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カテゴリー: ______グローバル経済

中国発の株暴落について(追記あり)

2015 AUG 25 18:18:12 pm by 東 賢太郎

相場というのは過去の経験則があてはまる場合とそうでない場合があります。現在の下げは後者の感じです。中国という震源地が世界をこれほど揺るがすという経験がないからです。

米国株も日本株も特に安いレベルではなく、理屈で十分に納得できないけど強いから買うという、やや気持のよくない領域にありました。中国株が不安定なのは数か月前からで、特に今になってと言う理由は見当たりません。FRBの金利上げへの不安という米国の要因とシンクロして、売りを仕掛けやすいタイミングだった背景があると思われます。

不景気になると戦争という悪しきパターンがありましたが、今は戦争でなく世界同時株安がそれにとってかわる。しかし中国株は空売り規制が入る管理市場だから外人が売り崩すのは難しく、自由度の高い日米欧がどすんと下がってそれを見て経験の浅い中国人がびっくりして売るというパターン。その環境が熟したということでしょう。びっくりで売っているのが素人だから先が読めないのです。

中国のGDPのうち23%は不動産関連(ムーディーズ)で、無計画な開発を受け、空き室率は15-23%です。それだけでも経済成長率に疑問符がついている上、不透明な金融による貸付の信用リスクは膨大と思われ、この火薬庫に引火するとこわいというのは衆目の一致するところ。空売り筋は他市場のショートポジションが中国人に不安を生み出して大爆発を誘発し、上海総合指数が2000なんてことになると大儲けになる。

資金量さえあればそういう比較的リスクの低い仕掛けができるのだから、やるでしょうね誰かが。ただやった人間も、ことが内部事情や統計値に信用のおけない中国だけにその先に何が起こるのかが読めないだろうし、何か想定外のことで反転が起きて大損する可能性も否定できない。僕はそういう認識です。だからポジションの巻き戻しが早晩に起こりたぶん大惨事にはいたらないでしょう。17400以下は買いと思います。ただそれも経験則だから火薬庫引火だとはずれます。NYが止まるかどうか、つまり金利をどうするかがカギになりそうです。

(追記・8月26日12:43)

中国の金融緩和はプラスです。しかし元安誘導しないといけないとは本当にへたっているということで、中国が世界の牽引車という僕のビッグバンシナリオはもはや歴史にすぎなくなったことが確定しました。ポイントは米国です。経済指標はなんら変調なし。だから戻ります。FRBが何か出せば、それによって一時的な振れはあっても。ボラが上がったというだけのことで(だからvixも上がっていて)、それは上記の「やや気持のよくない領域」の滓を落すためのものです。そこは買いでしょうね。

(2016年1月17日)

中国株は「中国ビッグバン現象がもはや終結し新しいフェイズに入っている」という認識に立脚して考えないと間違える。大貧民ゲームというアーブはほぼ終わったのである。西欧がそれ以外から富を吸い上げてきた過程でその蓄積速度を計測する概念であった「経済成長率」なる数値で中国経済を語っても、もう有意な示唆は得られない。

(次はこうなる)

株の乱高下こそウエルカム

 

 

 
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中国人の爆買いが教えること

2015 JUL 9 1:01:29 am by 東 賢太郎

西室兄がこのブログでいい指摘をしていて

そこにコメントとして書いたことが重要と思っている。「日本のプレゼンスが上がる気がする」、これは同感だが、待っていればそうなるわけではない。

先日、鳥取県の境港に4700人乗りの客船が突然やってきて停泊した。「クォンタム・オブ・ザ・シー」という名のクイーン・エリザベスⅡより大きい豪華客船で、乗ってたのはほとんど中国人観光客である。なぜかというと上海、博多、釜山というルートの予定だったクルーズがMERS騒動のため釜山寄港が取り止めとなり、代わりの港を探したところ境港が受け入れたということだ。乗客の目的は買い物だ。港に近いイオンモールが電化製品、クスリ、化粧品、お菓子などを積み上げ、その村の3400人の人口をゆうに上回る4700人の中国人が大型バス10台で押し寄せて爆買いとなった。ひとり10万程度としても5億円の売上になる。

春秋航空によると上海発関空行きのエアバス320(189人乗り)の平均乗客率は95%で、一人平均40万円の買い物をする。1機飛んでくると7200万円ばらまいてくれることになる。こうした行動の背景には商品のクオリティだけではなく、それを管理、製造、流通、保管、値づけなどする日本のシステムへのトータルな信用がある。輸入すればいいじゃないか?誰でも思うことだ。違う。間に中国人が介在しないことが大事なのだ。

待ってれば来るじゃないか!日本のプレゼンスは上がってるぞ!

そうだろうか?よく考えてほしい。その5億円や7200万円はどこから来たんだろう?中国人は火星から札束をかかえて飛んできたのか?

そんなはずはない。そのお金は誰かが中国人に支払ったものだ。中国からモノやサービスを買った人だ。それは誰?中国人ではない。なぜなら2000年まではこういうことは起きていない。外国人だ。どうして?中国が2001年からWTOに入ってグローバル・ルールで貿易(モノ・サービスと貨幣の交換)を大々的に始めたからだ。鎖国を解いたといえばわかりやすい。

僕の先祖は貿易商で、江戸幕府が日米修好通商条約に調印して横浜を開港すると即座に生糸を外人に大量に売って大儲けした。私財を寄付してそれで横浜市や熱海市が水道やガス灯を作ったほど儲けた。それと同じことがこの10年、中国の沿岸部の都市で起きた。鎖国を解くとそういうことが起きるのだ。ざっくりいうなら沿岸部の4-5億人が、つまり日本国4,5個分のひとが、日本人なみか一部はそれより格段に金持ちになったのである。そうしてより豊かな生活を求め、日本に来て爆買いをしているのである。

もう一度問おう、そのおかねはどこから来たの?

外国だ。おかねは無限ではない。輪転機を回す?おかねは増やせるが価値が落ちるから買えるものは一定だ。それを購買力という。中国人が巨大な購買力を持ったということは、すなわち、誰かが巨大にそれを失ったということだ。

それが誰かは特定できない。中国から何かを買っておかねを渡す国々すべてだ。直接買うかどうかはともかく、素材や部品を入れれば世界にメード・イン・チャイナ製品が入ってない国は皆無であるからアフリカに至るまで全員が買っている。なぜ?安いからだ。なぜ安い?賃金が安いからだ。つまりアフリカで最終製品が売れればアフリカがお金を中国に支払い、中国の工場で月給7千円ではたらく女工さんがアフリカで雇われたのと同じことになる。

つまり、中国人は世界中で「間接的に」雇用され、当地の労働者はその分の職を失ったという厳然たる事実がある。これは日本でも起きたことだが、実は、貨幣経済という目には見えないグローバルのチェーン(鎖)によってつながり、地球の裏側でも同時に起きている。仕事をした者におかねが手渡され、その者が働いた分に見合うモノを買えなければその鎖は切れる。だからそうならないように為替レートというものが変動して、中国の工員さんは10年にわたってお金をもらい、購買力を高めることができたのである(その為替レートを購買力平価という)。

もう明白だろう。中国人の爆買い購買力は先進国から移転してきたのである。

そのツケが回った先進国では、そのしわ寄せが最も弱い国に回る。これも自明だろう。弱い、何が?経済力だ。経済力ってなに?いいものを安く作って高く売る力だ。日本はその力が充分にあったが、購買力平価をかけ離れた円高によって安く作れなかったから負け組だった。こういう経済原理を知らない政党と浮世離れの左派経済学者と日銀総裁が経済力をめちゃくちゃにしかけたが、お鉢がまわった自民党によってからくも一命をとりとめた。日本は去年は世界で一番上がった株式市場になったがあたりまえだ。

