在はアメリカ在住の富豪でウエルネス(wellness)事業の専門家だ。ウエルネスとはヘルスケア産業の一部だが、ただ健康なだけでなく「輝くように生き生きとしている状態」をめざす生活態度のことで、米国で様々な分野に影響している。

彼によると世界中の権力者、富豪はみな抗老化物質(アンチエイジング薬)を使用してる。人間、持つ物を持ってしまうと最後は秦の始皇帝のように長寿にこだわる。ハーバード大学医学部のデビッド・シンクレア教授が見つけた抗老化物質NMNが人気でプーチンも習近平も打っており(クリスタルなる最上級品)、その効能はというと台湾の某著名企業オーナーが80才で40人目の子供ができたなんて話が飛び交った。

NMNは若返り薬のふれこみで日本でサプリまで出ている。「俺も3回注射打ったけどね」というと、「もっといいの打て、シンクレア紹介するから一緒にボストンいくか」となりちょっと心が動いたが「俺、閉所恐怖症なんだ。飛行機のりたくない」と断った。こいつは治らない。死ぬわけでもないし人にしゃべっちまうと楽という利点がある。ドジャースのオーナーも友達らしく、来年開幕戦の東京ドームのカブス戦に呼んでくれる。ありがと、飛行機乗らんでいいね。

次は中国系米国人のB氏だ。イリノイ大の電気工学/コンピューターサイエンス卒でハーバードMBA。英・中が母国語で理系・MBAという今どき世界最強の学歴である。事業実績あり。凄い人脈あり。性格良し。ビジネスセンス良し。43歳で体力・知力とも人生の絶頂。まったく文句なく僕がかつて会った中でも最上位の人物。初対面で5分で気に入り、おい一緒に事業やろうぜと持ちかけ瞬時にOKをもらった。切れかけだったバッテリーが強烈にチャージされた。

次は、サイバーセキュリティーのC氏。天才と聞いていたが天才だ。ソナーに来社してくれた人の中で最高の部類。ペンタゴンにハッキング?簡単です、最難関はオフラインの突破ですと何を質問しても異次元の話をわかりやすく語る。攻撃できるから防御ができる。なるほどだ。サイバー攻撃による世界の経済損失は2025年に10.5兆ドルになる。テスラ氏は自分しかわからずビジネスにならなかったが彼はできる。5分で投資を決めた。これがマイスタイルである。

こういうスタートアップ企業の株式はIPO(上場)してないからコネがないと買えない(シリコンバレーもそう)。僕のコネでなく、持ってきてくれたのは40代初めの有能な我が弟子たちで、僕は自分で探しに行ったことは一度もないが集まってくるエコシステムができている。日本のこの分野は実に未開拓だが、ではブルーオーシャンで宝の山かというとそうでもない。米国発の新技術を後進国の日本に持ち込めば誰でも少々は成功する。それをじっくり成長させてメガ企業にするのでなく早めにIPOしてちょこっと金儲けして満足という起業家の寂しい志の問題もある。だからユニコーン(10億ドル企業)が出ない。

お会いした3人のような爆あがりしそうな株を探すのが僕の人生最大のホビーであり、ホビーは遊びだから飽きることがない。上場してないから日経平均が上がろうが下がろうが円ドルが上がろうが下がろうが、そんなものは誤差の範囲で全然どうでもいい。そういう企業の株をもってじっくりメガに育てるアドバイスをすればいいからで日々気楽なものである。いちおうすべての知識・経験を総動員してやっていることになっているが、大事なのはそういうものではなく直感だ。直感、第六感を鍛える方法はある。忘れたがどっかに書いた気がする。

そういえばC氏はビジネスをXYZのカテゴリーに分けてる。「エラリー・クイーンみたいだね」というと通じない。「それの後にドルリー・レーン最後の事件ってのがあってね、4部作なんだよ、藤子不二雄みたいな二人組で一人がワーグナーのファンでね、ニーベルングの指輪をまねたって言われてる。こいつはね、人生一回だけ楽しめる。俺は読んじゃったからダメなんだよ、寂しいね」「知らなかったです読んでみます」ちゃんとメモってる。「あのね、いいんだけど必ずその順番に読みなさいね、そうでないとだめだよ」。30代か、若いっていいなあ。

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この不可思議な総選挙はなんだったのか

2024 OCT 30 0:00:27 am by 東 賢太郎

ひょっとして石丸人気でひらめいたのか、支持率ゼロへのまい進をものともせず張り切るキッシー氏を見限ったのは大使閣下お気に入りの”ボク”に首をすげ替える意図だったと思われる。ボクをstrong manに仕立てるには「新鮮なイケメンによる刷新感」を売りに、ボロが出る前に「即刻の解散総選挙」 で速射砲のごとくたたみかける猫だまし作戦が必須だ。それで大勝させて11月に帰国し、アチラから操るのが閣下のシナリオだった。日本側の視点からすればボクをそそのかして踊らせ、「裏strong man」として影響力を行使しようという長老の策略でもあったわけだが、ボクの口から発せられる構文が軒並みSNSのお笑いネタになる事態は見ぬいてなかった。まずい。閣下の不興を買うイッチー女史の登板を避ける手駒は党内野党のゲル氏しかない。その結果があの驚天動地の国会議員投票だった。まるでバイデン・ジャンプじゃないか・・そうして愛国保守がお通夜のごとく沈黙する一夜がやってきたのである。