安くも作れないし高くも売れないし、そもそもいいものを作る能力もなければ努力もない国は失業が増え、経済力が失墜し、税収が減って国家が破たんする。これもあたりまえだ。だからピンポイントに終点同士を点と線で結べば、ギリシャのような先進国の末端にいた国が大負けして、中国人に爆買い資金を供給しているのである。まさかそんなこととは知らないギリシャの人々は自国政府やEUをこきおろす。そのどっちが好きですか?が先日の国民投票なのであって、どっちが好きになっても実はなんの解決にもならないのだ。

日本は爆買いで漁夫の利をえたぐらいで安心してはいけない。ギリシャがコケるとこれまた貨幣経済というグローバルな鎖をつたって地球の裏側でも何か良くないことが起きる。日本の評価がいろんな方面であがっているのは円安で安いから行ってみよう、買ってみようという力のドライブがあり五輪の期待もある。その反面でエネルギーや食品や武器を日本人は高く買わされるという負の面がでてくる。本来通貨は強い方がトータルに得なのであって、弱いからお得なんていうものの理にかなってない利益が国家の長期繁栄を約束することはない。

日本に追い風は吹いてるから形成は有利だが、敵がレッドカードで10人になったにすぎない。攻め込めば勝てる確率は高まったが、オウンゴールを待っても勝利は永遠にやってこない。

 
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IOTはネコを救うかもしれない

2015 JUN 27 2:02:44 am by 東 賢太郎

昨日は世界のCPUシェアの3割を持つ英国のI社N副社長とパーティーでだいぶ長いこと話しました。話題はIOT(モノのインターネット、Internet of Things )です。

IOTとはパソコン類以外のモノをインターネットに接続することですね。スマホは既にそれだしテレビ、デジカメ、DVDプレーヤなどデジタル情報家電はもちろん、家具や自動車など身の回りのあらゆるモノに埋め込まれたセンサーがインターネットに繋がり、相互で通信が可能になる技術や仕組み、状態のことです。

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先日、家内はゴルフで不在。僕が出勤して家は留守になりました。電車に乗ってからです。まずい、居間のドアを閉め忘れた!居間にはノイが寝てましたが、起きて廊下に出るとセコムが・・・。時すでに遅しです。ネコの背丈なら大丈夫ではと思ったが甘く、ガンガン鳴ってしまったようで、かけつけていただいたセコムのかたにご迷惑をかけてしまいました。「原因はネコちゃんでした」とやさしく報告書を書き置いてくれて救われました。しかしかわいそうにそのネコちゃんは警報に驚いたうえに知らない人が入ってきてまた驚き、すっかりびびってしまいました。

こういう時、IOTは便利でしょう。経産省もこれに注目しているそうで、日本は一大市場になるだろうとのこと、副社長は毎月英国から来日しているそうです。良いことばかりでなく、ハッキングによる個人情報流出の危険がありますからセキュリティ対応が肝要とのことでした

ネット社会化で我々の日常はどんどん進化しています。自動車の正確な位置情報と自動操縦プログラムで人間による車の運転はいらなくなるでしょう。車は走る「スマート・コネクティッド・プロダクツ」となり2025年には500億個の世界のモノとクラウドでつながります。企業が売るのはハードではなくソフトとサービスになりますが、その先駆けがスマホ業界と思えばわかりやすいでしょう。

これは生活を変え、人間も変えます。定型的なソフトは「コンテンツ」という名で呼ばれ、聞こえはいいが、企業から見れば売れればなんでもいい十把一絡げの商品になります。バナナのたたき売りです。バナナ(コンテンツ)をまじめに丹念に作る費用対効果は低減しますから、文化は劣化するのではと危惧されています。

電子書籍と紙の本、中身に違いはないですが製造コストは電子化でほぼゼロだから単価は下がります。版権が切れればただで読めてしまう。ユーザーには福音といえますが、「ただ=客寄せ効果」によって広告料収入を得るというビジネスモデルは文化を犠牲にする危険があると僕は思うのです。書店数は毎年着実に減っており、よく行った渋谷の2大店は両方消えました。

人間にも家ネコにも便利な世になるのでしょうが、やがて来るIOT時代に生まれた子供はどんな大人に育つんでしょうか。

 
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ピーター・タスカ氏の投資セミナー

2015 MAR 18 19:19:59 pm by 東 賢太郎

某運用会社のセミナーに出席してきました。スピーカーはTVでおなじみのストラテジスト、ピーター・タスカ氏です。赤坂サカスの会場は満員で、同社のファンドの投資家さんの熱気であふれていました。

タスカ氏はオックスフォード大学卒業後、1980年代に英系の運用会社の東京駐在として日本株のリサーチをされ、逆に僕は同じ時期にロンドン駐在で日本株の営業をしてました。場所は違えど同じ穴のムジナであって、同じ1955年生まれということもあり講演後の夕食ですっかりうちとけました。

彼の持論は、インフレの時代は世界的に終わっており長いデフレとの闘いになる。格差が広がりそれは政治家には死活問題になるため低金利は長期化せざるを得ません。原油安で物価は上がりませんから2%のインフレターゲットまで黒田総裁はQEをやり続けることになります。

すでに円安の効果というのは大きく、例えば英国の地方都市のホテル代が円建てだと東京のオークラの2倍だそうで、逆に日本へ来るとものすごく安く感じる。だから中国人が殺到して大量に物を買って帰る。つまりその分日本企業の利益も大幅に増えているそうです。これは国内ではなかなか実感しにくいことです。

ただ世界の株式は米株がちょっと高いのを除くとどこも安いということはないようです。今後の利益成長率が株価上昇をドライブするということです。

日本企業の問題点は資本を持ちすぎてROEが上がりにくくなっていること。だから自社株買いを発表すると株価はすぐ反応します。これをもっとやるべきだという主張でした。

概ね僕も同じ意見であります。終わってから、中国のインフラ投資基金にイギリスだけ参加したけどまずいんじゃないですか?と聞いたら「イギリスは二股が得意なんです、でもアメリカに怒られちゃいましてね」と笑ってました。ロシアについては僕と全く同じ見方で感心しました。

夕食は元駐ベトナム全権大使閣下の服部様もおられ、アジア情勢につき非常に興味深いお話を賜わることもできました。

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頑張らない人が報われる社会

2015 MAR 6 10:10:40 am by 東 賢太郎

先日TVで元経産省で経済評論家の岸 博幸氏が「いま女性が結婚すべき男の3条件」をあげていた。それによると、

①直感で動く ②先例を無視できる ③ヤンキーでオタク

だそうだ。なかなかいい線と思う。①はどの分野でも必須の能力だし②は彼が官僚経験者だから特に思いがあるのかもしれない。ヤンキーは知らないが「オタク」を入れたことは大賛成だ。悪い意味に使われるが、人間の大多数を占める凡人が異種、異能の人々を揶揄した用語と感じる。トーマス・エジソン、ヘンリー・フォード、豊田佐吉、松下幸之助、井深大、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズみんな少年時代は立派なオタクであり、同時に持ちあわせたスケールの大きさで大輪の花を咲かせた人たちだ。

普通の人が世渡りのうまさで生きられるのは万事が予定調和で満たされる平時の話である。一等国の通貨が一気に40%も暴騰・暴落したり、国が潰れたりするかもしれない時代だ。予定調和はおろか、来年世界経済がどうなっているか誰もわからない状況で、寄らば大樹の陰という選択はない。不倒不滅の大樹に見えるものこそ先に朽ちて倒れる可能性すらあるからだ。

世界貿易に参加した中国がたった10余年で5億人がスマホを持つに至る時代である。2015年には中国のインターネット利用者は6億人となり、ネット利用者数は圧倒的な世界第1位でランキング2~10位の9カ国を合計しても及ばなくなる。何度も強調するが、ゼロサムの世の中で中国が吸い取った富も職場も他国には戻ってこない。10年前の欧米や日本の「大企業」こそ失う張本人で、そこにまだ成長があるとカン違いして人が集まれば10年後は「才能の墓場」と化しているだろう。