ゲル氏の登板が国民的な待望でなかったことは、支持率が早々に28%と末期のキッシー政権と10%しか違わぬ所に落ちたことでわかる。そこでゲル氏は裏金議員の非公認など前言撤回をくり返して批判されたが、緊急登板でもあり理解できぬことはない。自民党総裁選中に訴えていた「衆院解散前の衆参予算委員会開催」は、ボクよりは弁の立つ彼としてはまともな手であった。ところが彼はそれをも撤回し「即刻の解散総選挙」に切り替えた。これは驚いた。ボクの擁立が大前提であった「猫だまし作戦」への回帰であるからだ。

猫はそう簡単には騙されない。氏はイケメンでもなければ新鮮なイメージもなく、刷新感どころかキッシー路線の継承まで言っちまってる。こりゃめちゃくちゃだ。現場は対処の間もない。敵方はここぞとばかり裏金ミサイルの集中砲火を浴びせかける。歴史的大敗を喫するだろうという結末は素人にも予見可能であった。ふたをあければ何らの抵抗もなくあっさりとそうなり、野党が不信任決議案を出して自民内の敵方がそれに賛成するか棄権をすれば退陣か解散の二択しかない事態となった。解散は民意に反するだろうから退陣に追い込まれる。つまり将棋なら詰んでいる。ふつう、選挙のプロがそんな馬鹿なはずはなかろう。

僕は犯人が凶器にマンドリンを使うという不可解な殺人現場を残したエラリー・クイーンの名作「Yの悲劇」を想起し、もしかしてそういう驚愕の裏事情があったのか、はたまたゲル氏とモーリー氏が党内の敵方を一掃する自爆作戦を演じたところ、想定外の爆裂に自分が大出血して死にかかったのだろうかと考えた。理由はともあれ聡明なアチラさんの目からすれば非常におバカであり、政治は結果責任がすべてである。こんな輩がstrongに見えることは完璧に、ない。したがって、この選挙は「忠実なstrong manポスト争い」に野党党首も手を挙げられることを示した革新的なものとなったのである。

つまり、前稿で述べたとおり、自民党なるもの、即ち80年の長きにわたって同党が維持してきたマッカーサーのマンデート独占に裏付けられた甘い汁を吸う特権は溶解し、消滅の一途にあることが確認された。我が国がサンフランシスコ講和条約のくびきを解いて真に自立した国家になる第一歩になるのが我々の子孫にとって望ましいが、それができる政治家が何人いるだろうというミクロの議論に落としこまれていくだろう。裏金議員のみならず世襲のお気楽なファミリービジネス議員も一掃し、「世襲はできるが親の地盤の引継ぎは禁じる」という英国型の選挙システムにまで浄化する契機となるのではないか。

「忠実なstrong man」の日本語訳は「ポチ」であり、wikipediaに載せるなら代表的人物の写真はキッシー総理である。彼はそうなるために邪魔な派閥を破壊し、フラットな総裁独裁体制を築いた。ゲル氏がそれを引き継ぐには、どんなに変節といわれようがキッシーイズムを継ぐしかガバナンス保持の方法がない。さもなくば45日で首になった英国のトラス女史の二の舞だからなりふり構わずそうするだろう。イッチー女史は愛国保守の女神とは思うが国際政治はそう甘くない。腹をくくれるかどうかだ。本当かどうか、アチラから聞いた通りを書くが、トランプはキッシーを完璧に馬鹿にしてるそうだ。するとそれを継承する以外に道のないゲル総理の命運も見える。トランプは愛国保守である。来週はいよいよアチラの選挙だ。

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衆議院選挙を支配する法則について

2024 OCT 24 9:09:27 am by 東 賢太郎

これを書いたのは9月21日、石破総理誕生の11日前である。一言一句、変更していない。

自民党総裁選に思うこと

同稿は「自民党の裏金問題は国民の記憶からは消えない」で始まり、「総理は民意を無視して決まり得るが(筆者注:そうなったといえる)、その場合、やがてある衆院選、参院選で自公は “予定調和的に” 大敗するだろう」と結論した。その通りになっているように見えるのは僕に情報があるからではない。事実の集積からある法則の存在が推定され、「それによる予定調和」に至ったと見ているからである。その法則は同稿に譲るが、今の情勢をみると正しい可能性もある。もしそうなら、自民党執行部はそれがわかっておらず、事態は時々刻々と進行し、そのまま行けば自民党なるものは消滅する。

つい先日、目黒駅からタクシーに乗った。「あれMさんですよ」と運転士が指さした前の車はなるほど元大臣の自民女史の選挙カーだ。「泣き落としじゃ苦しいですよね、裏金やっといて」。仕事のメールを読むのが忙しいのでこういった。「そうなんですか、政治は疎いんで」。でも、それはそのとおりだ。涙で法則は変わらない。会食が終わった。僕らは政治など関係ないのでそんな下世話な話はしない。ところが帰路のタクシーの運転士も選挙の話を始めたから参った。「あんなコロコロ言うことが変わる総理はいませんね」。またしてもメールがたくさん来ていて、揺れると小さい文字が読みにくい。「そうなんですか、政治は疎いんで」「ええ、ひどいもんです。あっさり裏金議員を公認しちゃったでしょ、で、批判されると一部は非公認ですって、わけわかんねえですよ、ふざけてますねこいつら、自民党には二度といれません」。そういえば昨日、非公認議員にも公認料と同額の2千万円が出ていたと仰天のニュースがあった。なんと国民を欺くためのヤラセ非公認だったのか、裏金議員を処分した党が裏金を振り込んでいたのかって、あの運転士さん怒ってるだろうなあ。たしかに、それ原資は税金だからなあ。