頑張った人が報われる社会

頑張った人が報われない社会

と書いてきたが、「頑張らない人が報われる社会は、そのような世界経済の不確実性、あるいは最近はやりの表現を使うなら資本主義の変質・衰退によって、どの国家がどんな政策を試みようが、経済に内在する原理によって根こそぎ無くなっていくだろう。まして、それを促進しようという政府、政党は弱者救済を謳いながらかえって弱者の生存力をさらに弱くするだろう。

なぜなら、そこでリスクを取らない人、動かない人、決断しない人、寄らば大樹の陰の人は安全だというのはもはや神話になるからだ。自分は動かなくても地面の方が動いていって、気がついたら立っていた場所は危険地帯だったということになりかねない。動かない人は感性、感度も鈍っていて、地面の動きには気がつかない。むしろまっさきに犠牲になる人たちだ。

一方、オタクで動かない人はまずいない。自分の好きなことへ向けて、周囲がどうあろうと勝手に突ききすすむ性質の人間だからだ。これからは彼らの生存率の方が高い。結婚相手にオタクを選びなさいという岸氏は正しいと思う。①直感で動く②先例を無視できる、はオタクにとっては当然のことでもあるので自明の条件だ。

国税庁の企業生存率統計によると、50年生き残る企業は0.7%しかない。これは一理あって、オタクであった創業者がハンズオンで指揮するのは長くて30年程度だ。そこで世代交代がおこり、創業者の個性によってではなく彼が築いた「ぴかぴか光るブランド」に魅かれて入社してくる人が多数派になる。その「ブランド入社組」が管理職を占めるのがおよそ20年後だ。それが創業50年後の経営の姿なのである。

ちなみに、オタクは「ブランド」では就職を決めない。自分のしたいことができるかどうかが最大の決定要素だから、仕方なく入っても辞めてしまう。その結果としてブランド企業は「ブランド入社組」がだんだん優勢となり、「成績優秀な普通の人たち」ばかりの集団になる。オタクにはますます魅力のある職場ではなくなってしまう。

そうして創業者が退くころには普通の人の経営ガバナンスが優勢となり、経営陣のどのひとりも創業者に匹敵する人はいないという状態になる。リーダー不在ゆえに誰もリスクを負わない共同統治体制が好まれ、現場にいるオタクの提案を評定(ひょうじょう)する会議体になり、「やらない理由」「できない理由」を探すのが仕事になる。

1995年からのデフレ経済は小田原評定専門の経営陣には福音のような環境だった。失点しないことが大事というゲーム環境だ。ブレーキを踏むコストカッターとコンプライアンス・オフィサーばかり出世し、創業者の衣鉢を継いだオタクやアクセルを踏む人はむしろ体よく排除され、「Sクラスのベンツに1000ccのエンジン」という車ばかりになってしまった。

日本という国はできない理由を探すのが得意な人が圧倒的に人口比の多い国である。これはたぶん江戸時代に優勢となった遺伝子で、明治維新でやや後退したが、太平洋戦争の敗戦で完全復活した。だから国策として、できる理由を探す人、つまり経済のドライバー、牽引車となる属性の人を大事にして育てないといけない。

私見では、大学教育や大卒という肩書は根底から見直されるべきだ。先生の失業対策で作ったような大学が入試のバーを下げて学生というお客さんを集めるナンセンスな行為は、就職できない大卒を増やして若者を食い物にするだけだ。学問の府としての大学は存在すべきだが、これからの世界経済環境は「高楊枝の武士」は必要としない。

我が国が中国に食われずに食っていくために何をするか?徳育と職業教育しかない。中国人に負けない「手に職」をつけ、これから世界を席巻するだろう「日本人の徳」を備えた人を作れば怖い物はない。職業教育には、エンジンになる経営者を育てる教育も含まれる。明治時代の洋学の延長ではないものを教える学校で、「藩校」のイメージに近い。

僕は1997年のダボス会議に出たが、そこでビル・ゲイツが「これからの時代は、どこの国に生まれたかではなく、何を学んだかで生涯年収が決まる」と予言していた。その通りの21世紀になってきている。大学教育は米国ですら変質を迫られ、スティーブ・ジョブズが大学中退であることがそれを象徴している。欧米の学者をたてまつる翻訳・コピペ文化の日本の大学教育がいまのままでいいはずもない。

理想的なのは、戦争を経験した世代、つまり80才代の経営者が藩校を作り、自らの事業体験を教え、奨学金を与え、人脈を継承させ、すぐれた新規事業プランを無から生む人材を育成することだ。未来の経済成長のエンジンとなる人材が学ぶべき先生はもはや大学教授でもなければサラリーマン経営者でもない、すぐれたオーナー経営者だ。

生きるか死ぬかの時代を勝ち抜いた彼らの体験こそ今の学生が里程標にするべきものだ。なぜなら無から有を生み事業化したプロセスにこそ価値を生み出すすべての英知が凝縮しているからだ。それを真似るということではなく、そのエッセンスから不確実な時代を生きる知恵を抽出し敷衍し実行する。胆力が必要なうえに高度に知的な作業でもある。少なくとも、それができる人が失業するということはない。

日本には欧米と違ってすぐれた徳をもったオーナー経営者がたくさんおられる。欧米が強欲という気はない、それは資本主義で当然のことだ。そうではなく、日本的な徳というのはその名のとおり日本独特のものであり、松下幸之助や稲盛和夫のようにそれを伝えることを私財で行動に移された方々も多い。彼らから資産税をまきあげて、事業経験のない官僚がその金を使うより彼らが体験を次世代に継承するために使った方が事業をやりたい若者には役立つだろう。

藩校の優秀な卒業生は、オーナーの企業の幹部候補生になるか、オーナーが起業の出資者つまりエンジェル投資家になってくれる。それが卒業証書になる。強烈なインセンティブになって競争原理が働くだろう。就活など無縁な学校になる。そんな学校があったら、まず真っ先に集まりそうなのがオタクだ。オタクを教える元オタクの先生も集まる。その集団こそすでに魅力的な企業の種だ

くりかえすが、オタクこそが21世紀の経済を牽引し、国の宝物となる人材、結婚相手に選ぶべき人材なのだ。資金のない彼らが資本家に直結する場が与えられ、資本家はエンジェル投資家として長期的にリターンが得られる。卒業生がどこに就職したかではなく、何人が自社を上場させたかが藩校のステータスを決めるようになるだろう

これは35年実業をやってきた者としての直観である。

こんな藩校が増え、世の中に認知されてくれば、日本経済は21世紀にわたって競争力を維持できる。リスクを取らず「いかがなものか」ばかり言うつまらない人が支配する世の中は変えられ、頑張る人が報われる社会がやってくる。それどころか、21世紀のトーマス・エジソン、ヘンリー・フォード、豊田佐吉、松下幸之助、井深大、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズが日本から出ることだって充分に可能性があるだろう。

 

Why not ? のすすめ

 

 

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頑張った人が報われない社会

2015 MAR 1 3:03:37 am by 東 賢太郎

ピケティのデータベース The World Top Incomes Database によると、日本の所得上位1%は2010年時点で総所得の9.51%を得ており、このような推移を見せている。

584f687d-s戦前より大きく減り、90年代より少し上昇しているが、ドイツは10%、英国12%、米国18%であり特に高いわけではない。元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一氏は、

筆者がテレビで「日本ではトップ1%に入る所得は年収1300万円」と発言したことが、ちょっとした話題になった。発言した瞬間、出演者やスタジオの関係者がみんな凍りついたのだ。格差問題を報道しているテレビ出演者たちは「トップ1%」なのかという驚きだったのだろう。米国のトップ1%は4400万円であるが。