政治は疎いんでは事実だ。政局は芸能界裏話に等しく、そんなもので世界は動いてない。政治家は政策で選ぶべきだから、その人物が噓つきだと有権者はどうしようもない。馬鹿はあり得ないが嘘つきは最悪なのだ。つまり、何度も書いたが、たかが学歴ではあろうと、噓つきの前科者は政治家にしてはいけないということこそが最重要ポイントだ。コロコロ変わる石破氏がそれだという運転士氏の主張は、しかし、やや違うのかもしれない。なぜなら彼は背後から操作されており、さもないとその場に居続けられないと悟り、意に添わぬ台本に合わせようと観念した発言がコロコロに見える。そう思わないでもないからだ。どう考えても主義主張が合うはずのない岸田政権を踏襲すると言ったが、そうであるならば背後は使い勝手が史上最高に良い岸田氏をクビにする必要などなかったわけだ。彼の低支持率では国会の支配力なしと判断したのだが、新総理のご祝儀があるはずが大してかわらない。こいつは用なしだと岸田に戻しかねないと恐れた。そこで出た、岸田さんとおんなじです、言いなりになりますからご安心くださいという背後への忠誠宣言と思われ、これだけは翻すのはクビになった時だけだろう。

こう書くと夢も希望もないが、仮に高市総理になっていても同じことである。強引にそれを阻止したのは彼女は(あえてぴったりの英単語で書くが)idiosyncraticに見え、教化するのは面倒くさそうだ(あるいは安倍元総理と同じほど無理だ)と判断されたのだろう。忠誠とは愛国保守を押さえ込んで国会を支配し、都合の良い(従って愛国保守の怒りを買う)法案と予算を可決させることであり、それができる者を米国人はstrong manという。男でも女でも野党でも馬鹿でも構わない。いやむしろ猛烈な馬鹿で簡単に手なずけられ、多数いる同レベルの国民の受けがいい者こそがお手軽でベストである。しかし忠誠であればあるほどやってるうちにお里が知れて愛国保守を敵に回すので、支持率は時とともに確実に落ちていくという法則も存在する。だから総理は使い捨てでオッケーなのである。そこで、やばい、捨てられると思うと権謀術数、奸計、裏切りなど秘術、裏技の限りを尽くしてお眼鏡にかなうための芸や大噓をくりだしたりの泥仕合が行われる。これが政局の渦の目であり、岸田氏は今もそれでだから俺のがましだったでしょとクリンチしている。国民にはそうした悲喜こもごもの寸劇に根強いファンが一定数おり、消費税ゼロで企業に課税しますなどと秦の始皇帝でなくてはできなさそうな政策を大真面目に掲げる者すら万年名脇役として国会に居場所があったりする。背後はそんな連中はどうでもいい。1955年以来主役たるstrong manが輩出されてきた、というより、党首にさえなれば自動的にそれにしてくれるマシーンとしての自民党が大事であり、操作すべき対象であった。べつに自民党である必要はないのだが。

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自民党総裁選に思うこと

2024 SEP 21 11:11:30 am by 東 賢太郎

自民党の裏金問題は国民の記憶からは消えない。メディアからはとうに消えているがネットには残って温度感がキープされ、よって次々に新たな書き込みが誘発されるからだ。これぞ情報新時代における政治現象の記憶保持の例として後の政治学者、社会学者、統計学者の恰好の研究対象になるだろう。こと政治に関する限り「台風一過」、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という日本人の社会学的特性は昭和と共に去ったという結論に行きつくことは必至と思われる。国民は馬鹿だからすぐ忘れるという感覚でやっている政治家はどんな大物であろうとオワコンとして国民の記憶から藻屑のように消し去られ、「そうやって消えた寂しい政治家」のカテゴリーの一員として記憶保持されるだけだろう。

全国津々浦々にある裏金問題の怨嗟の中で米国追従だけに全身全霊で邁進してきた岸田政権において、支持率回復になり得る新たなネット情報を誘発する可能性は極めて微小であり、仮に書きこんでも影響あるほどのPVを獲得する可能性は限りなくゼロに近い。よって、それらを先行指標とする支持率がゼロに収束していくことは、何度も指摘した数学的ともいえる自明の理なのであった。それは情報拡散力や発信ソースの多様化など往々に指摘されるウエッブの特性のみにとどまらず、国民の行動、意思決定に関わる現象、いわば思考回路の形成にまでネットが関与しているゆえの現象だ。回路が変容すれば求める情報、その質と量、そしてそれをインテリジェンスとして引きおこされる個々人の判断や行動も変わることも、これまた止めようのない自明の理だ。それは例えば「国民の6割が1か月に1冊も本を読まない」という情報の受け手側の事情に原因の一端をうかがい知ることができるが、その解釈を間違ってはいけない。6割の国民が文字離れの馬鹿になったのではなく、賢い人もネットでしか読まなくなったのである。

この現象はウエッブという増幅器によって加速度的に進行し、自動車が人力車に戻らなかったのと同じほど逆行、復元の可能性はゼロである。止める方法は日本国民にネットの閲覧を禁止する法律を作るしかない。都知事選においてネット発信で戦った石丸候補の得票数に今更驚いて石丸現象などと騒ぐ既存メディアの運命も、従って “予定調和的に” すでに見えているのである。そうか、それがニュートレンドだ、そうであれば石丸に習って「若返り」だと43才を売りにする自民党幹部の思考レベルも国民はネットを通して完全に見透かして冷笑している。自民党員しか投票はできないからそれでも総理は民意を無視して決まり得るが、その場合、やがてある衆院選、参院選で自公は “予定調和的に” 大敗するだろう。

僕は都知事選で石丸氏に投票したが、それは彼が若いからではない、京都大学でちゃんと勉強していることを演説と討論会の言説で確認できたからだ。それを欠いている人の発信は、最初はテレビだけでも瞬時にネットで配信され、ウエッブで増幅され、様々な第2次配信者による色付けがなされた状態で永遠に残る。次回話題になったとき、全有権者は自由に随時にそれを何千回でも再現でき、既存メディアの得意技である「報道しない」という世論操作はもはやできない。報道しなければそのこと自体を国民は「印象操作だ」と認識し、確実にその政治家の「負の印象」が不可避的に固定化する。やればやるほど学習効果によって強固に固定化する。ウソだった公約は、公約内容は忘れても「嘘をついた」という事実は永遠にクローズアップされる。そのころ、1か月に1冊も本を読まない有権者は7~8割になっており、ネット依存は決定的になっており、オンライン選挙への移行から逃げようがどうしようが、投票行動にそれが影響を及ぼさないはずがないのである。

それはリスクを伴う政治判断をする場合に政治家に不利益とも考えられるが、その時点で是であると国民も考えたならそういう形で記録されるので結果が非と出ても傷にはならない(それこそが民主主義だからだ)。つまり政治家は国会で民意を問うという当然の義務を果たせばよいだけだ。それを無視した岸田政権が党議拘束をかけて強引に押し倒して通したLGBT法案決議の悪評は強固に記憶保持され永遠に許されないが、それは民主国家における自業自得という一例にすぎない。つまりそういう政権は悪評と共に潰される非業の末路を迎える。その事例が増えれば失政のステレオタイプとして国民の脳内に蓄積し、それを喚起するネットの書き込みがあふれて印象を増幅し、それをした政治家は投票されなくなって落選するだろう。未来に誰がどう言おうと俺は構わない、強引に権力を奪おうという政治家には抑止力にならないかもしれないが、どういう人間を当選させるとそうなるのか、これからの国民は中高生あたりから多くの事例をネットで見聞きして学ぶことができ、反復のシミュレーション効果が表れ、やがてそういう兆候のある者を政治家に選ばなくなる。思考回路とはそういうものをいう。

衆議院議員も参議院議員も、すべからく自民党議員は選挙の顔をすげ替えなければ次の当選が危ないと懸念するのは昭和・平成の選挙の残り香である。周囲がそう考えて行動するのだから「美人投票」で生き残るには仕方ないが、恐らく、石丸氏はそう考えないだろうしそういう議員が増えるだろう。表紙が替われば悪書が良書になるなどという場末のマジックショー並みの安いトリックは、候補者の知名度とテレビの露出ぐらいで投票するしかなく青島幸男や横山ノックが知事になった時代の遺跡だ。そういう結果を民意がもたらしたのだから当時の有権者がその程度だったということだが、ネット情報で新しい思考回路をもったこれからの有権者はそうはいかないだろう。デパートの包装紙であれば何を贈っても喜ばれて安心だというのは昭和の話で、デパートの方が消えていく今ではナンセンスなのである。喜ばれるのは中身だ、本当に良いものだけが生き残る。

以上を書きながら思い出したのは、コロナが出てきた2020年の8月に書いたブログ「ジャイアンであるためにジャイアンな政府」だ。ロンドンで生々しく体感し、我が政治観の原点になった「サッチャー政権と英国民の民意の関係」についての論考である。僕は彼女のしたことを支持するし、基本的に小さい政府を良しとするが、それがサッチャリズムという呼称と共にネオコン、新自由主義に姿を変え、こともあろうに社会主義、共産主義に近い思想に摺り寄せられて解釈されたことには大きな違和感を覚える。彼女はエスタブリッシュメントの巣窟である保守党で異例の中流の出である。英国では議員の世襲は親の地盤を継げないなどフェアな制限があるがクラス(階級)にそれはないためにいじめにあった。田舎の雑貨屋の娘はまず階級と闘争する必要があったのである。しかしオックスフォード大学で化学を専攻した彼女の知性と意思は非常に堅牢だった。周囲をメジャーでないユダヤ系の切れ者の登用で固めるという策で切り返し、国柄を変えるほどの大改革を成し遂げた。大政治家でなくて何だろう。戦争を仕掛けた是非はあろうが、あのころ、ロンドンの空気はというとまるで13連敗してプライドがズタズタだった2017年の読売巨人軍みたいなものであり、フォークランドを取り戻したことがどれだけ国民の士気を上げたかわからない。これに勝利してそれまで不人気だった政権支持率は保守層のみならず労働党支持の大衆においても急上昇した。クラス社会、男社会を正面突破した彼女の看板は「女」でなく「鉄」だ。「初の女性総理」が売りなどというくだらないうたい文句は、その空虚な意味のなさにおいて「初の43才」と何の相違があろう。鉄はサッチャーの学識、知性、意思、決断力そして何より愛国心に与えられた称号だと僕は思う。