と書いている。「ちなみに日本のトップ10%、トップ5%の年収はそれぞれ576、751万円だ。これも予想外に低い数字だろう。」とあり、富裕層への課税強化となればトップ10%が対象だろうが、年収576万円と聞くとはたして高額所得者と思えるだろうか、と疑問を呈している。

日本人の平均年収は225万円だ。前回書いたように中国ビッグバン現象で労働市場の価格破壊がおこり、日本人が貧乏になった分だけ中国人がリッチになって秋葉原で「大人買い」をしているのである。懸命に仕事をしても賃金が低いとなると「頑張った人が報われない社会」になってしまう。若者の雇用を促進すべく、年功序列、終身雇用といった硬直的な労働市場の改革が急務である。

一方で金融資産を見ると、我が国は米国の7900兆円には遠く及ばないもののそれでも1654兆円もある。だからピケティの指摘する「資産による格差」(r-g)がさぞかし大きいだろうと思ってしまうが、冒頭の彼のデータベースによると、トップ1%の平均年収2145万円にキャピタルゲインを加えると2354万円とあるので、一人当たりたったの209万円(収入比9.7%)しかない。

なぜかというと、これが原因だ。米国と日本の金融資産のありようは気が遠くなるほど劇的に違っているのである。

gn-20141225-01

米国人は金融資産の約3分の1も株式を持っており、比較的株式投資には控えめなユーロ圏すら17.1%を持っている。株と投資信託と加えると米国は約半分にもなる

ところが、我が国では株式はたったの9.4%とユーロ圏の半分しかなく、アメリカ人が株・投信を所有しているのとほぼ同じ比率を現預金で持っているのである。従って、米国に比べればr-gの格差効果はピケティに心配してもらうほど甚大でもなんでもない。むしろ、自国の株が2倍半にも暴騰しているのに、儲かったのはほぼ外人だという国民的機会損失の方がよほど心配である。

遅きに失した感はあるが、投資教育こそこの馬鹿らしい損失を今後は減らす唯一の方策である。所得が少なく資産が小さい人でも1万円で株やETFは買えるし、REITを買えば小口でも不動産のオーナーにもなれるのだ。日本人は明治以来、欧米に追いつこうと頑張ってきたはずだ。どうして株式を資産に組み入れることは追いつこうと頑張らないのだろう?

株価が史上最高値を更新する米国で資産の半分近くを株で持っている人たちがリッチになって銀座のクオリティの高級寿司屋がニューヨークで大繁盛するのはもっともなことだ。ご本家の銀座で金持ちが食っているといって、格差だ、けしからんというのはちょっと違うんじゃないか。

投資の勉強とは証券会社のいいなりになることでもネットのくだらない書き込みを読むことでもない。証券セールスが本当に株式をよくわかっているわけでもなく、むしろそうでないことの方が圧倒的に多い。本当にわかっている人に教えてもらうのが一番リスクがないし早い。

わかっている人というのは学歴やキャリアではなく、投資歴、戦績で見ないといけない。Security analysisを知っているべきだが、学校で教科書的に習わなくても実践的にその本質を理解している賢い人はいくらもいる。学歴など何の関係もないと断言してもいい。だから大学では教えないし、教えたくないのだ。自分の権威が傷つくので。

投資を勉強することも「頑張る」うちだ。「頑張った人が報われない社会」は発展しないが、頑張る人とは何事も自分で勉強し、リスクを取ってトライする人のことをいう。

 

頑張らない人が報われる社会

 

 

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東大で人気の経済学講義

2015 FEB 23 12:12:54 pm by 東 賢太郎

(1)リスク分散ではゲームに勝てない

講義そのものをきいたわけではないが、東大の伊藤先生の経済学が学生に人気だそうで、まあそれだけではないだろうが、インフレで資産を減らさない方法は資産分散だと教えているらしい。それに関していえば当たり前の話で、どの米国の投資初心者本にも書いてあるので大学で教えるほどのものとも思わないが、正しいことは正しい。

しかしちょっと気になることがある。「減らさない」とは「増やす」ことではない。増やすにはリスクテークが必須であり、先生はそうしろと教えているのだろうか。資産分散は野球なら「守備を固めろ」ということだが、1点も取れなければ勝てないのは自明のことだ。

「いやそんなことは言ってない、銀行で利子がつくだろう。それが得点1だ。」ということか。しかしその利子は現在ほぼゼロであり、仮にインフレになってもそんなには上がらない。ちなみにピケティも同じことを言っていて、資本家だけが銀行利子よりもっといい利回りを得ていると主張している(それがr>gの意味だ)。

「いやそんなことは言ってない、分散すれば株や金だって資産に入るのだ」ということか。ではどの株を買うんだろう?トヨタなのかアップルなのかロシア株なのか?

学生の皆さん、そんなことは学者に聞いても誰もわからない。「そこから先はバクチだ」という答えが返ってくるのが落ちだ。上がるか下がるか?それは神のみぞ知るだ。だからこそ分散が大事なんだといっているんじゃないだろうか。

(2)ウォートン・スクールではそれをどう教えるか?

そうならば米国の教授法と決定的に違う。ウォートンのMBAコースには「Security analysis」という、学問とは言わないがれっきとした学科がある。証券分析論とでもいうもので僕も履修してみた。要するに「トヨタなのかアップルなのかロシア株なのか?」を業界動向や財務諸表等から分析・予測する授業だ。自分で株価予想モデルを作ってコンピューター上に実際の株価で仮想ポートフォリオを運用し、学期中に学生同士でパフォーマンス競争するというものだった。

ここで伊藤先生の「分散理論」が登場する。ポートフォリオ(複数の株が入った資産)は自分の収益モデルから選ばれた銘柄が30-50入っている。それは自分が「儲かる」と思っている資産なのだが、個別の銘柄は個々に上がり下がりするからそのブレが固まって不測の方向に行って不測の結果をまねく(要は大損する)リスクを緩和したい。だから銘柄数を多くして「分散」するのだ。

つまり、分散はまず「儲けたい」が先に厳然とあるのであって、それの安全弁(セーフティネット)として存在する。この理屈を頭に叩き込まれている僕には、「儲ける方法」(Security analysis)を教えないでディフェンスだけ教える東京大学経済学部や、キミらはどうせ儲けられないから格差社会は税金で解消しようと教えるパリ経済大学はとても不思議な、なんか世捨て人のような存在である。

(3)Security analysisを勉強すると株で儲けられるようになるか?

当時ウォートンでこれを教えていたメンデルスゾーン教授はたしかソロモンかモルガンスタンレーの役員だったが、実業でそれを実践しているプロフェッショナルでもあった。絵に描いた餅の学問だけやる人ではない。しかし本当にそれで確実に儲かるなら彼は大学教授も証券会社も辞めて自分でヘッジファンドを作って自分のために運用し、その儲け方は絶対に他人には教えないだろう(皆がやると利益率が落ちる)。

彼が学校で教えていること自体が、そんなうまい方法は世の中にないという証拠でもある。それは株式運用する人間の基礎学問であり、プロで知らない人はいないというだけであって、メジャーリーガーが子供にキャッチボールを教えてくれたみたいなものだ。プロ野球をやりたいならそれが正確にできないといけないよ、そんなものだ。それができたからといって名選手になるとは限らない。

(4)じゃあSecurity analysisなんて学んでも意味ないんじゃない?

そうではない。キャッチボールできない人が野球のグラウンドに立つのは生命の危険がある。Security analysisも知らずに株式投資をするというのは、それこそ単なるバクチになってしまってやはり危険なのだ。だから必要最低限の心得として教育しておこうという授業である。

キャッチボールは平等に教える。そこから先は自分でチャレンジし練習しなさい、そこでついた差は仕方ないよ、キミの自己責任だからね、恨みっこなしだよ、ということだ。これが「機会均等」の考え方である。

お金持ちになる機会は均等、平等にする。誰もが成功するわけでないことは最初から皆が分かっている。そこで同時に、「失敗しても被害甚大にならない方法」=「セーフティネット」の作り方も教える。それがポートフォリオの「分散理論」なのだ。

この考えの背景には、人は誰でもそれなりの資産を持って楽しい人生を送りたいよね?という保守的で自由主義的な思想がある。ハートは左翼のフランスのインテリも「財布は右翼だけどね」というジョークがある。つまり、さっきの喩えでいえば「誰だってグラウンドで野球したいよね?」っていうことだ。

(5)セーフティネットだけこだわる日本

「リスク分散だけしなさい」というのはおかしい。別に金持ちになりたくはないが一応ある程度の資産を持ってしまった人向けのメッセージに聞こえる。野球選手などなりたくないが、仕方なく野球場に来てしまった人だ(なぜなら株も持たないと「資産分散」にはならない)。

そこで東大はキャッチボールは教えずに、客席に飛んできたファウルボールのよけ方だけ教える。最初から野球選手ではなく観客になりなさいと誘導するようなものだ。ピケティは野球なんて体のでかい奴しかできないから不公平だ、奴らの年棒を下げて入場料も安くしようじゃないかという。

なんか変じゃないだろうか?

この「攻め」は教えずに「守り」を教えるメンタリティというのはリスクテーカーを軽視する思考回路が支配している感じだ。日本ではこの回路の持ち主なのに仕事で運用しなくてはいけない「野球選手」になってしまった不幸な人たちが競って国債を買っている。郵貯、銀行、保険、年金でその例外を探すのは気が遠くなるほど無理だろう。国債では2%ですら回すのはまったく困難だ。でも彼らは野球なんてできないしやる気もないのだから、怪我しないこと、それだけが目的みたいになってしまう。

ところが良く考えてほしい。JGB(日本の国債)ばかり資産の7割も8割も持つというのは、投資理論では最もリスクの高い投資方法のお手本のようなもので、まさしく伊藤先生が「やめなさい」といっていることであることはここまで読んだ皆さまはもうお気づきであろう。怪我したくないからいちばん安全な国債で運用してますといいながら、実はいちばん怪我しやすいことを気がつかずにやっている。申し訳ないが、おりているのに役満に振り込むへぼ麻雀みたいだ。

前回のブログに書いた元部下のT君は灘高で学年2番で数学オリンピックへ出て東大は理科1類だったが、卒業してすぐゴールドマンサックス証券に入社した。税金で学ばせておいて外資にトップの人材を取られてしまう。優秀な子ほど、いま僕がここに書いていることを見抜いているのである。

なんか変じゃないだろうか?

 

(6)日本の野球場のバックネットはでっかい

ちなみに本当に日本の野球場のバックネットはでかいのをご存じだろうか。メジャーの球場、ヤンキースタジアムやリグリーフィールドへ行ってまずびっくりするのがバックネットが小さくて、ほんの申しわけ程度みたいなのしかないことだ。ファウル・チップだけは危ないからそれだけ防ぐようになっている。それ以外は自分でよく見てね、当たったら君が悪いんだよということだ。

このバックネットなるものが字義通りセーフティネットそのものだ。日本はこれがでっかい。その上、「ファウルボールには十分ご注意ください」とアナウンスがあり係員が飛んできて誰も球に当たってないのに「お怪我はありませんか?」ときいてくれる。ご注意も何も、野球観戦というのはボールのゆくえを見るものなんでそれを怠って弁当を食ったり後ろ向きで踊っている人の心配までしなくていいだろう。

しかし、この姿勢こそが、バックネットの経費や係員の雇用を正当化してくれるのだ。学者はインフレになったら資産は20-30%も減りますよ「十分にご注意ください」とおどかしてバックネットを大きくする。インフレになれば株は上がるんだからどうやったら安全に儲かるか研究しようとは絶対に言わないだろう。株なんかと馬鹿にしている人にその話をするのは東大地震研究所にナマズの研究でもしませんかともちかけるようなものだし、自分の居場所でない所に国民の目が行っても何の取り分もないからだ。

そうこうしているうち、観衆はネットがでかいのが当たり前と思うようになる。これが今の日本を象徴する。危ないファウルボールは飛んでこない。国が何とかしてくれる。口を開けて待っていればお金が降ってくる。優秀な官僚とえらいセンセイが考えてくれる。国民はスポイルされ、寄らば大樹のたかり体質になり、ついに、「頑張らない人」が大量生産される。しかしそういう有権者を政治家は無視できなくなるから、バックネットをでっかくする側ににとっては安全、安泰なリスク分散になるのである。

(7)「頑張らない人も報われる社会」は国をつぶす

僕は「みんな野球をやりましょう、楽しいよ、そうすればカンも良くなるから大丈夫、観戦に邪魔なネットは小さくしようね」と言いたい人間だ。機会均等にして皆が株式投資を勉強すればいい。まず自分で「頑張る」こと。セーフティネットも自分で学んで作る(可能だ)。そうすると、「頑張らない人」とは長期戦で資産に差ができるはずだ。

現に今がまさにそうだ。株なんか自分は関係ないと言っている人は、申し訳ないがこの2年で7千円から1万8千円と2倍半になったのに自分にはちっともいいことがなかったと文句を言っても仕方ない。政府は「株を上げますよ」と異例の株高警報まで発したのだから、それに乗れなかったといってアベノミクスを批判するのもおかしい。

買いたかったがその余裕資産1万円すらなかったという人はセーフティネットが必要な人かもしれない。一概にはいえないがその人はきっと税金で保護が必要な人でもあるのではないか。意志はあっても機会がない、それこそが格差であるからだ。機会があるのに自分の意志で無視した人にセーフティネットは不要だし、提供すべきでもない。

「頑張らない人も報われる社会」をつくりますというのは、税金を使って頑張る人のやる気を削ぎましょうという行為そのものであり、百害あって一利ない。ギリシャ人は税金を払う人は馬鹿だと思っているらしい、とんでもない国だといわれている。違う。そんなことを言う方がとんでもないのである。

それは公務員の職が何かのお礼にもらえたり、世襲であったり、また、お金で買えたりすることを国民が知っているからであって、その公務員が国に何人いるのか4年前に数えたのが建国以来初めてだったという政府にお金を払うのはどぶに捨てるようなもんだと知っているからだ。きわめて合理的な判断なのである。

「社会的弱者」と「自分の意志で頑張らない人」とは全く異なる人たちであり、頑張らなくてもいいですよ、どうして2番じゃダメなんですか、ゆとり教育で行きましょう、などといって頑張らない人が増えると自分の居場所もできるという政治家や政策にだまされると、結局はだれも居場所がなくなるのである。

(8)教育の機会均等こそが金科玉条である

ピケティを読んで、ひとつだけなるほどと思うのは、資本家の代々の資産継承が教育の機会均等を損なうのは問題としていることだ。これはその通りである。ウォートン・スクールでMBAを取るにはたぶん1500~2000万円は必要だろう。機会均等を謳いつつも米国ではSecurity analysisを誰でも学べるわけではない。

それを知っていても必ず儲かるわけでないと書いたが、知らないと損するリスクが高いのは事実だ。分散を知らないと危ないことと通じる。長いこと投資をすれば差は歴然とついてしまうのだ。株のキャピタルゲインはロスした人からの利益移転だから、知らない人つまり比較的貧しい人からリッチな人がお金を吸い上げる構図になる。これは格差を広げるだろう。

それゆえ、投資リテラシーを向上させる教育は大切なのだ。証券詐欺にひっかかる人もそれで減るだろう。東大でだけ教えるなど言語道断で、それこそピケティの指摘する格差を助長する行為である。僕は大学ではなく、誰でも無差別に閲覧できるネット教育が良いと思っている。もちろん限りなくコストは低くしないといけないだろう。それは民間だけではなく国のリーダーシップがあった方が効果が高いと思う。

 

 

頑張った人が報われる社会

 