ジャイアンであるためにジャイアンな政府

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自由が丘を走っての軍事的雑感

2024 SEP 16 1:01:15 am by 東 賢太郎

人間ドックで体重を5キロ落とせと言われた。2年ご無沙汰だったのは採血と胃カメラが嫌なのもあるが、コロナ入院から解放されて安心してしまっていた。その間にあれだこれだの数値がメタボ級になっており「このままだと糖尿まっしぐらですよ」と脅かされ、「5キロ落とせばみんな戻るでしょう」と励まされる結末に至った。ものぐさなのでシンプルな解決が好きである。よし、それならという気になった。

土手で転んだ傷もきれいになった。夜の9時ごろからのジョギングを再開したが、川は懲りたのでとりあえず自由が丘を目ざすことにした。この街、通過はすれどよく知らない。故中村順一が近くなので詳しく、行きつけの緑道沿いのナポリタンの旨い店とバーに行ったぐらいか。通りの表裏に居酒屋、ショットバー、あまり気取ってないイタリアン、フレンチもあったりと、世間ではこじゃれたイメージがあるが、江戸の老舗や個性的な中華などはないからあんまり興味ないというのが本音である。

駅前のロータリーから東横線のガードをくぐる。ラーメン屋、てんぷら屋のあたりにかけて看板やチラシを手にした男女がずらっと並んで客引きに忙しい。このごちゃごちゃした小路、「美観街」とあるがウィットだろうか。「自由」ってのも「なんたらが丘」ってのも、この辺は東急が開発するまで野っぱらだからで、良くも悪くも毒がない。新宿、渋谷、池袋あたりの裏路地のヤバそうなムードはないが、水清くして魚棲まずの感無きにしも非ずである。新しい街の住人はみな「移民」である。地縁がないからつき合いも希薄で共同体より個の意識が強い。ざっくりいえば、徳川時代の江戸だった東京の北東は村社会的で、南西は都会的だ。都会は個を気ままに貫けるが助け合いより競争的である。

自由通りの方に進むと、やおら高校生らしき男女が道にあふれ出てきた。9時半を回ってる。線路のあたりに駿台、河合塾、四谷学院、Z会などがこうこうと明かりをともしており、一斉に授業がはねたものと思われる。あたりに幼稚園の予備校まである。一緒に祭りの神輿をかつぐなんて土地柄でなく、都会の住民の子たちであろう。クモの子を散らすように猛スピードで暗がりに散っていった彼らは、本当に勉学が好きなのか親の管理下でそうなってるのか。ふと思い浮かべたのは「猫カフェ」だ。あんまりじゃれない猫たち。奔放にお客に嚙みついたりひっかいたりすると営業に向かないのだ、可愛そうにともう行ってない。

面白そうなのも見つけた。朝8時閉店までどうぞ、気絶するまで営業します!という人情居酒屋だ。こういうのがあるだけで元気をもらえる。それにしても徹夜で焼酎飲んで朝飯食って帰る奴ってどんなだろう、よほどの時差ボケか昼夜逆転した人か、いやいやそれでも普通は朝まで飲まないだろう。あんまりまじめなイメージはないが人間は面白いんじゃないか。イタリアみたいだなあと思う。奴らは明るくて遊び好きだ。クソまじめなドイツ人より面白いと思っていたらそのドイツ人だってアルプスを越えるとなぜか明るくなると自分で言ってたっけ。オペラやサッカーが11時ぐらいにはねてから騒いで朝帰りなんてあたりまえで元気であり、それでも優秀な奴がたくさんいたし、そんな中からヴェルディもプッチーニも出た。間違いない。人間力をつけるのは断然遊びだ。

このあたりに住んだのはプライベートは静かな処でと思ったからだが、転んで死んでても朝まで発見されないぐらい静かである。時に人恋しくなる。そういえば浅草は良かったぞ。演芸やお笑いが好きで仕方ない連中がたむろす人情味どろどろの世界で、恋も喧嘩もいいじゃないか、人間は持って生まれたものを全開にして生きた方がパワーも出るし幸せだ。落語、義太夫、見世物、そんな地酒、どぶろくの中にワインみたいなオペラを持ってくるとスッペのボッカチオが「ベアトリ姉ちゃん」に化ける。種子が根づいたのは鹿鳴館じゃない、パワー全開で人間くさい浅草だった。いやスッペなんてウィーンのどぶろくみたいなもんで、そういうかっこつけない生き方こそ正統派と思う。

明治の大衆はエネルギッシュだった。これがあったから日本は強国になれた。廃藩置県で幕藩体制が壊れ、刀もちょんまげも取り上げられたのだから武士の剣術でそうなったわけではない。ただ武士の子は藩校という世界に例のないエリート養成学校で幼時から文武を叩きこまれ、文にも武にもインテリジェンスのある傑物がいた。米英仏の口車で再三そそのかされても内戦をせず、無血開城で江戸を火の海にしなかった西郷と勝はそれであり、植民地にされる瀬戸際で命を賭したからそうなれたのであり、こういう者をエリートという。ガリ勉していい地位について国を売ってでも私益だけは守ろうなどという者を大量生産するなら、それは教育と呼ばない。