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頑張った人が報われる社会

2015 FEB 19 20:20:33 pm by 東 賢太郎

安倍首相が「頑張った人が報われる社会にする」と国会で答弁した。これは非常に重要な言葉と思う。

それがなぜかを説明するには、少々長くなるが「デフレが金融現象だけで起きたのではない」ことをご説明する必要がある。

(1)世界を変えたユニクロ・モデル

ぜんぜん難しいことではない。デフレは中国が2001年にWTOに加盟したことで財市場を通じて低価格の労働が輸出され、世界の全ての国の労働市場の需給が緩和し、賃金がさがった。これが総需要を押し下げたからおきたのだ。

それが誰でもわかるとても簡単な例をお示ししたい。

中国にいち早く進出したユニクロ(社名はファーストリテイリングだが以下ユニクロと書く)は上海郊外の工場で激安の労働力を使って縫製した商品を日本で売って成功した、価格破壊の先駆者である。中国人の女工さんを物理的に日本に連れてきたわけではない。当初のころ月給がたったの7千円だった彼女らは「商品に乗って」やってきたわけだ。

すると、上海工場で雇った30人の女工さんの代わりに1人の月給21万円の日本人工員さんが職を失っている。そうしないと企業はそれをやる意味がないから、あからさまにやるかどうかは別として、いやむしろあからさまに見えないように企業努力をしながら、必ずどこかでそれは起きていることにご注意いただきたい。

同じ人件費で30倍の数のジーンズができるのだから他社もどんどんやる。企業にとってはそうしないと負けて倒産してしまう。他の業種も同じことを始める。こうして10年ほど前に「空前の中国進出ブーム」と新聞に書かれたのは記憶に新しいだろう。

(2)ちょっと待ってよ、中国の人件費が安いのは大昔からでしょ?

もちろんだ。これが国民経済的規模でできるようになったのは、中国が2001年にWTOに加盟・調印して西欧の貿易ルールを守りますと国が保証し、先駆者ユニクロのような賢明なリスクテーカーだけでなく普通のコンプライアンス意識の企業も安心して工場進出できるようになったからだ。

つまり、一人当たり人件費が1:30という、帝国主義時代の植民地か奴隷制のころでしかありえなかったような労働市場が国のギャランティーつきで忽然と地球上に出現した。琵琶湖ぐらいの水量があって、100mもの高低差のあるダムの水門を一気に開いたようなイメージを持ってほしい。これが2001年におきたことであり、今や中国は2兆ドルと世界最大の輸出国であり、この水流の影響を受けない国は世界中どこにもない。

ユニクロを退職した日本人は別な会社で職を探す。ところが業界中でそれは起きてくるからその職はどんどん減っていく。月給20万円でも仕方ないだろう。こうして国内の労賃は1万円下がる。新聞には「不景気による労働市場の需給の緩和」と載る。そうではない。ユニクロはジーンズの値段だけではなく、国内の労働市場でも価格破壊をしたということだ。

これがブームになって国民経済的規模で起きた。工場や職場で自分のデスクのとなりに中国人が現れたわけではない。最近は中国語がそこらじゅうで聞こえるようになったと言ってもデパートか観光地の話だ。しかし、目には見えないだけで、実は工場ごと中国人に入れ替えというような事態が10年前からそこらじゅうで始まったのである。非正規雇用の増加というものは、これが工場閉鎖や雇い止めにいたらず姿を少し変えた現象だということがご理解いただけるだろう。

(3)これは製造業だけの話でも日本だけの話でもない

例えば、多くの米国のサービス業でコールセンターを、賢くて英語がうまくて賃金は安いインドに作る流れとなっている。電話をしているアラバマ州の米国人顧客は、自分の町の明日の天気まで教えてくれるオペレーターがまさかムンバイでネット予報を見ながら話しているなどと想像もしない。この陰で、ユニクロ現象と同様に非製造業においても米国のオペレーターは失業しているのだ。

失業したり手取りが減るかもしれない労働者は消費は控える。すると企業は売上予想を下方修正して設備投資を減らすが、生産設備はそのままである。わかりやすく極めてシンプルに言ってしまえば、これがめぐりめぐって国内総需要が供給力を下回り、デフレになったのである。循環的なものではなく、構造的なものである。

そこでGDPの6割は個人消費だから経済成長率は落ちてマスコミは「景気が悪くなった」と騒ぐが、景気のせいでデフレになったわけではないことにご注目いただきたい。だから政府の景気対策なんかいくらやってもデフレは退治できないのであって、アベノミクスが金融緩和という非常手段を持ち出したのは理論的に正解なのである。

(4)ユニクロが悪いわけでもないし止められる者は誰もいない

資本が国境を超えて安い労働市場を求めるのは成長するために当然であり、国家がそれを止めることはできない。ここが一番大事なところで、見誤ってはいけない。「仕事がないぞ!国はなにをやってるんだ!」と永田町でデモをしても仕方がないのだ。なぜならそれは国の責任ではないし、国はどうすることもできないからだ

これをよく覚えておいていただきたい。「柳井社長、失業が増えるし景気も悪くなるんで製造は国内で日本人でやってください」なんてことは絶対に起こらない。もし馬鹿な政権がそんな法律を作ったら、優秀な経営者は全員が日本から逃げ出すだけだ。国内には税金をたくさん払ってくれる企業はひとつも残らず、格差社会は見事に解消されるだろうが一億総中流ではなく一億総下流と中国にいわれているだろう。国家財政は破たんして、弱者救済どころか国ごと弱者になるのである。

ちなみにファーストリテイリング社の株価はこの10年で5倍になった。今の円建ての金利は気が遠くなるほど低く、徳川家康が預けた100万円の定期預金の利息がやっと10万円に達した程度である。従業員からすると大変な会社だが株主にとっては優良企業であり、労働者がこういう株を買ってはいけない法律があるわけでもない。株を保有すれば誰でも資本家になれるのであって、その方法を無視しておいて「株は富裕層しか関係ない」と批判するのは格差を階級問題にすり替えたいだけだろう。

(5)これは日本だけでなく、世界の労働者の問題でもある

世界で必要な職の数は世界のGDPが停滞すれば増えない。限られたパイを中国人が奪いだせばギリシャのようにはじき出される国が出る。はじき出されたのはギリシャという国ではない、国際競争力のないギリシャの労働者自身である。景気のせいでも政治のせいでも国家財政が破綻したせいでもなく、国民ひとりひとりの自己責任の集大成にすぎないのである。

国民のプライドがもたないから何とかしろとEUに詰めよるなどお門違いもいいところだ。ギリシャの解決策はたったの2つしかない。①国民ひとりひとりがそのプライドを捨てて生活水準を落とすか、②がんばって中国人より生産性の高い労働者になるかである。だからドイツは暗にそういって要求をはねつけている。

こういう時にはえてして、怒れる国民の代理人を装った、ファイティングポーズで威勢のいい政党や首相が選ばれる。中村兄が第1次大戦の戦後処理失敗の帰結と指摘しているヒトラーの出現がいい例だ。そして彼は戦争という禁じ手の第3の解決策に走り、国民を殺し、財産を剥奪し、国を崩壊させた。

つまり、はっきり書くが、国にはできないのだから「我が党がやれば皆さんの生活が楽になります」というのは論理的にあり得ない、要は、嘘八百なのである。国民の怒りに乗じて得票し、政権だけは乗っ取ろう、何をやるかは後で考えようという連中が跋扈してますます国をダメにするというのが歴史の教える国民国家の失敗の方程式であり、まさに我が国も2009年にその一例を歴史に書き加えているのである。

(6)では国家ができることは戦争以外にはないのか?