日本は西洋から船で来れば最も僻地である。米国からも遠い。外圧を防ぐ地の利はあったが、それでも薩長は大変にアウエーである英国と戦火を交え、ホームで大敗を喫した。弱かったからではない。徳川の世で戦さがなくなり、種子島の火縄銃を数日でコピーする知恵と器用さがありながら技術を進化させるには欧州に周回後れをとっており、気がついたらアームストロング砲の時代だったからである。だから両藩のインテリジェンスに攘夷などという言葉は最早ない。公武合体派の薩摩は薩長同盟で倒幕に切り替え、そこに「尊王」という定冠詞をまぶし国民国家の宣言となる王政復古の大号令を発して慶喜を賊軍に押しやった。我が国に王政の時代などなかったからこれは官軍の旗と同じくフェークであったがこういうことはやったもん勝ちである。

欧米は日本の何倍も大きい中国の解体を狙い、日本はそのための闘犬に仕立てるべく開国させて不平等条約で囲い込む戦略で一致した。明治新政府の「富国強兵」とは武器開発の後れをリカバーし、犬でなく人に昇格するインテリジェンスであり、これなくして不平等条約のタガがはずれることはなかった。その証拠に、英国が条約改正したのは日清戦争に勝って軍事力を認めてからである。これを愛国ともいえるが、犬扱いされた人間の当然のプライド、自尊心である。それを勝ち取るには軍事力が必要。きれいごとではないこと、実効性があることを北朝鮮が実証している。さらに闘犬は猛々しく露西亜も破り種子島での能力が伊達でないことを見せつける。これは欧米を恐怖させ、ワシントン海軍軍縮条約で主力艦の総トン数比率を米・英・日・仏・伊の軍縮に至り、対英米6割という屈辱を甘んじて受けたものの三大列強の一角になったのだから驚くべきことだ。戦後の高度成長は朝鮮特需であって新技術、新製品があったわけではない、まったくのアメリカさんの都合、棚ぼたであり、それを短期に供給できたことぐらいだ。我々が真に世界に誇るべきは近代国家の創成期に、短期間に軍艦建造大国になった工学力、つまり理系の技術である。

戦艦大和(左)と武蔵

この過程で米国が将来的な仮想敵国となるであろう事を軍部は強く意識した。統帥権干犯問題を盾に単独行動を強化し、国際連盟脱退、ロンドン海軍軍縮会議脱退から巨大戦艦の「大和」と「武蔵」の建造を開始、そして、その行く末に対米戦争に至るのである。この戦争の終結において米国は総トン数から核弾頭数へと武器のフェーズを更新し、英国を蹴落として世界覇権を奪取した。それをもたらしたのは核開発に枢要な理系人材の確保であり、敵国ドイツでナチに殺されかねなかったアインシュタインらユダヤ人物理学者を迎え入れアメリカ国籍も与える戦略をとった。同じことが音楽界でもおき、ユダヤ系のワルター、クレンペラー、シェーンベルクなどが続々と米国に亡命した。日本は法律も科学も欧米から輸入しひたすら翻訳、コピーした。だから東大という富国強兵のための官僚を作る大学の学部は法医工文の序列になり、法は不平等条約改正、工は軍艦や兵器の製造(工学部が大学に入ったのは日本だけだ)、文は洋書の翻訳だった。いまだに序列はそのままだ。東大法学部卒は海外へ出ると何でもないが国内では幅を利かすルーツはここにある。

政治家に理系がおらず、そうでなくとも思考訓練をしていればいいのだがそれもなく、ド文系が国を支配しているルーツも無縁ではない。これは「世の中は理屈じゃない」と神風を信じる日本人の精神構造そのものにも膾炙しており、政治家に理系が揃う中国はそれを是非とも温存させたいだろう。日本は欧米の科学を迅速にコピーして世界をあっといわせたが、それにかまけて最先端の基礎理論から自らの手で新技術を生むことを重視しなかった。ナチスに迫害されていた多くのユダヤ人にビザを発給し、彼らの亡命を手助けしたことで「東洋のシンドラー」と呼ばれた外交官、杉原千畝がいたのだからドイツ人物理学者は日本が保護する可能性もあっただろう。核爆弾はドイツも日本も研究しており、先に開発すれば広島・長崎は救われた。こういう手は奇策でも謀略でも何でもない、いわば喧嘩に勝つ悪知恵を考えて巧妙に手を回すインテリジェンスであり、米国ならCIAが堂々としてることで、だからその “I” が名称に入っているのである。杉原の善行を汚すことにはならない、なぜなら外国との虚々実々の立ち回りはそういうもののオンパレードであることは外国に住んで厳しいビジネスをした者にとっては常識であって、それでこそ国も助けた、国益に資する行為だったとなり、日本人は侮れぬと一目置く国際評価になるのである。「日本人はいい人だ」ではなんにもならないのだ。

くりかえす。米国にあって日本になかったのは情報(information)以前に諜報(intelligence)だ。真のインテリがいなかったのである。こういうことは学校でも塾でも教えない。わかるのは喧嘩や野球をしたり麻雀をしたりの「遊びの場」であると実体験から僕は確信する。秀才だけ何人いても国はだめなのだ。神国日本を信じ、理屈が嫌い、欧米が嫌いで反知性主義に傾きがちな保守的国民もそれで良しとした。そして、その嫌いな最先端科学技術で無抵抗に殺されたのである。無学の大衆は仕方ない、これは文系エリートの大失策である。最強の武器を持てば襲われることはない。自ら襲うことをせず日本人が古来より誇る賢さと謙虚さで生きていけば国民は安寧に生きていける。保守的国民、大いにけっこうだ(僕もその一部ではある)。しかしこれぞ幕末の「尊王攘夷」なのである。薩長は幕府に先駆けて英国と殴り合いの喧嘩をし、勝てないと知った。これがintelligenceであり、勝てない喧嘩をするのはただの馬鹿である。半藤一利氏は薩長史観を否定し尊王攘夷は倒幕の口実とする。その結果起きた戊辰戦争は暴徒と化した新政府軍の東北、越後への侵略戦争になってしまったという部分は同意するにせよ、薩長が動かねば国ごと英米の謀略と武力でじわじわと侵略され、明治維新などと美名がたつ国造りなどおぼつかなかった可能性がある。

「大和」と「武蔵」。僕は英国のヨークにある鉄道博物館で、新技術だった電気機関車にとってかわられる前、1938年に時速203キロを記録した最新式蒸気機関車マラード号を見た。この数字は驚愕だった。

ヨークの国立鉄道博物館に展示されているマラード

マラードの速度記録銘板

ひとめで「戦艦大和」だと思った。奇しくも大和の起工は1937年である。英国の凋落、米国の勃興の象徴。新幹線ができる26年前に200キロ出した機関車を生む技術、安全走行させる保線技術もが世界一でないはずがない。きかんしゃトーマスのスペンサーとして今も愛されており、現在もマラード号の記録は破られておらず、ギネス世界記録にも「世界最速の蒸気機関車」として認定されている。しかし、電気機関車の出現で1963年に消える。時代遅れの技術で最先端に立っても意味ないばかりか、依存してしまえば自信をこめて国運を過つのである。世界に冠たる大和、武蔵は世界一のスペックを誇る戦艦であったが、完成したその頃に海戦の主役は戦艦から空母機に代わり、沖縄へ向かう途上に多数の米軍艦載機による攻撃を受けて鹿児島県の坊岬沖で撃沈された。だから国民を安寧に生活させるためには常に最先端で競って勝っていなくてはならないのは自明であり、なぜ2番じゃダメなんですかという馬鹿な女が政治家をやり、1番は保安官におまかせなどという精神構造が国民にできてしまえば、それだけで国家の滅亡は予定されたようなものである。

いま海軍軍縮条約は核軍縮条約になり、国際法はあっても拘束力は何もない。無法者が何千発でも核弾頭を装備しいつでもミサイルをぶっ放せる中で核保有なしというのは、西部劇で「殺し合いはいけません」と銃を持たない処女ばかりが住んでいる清廉な街のようなもので、それが今の日本である。守ってる保安官は実は自分たちを襲った奴であり、そいつは他の街で喧嘩を煽って何十万人も殺してる。こんなお人よしの街はないだろうというと、世界史上に前例がひとつだけある。カルタゴだ。案の定、いちゃもんをつけられ保安官のはずだったローマに撃ち殺されて歴史から消えた。いま総理になるとかならないとか言われてる連中はカルタゴの名前ぐらいは知ってるんだろうか、いやそれも危なそうだと不安になるのがちゃんと総裁候補に用意されているではないか。イケメン俳優で台本どおりにもっともらしくセリフを吐くのだけがうまく、何も考えずに保安官が飲み食いしまくった領収書を経理部である国会に通すだけ、それでも国民から人気をとる芸がうまい。すばらしい。保安官からすれば、日本国民から税金を巻き上げて何も考えずに自分に貢いでくれる、そういう壮絶な馬鹿をおだてて総理に祭り上げてもらうのが何よりありがたい。幸い国民はそこまで馬鹿でない。そんな職業に就きたくないから傑物が政治家にならない。政治は互助会みたいなファミリービジネス化して、ビジネスだから株主利益追求が目的となり国民の命などどうでもよい。これを変えるに派閥潰しなどは国民の目くらましで何の意味もない。我々は真剣に選挙制度を根底から変えないとだめだ。西郷や勝のような傑物が政治家を志し、金も地位もない身でも総理大臣になれる制度を作ろう、そういう国会議員、まずそれに命をかける議員を選べばいい。

自由が丘で夜の9時半まで塾でがんばってる子たち、勉強は大事だよ、塾通いも結構。しかし勉強は偏差値を上げるためじゃなく、インテリジェンスをつけるためにするのだ。ぜひエリートになってください。

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あなたの年代の男がいちばん危ないの

2024 AUG 28 0:00:25 am by 東 賢太郎

最近、夕食後に2~3キロ走っている。9~10時あたりだとそう暑くもなく、なにより暗くて人通りがなく、昼間の俗事を忘れて空っぽになれる。坂道が多いので汗をかく。時に全力疾走も入れてみたりするが心肺ともに問題なく、俺はまだまだいけると自信がわいてくる。