実はそうではない、もうひとつある。国民に牙をむいて資産を剥奪することだ。ギリシャの銀行預金の流出が止まらないのは銀行が傾いたからだけではない。一昨年にキプロスが危機を起こしたとき銀行に預金していたロシア人は預金封鎖を恐れてビットコインに換えて母国に送金した。今回のギリシャでも国など信用していない富裕層がまず預金を海外に移し、それで銀行が危ないということになっているのである。

政権を取るだけが目的の政党は必ず公約で「政策によって貧富の差を無くします」という。なぜなら政治は数で決まり、「富」のほうが数が常に少ないからだ。だから統一地方選向けに左がかった学者などを呼んできて格差社会などと騒いでいる。しかし数が常に賢いわけではない。この公約はオウムが朝にオハヨウと声をかけてくれるぐらい意味のないことで、いわば歴史的常套手段である。

貧富の差はいつの時代もいかなる国でもなかったためしなどない。それを無くしますと公約する政党が与党になっても、ちゃんと格差はできるのである。なぜならその政党の幹部が金持ちになるから、公約を果たせば果たすほど前とは違ったメンバーによって格差社会ができる。共産主義国のトップはみんな豪邸に住んでいたし、今の中国の最大の富裕層は共産党幹部であって何兆円という天文学的蓄財をしていることがちゃんとそれを証明している。そうなりたい人が権力を握りたいためのセールストークなのである。

(7)日本に世界レベルの富裕層などいない

僕が働いた金融業では米国の社長と平社員の年収差は数百倍もあって日本は証券トップでもせいぜい20-30倍なのだが、やや特殊な世界であるだろう。では日本の代表産業である製造業はどうか。下の図を見れば一目瞭然だが、その製造業を代表するトヨタの社長ですら日産のゴーン社長と比べてこんなものだ。

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同じ自動車業界だから、ふたりの差は何かというと「日本人か外人か」だけだ。日産も日本人社長には10億円も払っていたわけではない。英米で10億の人は日本でもそうしないと来てくれないよねということであって、ここまでひどいともはや人種差別に見える差である。

要は、トヨタ、日産クラスの社長は欧米なら10億円、日本なら2億円であり、金融業にいたってはそれは100億円と1億円の差になる。日本の高額所得者の年収などというのは世界的には「異常値」といえるほど低い。一方で、一般労働者の賃金は国際的に高いほうだ。だから海外に工場移転が起こるのである。「日本は格差社会だぞ」などと欧米でいえば、何か面白い日本ネタ・ジョークでも始まるのかと期待されてしまうのがおちというのが現実なのである。

だから、もし日本国が国民に牙をむいて資産を剥奪するようなことを目論めばギリシャの富裕層といっしょのことが間違いなく起きるだろう。日本は相続税で三代で資産はなくなるから富裕層になった人はおおむねそれなりに頑張った人である。では「頑張った人」の共通点は何かひとことで述べよといわれれば、「頑張った人も頑張らなかった人も同じだけ報われますよという国が何より嫌いな人」である。だから頑張ってトヨタの社長になっても「たったの2億円」というのは、もうその時点ですでに本当にできる人は海外に出ていってしまう数字だ。

以上、恐らくお読みの方には僕が非常に冷たい資本主義原理主義者で弱者切り捨て論者に見えているだろう。それを覚悟で書いたのは、まず起きていることの実態を論理的、科学的に解析すべきだからだ。「現実はこうだ、理由はこうだ」、でも「現実はよろしくない」、そこで初めて現実を少しでも良くするために為すべき方法論が選択されるのであって、「現実はよろしくない」からいきなりスタートする安直な思考では方法論を間違ってしまう。

(8)「起きていること」を復習しよう

資本は国境を超えて安い労働市場を自由に求めるが一般の労働者は国境を超えられない、すなわち、グローバルな資本市場とローカルな労働市場のねじれ現象が生じていて、それは昔からあるのだが中国のWTO加盟という巨大ダムの開門で加速して世界中の政府が看過できない所まで来ていて、賃金の安い方に資本は流れてしまうから旧体制に安住していた国ほど被害が大きいということだ。

ギリシャの例で、これを解決するには方法は2つしかないと書いた。①生活水準を下げる②生産性をあげる、である。残念なことに日本は②ではなく①の方に社会全体が向かいつつあり、若年労働者層ほどそれを強いられて国家全体が活力を無くす可能性すらある結果となっている。

(9)よく考えて欲しい。生産性をあげる、とは何か?

頑張ることに他ならない。中国人を低開発国のバロメーターと考えれば、中国人より生産性の高い労働者になることで雇用はされる。もちろん正規雇用である。中国人の賃金も当初より大幅に上がってしかも円安でもある。ユニクロで中国人の30倍のジーンズを縫製しないと負けてしまう時代は終わった。むしろ縫製の正確さ細やかさでは勝てるだろう。そう考えて頑張る人が報われる、それが会社だけではなく社会全体の仕組みとなれば日本人は必ず雇用を勝ち取ることができる。

大事なことは、それは民間がやることであって国家が法律や規則で強制することは不可能だというこだ。民間のトップにはかならず「頑張った人」「頑張って報われるための知恵のある人」がいる。彼らにもっと頑張ってもらい、企業には稼いでもらい、税金を払ってもらい、ノウハウやスピリットを次世代に伝え、社会にそういう若者が増えるように引っぱってもらうことが重要であり、そこから「弱者救済」という社会として絶対にやらなくてはならないことをやる知恵と財源が生まれてくる。

(10)「頑張らずに国にすがりつきたい者」と「弱者」とは峻別すべきである

弱者とは老人、病人など社会的保護なしには生活が危ぶまれる人である。健康で働けるが働く意欲が低く、国や役所や親が何かしてくれるのを待っている人ではない。働ける人は全員が自分の能力を高めて生産性を上げる努力をしなくてはならない。それが資源のない国が競争力を永続させるための必須条件であり、少なくとも昭和の日本人は言われなくてもそう考えたし、それができた。それだけでも世界でトップクラスの優等な民族であったことが証明されていると思う。

弱者救済、セーフティネットの整備を欧州か北欧なみに厚くするのはいいことだが、カネが余分にかかる。GDPの2倍も借金がある国がそれをやろうというなら国債発行に頼らない財源確保、つまり経済成長による税収の自然増というバックボーンなくしてそれをやるのは自殺行為である。借金の重みでいずれ国家財政のほうが破たんするだろう。「頑張らない人も報われる社会」を目指している政党がそれをどうやろうというのか知らないが、やるというなら頑張る人は逃げるだけで、結局誰も得をしないし救われもしないだろう。

(11)ではこれから我々はどうすればいいのか?

そこが一番重要だが、私見は今後書いていきたい。政治家でない僕たちは国家をどうすることもできないから、ひとりひとりがどう考えどうすればいいかということだ。しかし、書いてきたようにこれは我々一人一人の決意の問題である。まずは自分や家族や友人の幸福を考えるぐらいしかできないし、それだけでもできれば大変なことだと思うし、それができなければ困っている方々に本当の思いやりをさしあげることだって難しい。

僕が言うのもおこがましいとは思うが、世界の何千人という優れた方々とお金という本音の世界を通してお会いし、競争し、おつきあいしてきたという経験から、ささやかながら若者に教えたいことというカテゴリーに100本のブログを書かせていただいている。普通の父親はこういうことを自分の子供だけに教えるのだろうが、誰であれそれを託したいのは日本の若者だという信念から真剣勝負で書き持論として公開した。お時間があるときにお読みいただければ望外の幸せである。

 

頑張った人が報われない社会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「女性はソクラテスより強いかもしれない」という一考察

2015 FEB 15 18:18:34 pm by 東 賢太郎

 

二人の女を和合させるより、 むしろ全ヨーロッパを和合させることのほうが容易であろう (ルイ14世)

72年という最長の在位期間を誇り、私の中には太陽が宿っているとまで豪語した飛ぶ鳥落すフランス国王にしてこの言葉である。大変に奥深い。もしこの前段と後段が逆であれば、ブルボン朝はもう少し続いたのかもしれないとは思うが。

ギリシャがドイツに22兆円の戦争賠償請求したが旧友が電話で笑った。

「お前、あれってまるでウチの夫婦喧嘩だぞ。全然関係ない30年前の話が突然出てきてな、『そもそもあの時あなたは!』ってな。台風だからな過ぎ去るのをじっと待つしかないよ、ドイツもね。」

「しかしギリシャのあの政党、愛国は結構だがそれなら独立してまじめに働いて軍備強化というのがフツーの国だろ。外国からたくさんお金を取りますってのが選挙公約か?メジャーリーガーの代理人か離婚訴訟の弁護士みたいだ」。

と返したのは僕だ。あの党いわく、緊縮財政に屈していては国民の誇りが取り戻せないらしいが、ギリシャ人の誇りってそんなものなのか、それとも日本人にはわからない深いプライドの井戸でもあるのか。

僕は歴史で学んだ程度しかギリシャ人を知らないが、その範囲では尊敬しているから複雑な気持ちがする。無知蒙昧であった高校時代には「ソクラテスの弁明」を読んでもわからなかった。命乞いすれば死刑は免れたのにそれをせず、それが傲慢とされ死刑になったのがである。何か変だ。3つある。①命乞いしなかったこと②それが傲慢とされたこと③それで死刑になること。

①裁判員の無知に迎合せず、身なりや演説のうまいへたよりも真実だけを見ろという態度はPhil(愛する)+sophia(知恵)でフィロソフィー(哲学と訳されるが、逐語訳は愛智だ)の規範である。②そして、それをした人は少数派だった。愚衆の怖さが示唆されている。③そして、法が死刑というなら仕方ない、「悪法もまた法なり」。これは罪刑法定主義の元祖だ。

後日それを知り、僕はソクラテスのファンに、そしてこの書の熱心な読者になった。

そういえば6年前のある日のこと、今のギリシャ人はどうなんだろうかと部下のギリシャ人に尋ねたことがある。彼はもちろんソクラテスはみんな知ってますよといいながらしばし考え、その質問には直接答えず、こう弁明した。

「ギリシャ人にとっては世界の全てのことばの語源はギリシャ語です。だって世界中で It’s Greek to me. って言いますからね」

これは僕が人生で出会った最も機知に富んだジョークのひとつである。「それは俺にはギリシャ語に見える」とまともにとっているというおちょくりだ(本当はそれが転じて「わかんねえな、まるでギリシャ語だぜ」という意味)。日本生まれでハートは日本人、頭の中はアメリカ人でインテリの彼はちょっと自嘲気味であったのだ。

彼は哲学について、賢人によるこういう論理的考察を紹介もしてくれた。

「ぜひ結婚しなさい。よい妻を持てば幸せになれる。悪い妻を持てば私のように哲学者になれる」(ソクラテス)

これはすべての哲学者は悪妻もをっているということは意味していないが、後世になっても女の大哲学者は出ていないこと、ハイドンの悪妻も有名で女の大作曲家もいないことから、女房のわからない職業がいけないかもしれないという推論にたどりついた。証券マンはどうなのかという話に道がそれていったが、どうも危ない気もするものの頭から水をかけられた経験はない彼も僕も、もちろん前者であるという点で合致した。

その推論はあながち的外れでないことが後でわかった。『ソクラテスの妻』を書いた作家の佐藤愛子が「ソクラテスのような男と結婚すれば女はみんな悪妻になってしまう」と自説を述べているからだ。この説は「ギリシャ人はなまけものだ」と主張するドイツ人に有効な反対弁論かもしれない。

どういうことか。

国家主権はあるが通貨主権はない。これを前提とする統一通貨ユーロは、そもそも変なのである。本来は、緊縮しないといけないぐらい財政がおかしいギリシャの通貨ドラクマは下がる。すると海外から見ると輸出品やパルテノン神殿への観光費用は安くなって売り上げが増え、税収が増すことで財政が立ち直るのである。ユーロという統一通貨になるとそのメカニズムが働かない。

ところがそのかわりに、ドラクマ建てだったら売れないボロ国債がユーロの信用で売れてしまうという利点がある。下宿人が大家の名刺で借金できるようなものである。借金というものは期日が来たら返さないといけない。それが返せず大家に援助しろと迫って渋られると「30年前の話が突然出てきて、そもそもあの時あなたはって始まるんだよな」となっている。

だって結婚しようって言ったのはあなたじゃない!

有罪・死刑投票をしたアテナイ人諸君は、ソクラテスを死刑に処したという汚名と罪科を負わされるだろう。

ここだけ読むと身勝手な逆切れおやじだが、全部読めば僕はソクラテスの味方なのだ。ギリシャの言い分にはこんな深い井戸があるんだろうか?

しかし人間の理性というものにも限度がある。男が全部理性的であるということはまったくないが、泣き叫ぶ赤ん坊のようにどうしていいかわからない相手に対して女性ほどの忍耐力は持ちあわせてもいない。大家でありアテナイ人諸君でもあるドイツが、だんだんこういう気持ちになるんじゃないか心配になってくる。

私には女が象と同じように思える。 眺めるのは好きだが、家に欲しいとは思わない。(米国の伝説的コメディアン、W・C・フィールズ)   

そんなことになると世界経済に暗雲がたちこめてしまう。考えたくないがひょっとして、一途で生一本なソクラテスよりも、人生酸いも甘いも知ったルイ14世のほうが正しかったんじゃないか?

このチキンゲーム、先は全く読めないが、とりあえずのところ世界はドイツ国民の賢明な判断に拍手を送っておかねばならないだろう。それは首相に女性を選んでおいてくれたことだ。

(こちらもどうぞ)

男の子のカン違いの効用 (4)

日本の女性は世界一美しい

男の脳と女の脳

                                                                                                                                                                                                                                                                                            Yahoo、Googleからお入りの皆様。

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ロシア株について追記

2015 FEB 13 16:16:29 pm by 東 賢太郎

1月23日に緊急事態につき1週間ブログを休んだが、勘の良い方はお気づきだったが本業のほうでロシアの情報収集をしていた。現地に行ったわけではないが相手は主に英国、スイスなど旧知の友人、取引先などである。大変に有益な調査をさせていただいた。証券会社の話は意味がないのできかない。自分でロシアに巨額の投資をしている人こそ、我がこととしての本当の情報を持っているのである。informationは判断の邪魔になるだけで無益、いるのはintelligenceだけなのである。ロシア株インデックス(ETF)は今日一日でさらに4.2%急騰している。

しかしプーチン、ポロシェンコ、メルケル、オランドの16時間ぶっつづけ会談は想定外だった。本当に休憩なしだったらしい。3対1のプーチンは会談中ボールペンをぽきぽき折って威嚇しポロシェンコはびびりまくったらしい。ウクライナの通貨フリブナは昨日一日で3.1%下がり、この1年で67%も暴落している。

ギリシャの逆ギレでユーロ結束に火がついている独仏は対ロ輸出制裁で米国のロシアいじめに加担している場合ではなくなってきている。このままでは困るのである。プーチンはそれを見越して、停戦はしてやるがウクライナを連邦制にしろと脅した。ワンステップ置いて親ロシア州をクリミア式に自立させて乗っ取ろうという戦略見え見えである。

プーチン、メドベージェフと会ったある方いわく、プーチンは性根の座ったワルだ。メド君は女みたいなお小姓であるそうだ。つまりワンマンオーナーだから歯止めなどない。停戦協定といって武器を置いた瞬間に打ち殺す可能性があるからこれで安心というのは早計である。米国はそう思っているからウクライナに前線基地を作るだろう。

ウクライナといえば、あの冬季オリンピック開催地ソチはすぐ近くだ。そこから北海道と九州ぐらいの距離を南下すればあのイスラム国である。そんな所で去年はのんきにフィギュアスケートなんかをやって世界はわいていたのである。

こういうことはNHKのニュースなんか見ていても何もわからない。自分で相場をはっている人間だけが感知するものだろう。

 

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