ところが昨日、その自信を粉々にする事件があった。多摩川台公園下まで何事もなく走り、公園脇の坂を登ろうか、それとも川辺の歩道に降りようかと迷った。べつにどっちでもいいのだが、たまたま伊藤貫さんのyoutubeを見ていたら西部邁さんと仲が良かったと語っていた。両氏とも思想的に割合近くて僕は敬意をもっており、西部さんが自裁されたのがそのあたりであったのでなんとなく手を合わせていこうという気持ちになった。

そこで、多摩堤通りの信号を横切って、3,4メートルの高さの堤防から川辺に下る土を削った階段を降りた。足元は暗い。数段を下ると思ったより急勾配であり、足が疲れてるせいかけっこう勢いがついてしまった。まずいと思ったがもう止まらず、前方は草むらでよく見えず、やむなく、この辺で地面だろうとぴょんと飛んだら全然そうでない。つまづいて前のめりになって砂利道に叩きつけられ、ぶざまにひっくり返ってズルズルと体側で路面をこすってやっと静止した。

要するに、半ズボンでヘッドスライディングしたわけで、左足の脛(すね)と左ひじを盛大に擦りむいた。電灯に照らすと血まみれ泥だらけである。電話して車で来てもらい、家内に応急処置をしてもらったが、まだずきずき痛い。おかしいなと田園調布病院に電話しておしかけ、「遅くにすいません、みっともないこって」と頭をかくと、若い医師とふたりの看護師さんがやさしく対応してくれ、ピンセットで線状の傷口にめりこんでいた小石を除去し、消毒ガーゼを貼ってぐるぐる巻きにし、念のためにと破傷風のワクチンまで打ってくれた。コロナのときの聖路加もそうだったが、日本の医療は実に安心だ。

楽しみだった週末の温泉は問答無用で没になった。家族は大騒ぎになり、箱根で一緒の予定だった従妹に電話して謝ると、旦那も何日か前に階段で落ちたらしい。「ね、ケンちゃんわかる?あなたの年代の男がいちばん危ないの、そうやってみんな過信して病院行きになるんだから」と懇々と説教された。

それはそれでありがたかった。僕は何事も前向きにしかとらない。能天気でも楽天家でもないが、とにかく後向きにはとらない。だからこの怪我もきっと良い予兆であるか、あるいは、凶事を避けられた、守られたんだと思えてしまう。医師が「骨は大丈夫ですか」と心配した傷だ、あの勢いで頭を打ってたら死んだかもしれないが、死んでないんだから良かったと思える。そうでない人も、この性格は無理してでも作るべきだ。なぜなら、本当に人生で得をするからだ。僕には思い出したくないたくさんの禍々しい失敗や不遇や凶事があった。しかし、後になってみると、実は、それがなければあのラッキーはなかったじゃないかということが非常に多いのだ。なぜかは知らない。たぶん、そういう風に生きていると勝手にそうなる。それがはた目にはツキがあるね、持ってるねということになる。

多くの国の多くの外国人と働き、どういう人たちかを知っている。断言するが、彼らを基準としてみれば日本人の9割は心配性であり、はっきり書くと、ビジネスの世界においてそれはうつ病や心神耗弱に近い。大きなリスクに対してなら結構だが、ちまちまとくだらないことに気をもんだり批判を気にする空気に負けて「石橋をたたいて渡らない」なんて寂しいことになってる。国中が国民的にそうであり、本来あまり気をもまなくていい国家がプライマリーバランスをたてに金を使わないと民間は委縮して失われた30年などとクソくだらない小言を垂れてる。その間に先端技術や半導体で世界に大きく後れをとってしまっても他人事のようにやばいと思わない民間の「石橋わたらない根性」というものは、棒で突っついても飛ばない死にかけのカラスみたいなもんで、こっちを誰も批判しないことの方も、世界の目線からすると病気である。株や土地を中国人が買い占めて怪しからんと騒ぐのが保守だなんてわけのわからんことを言ってる。経済安保とそれは全然違う。死にかけの獲物は簡単に捕獲できるからジャングルでは食われるのが当たり前であって、それが嫌なら彼らは江戸時代に戻って鎖国しろと主張すべきである。

食われんようにちゃんと経営して株価を上げろが世界の常識だ。実体価値より値段の高い株など犬も食わぬ。ビジネスのビの字も分かってない連中が馬鹿の一つ覚えみたいに財務省、日銀が悪いって、自由主義国家で役所が頑張って経済を成長させるべきだなどと言う議論は、国が女性の少子化担当大臣を任命すれば子供がたくさん生まれるというおバカな議論といい勝負だ。人間は平等にできていて、青い鳥は誰にも同じだけ飛んで来る。心配性の人は確実にぜんぶ取り逃がす。前向きな人は十回来れば九回は逃がしても一回ぐらいはつかまえる。人も国も、成功者になるかどうかはそれで決まると言ってまったく過言ではない。ユニクロの柳井さんが著書「一勝九敗」でおっしゃるのはそういうことだ。少数精鋭で経営しろとも語ってる。その通りだ。多数の馬鹿の空気と合議制でやってればいずれ全部のカラスが外資に食われる。

「あなたの年代の男がいちばん危ないの、みんな過信して病院行きになるんだから」。そうだけどビジネスマンに過信は大事なんだ。だって取れると思わないと鳥は取れない。危険だから取らなくていいと細く長く生きる人生と、取りに行ってすっころんで早死にするかもしれない人生なら、僕は後者を選ぶ。ただ、みんなに迷惑をかけないように、暗い階段を走るのだけはやめよう。

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